【特別支援教育】ASDのお子さんへのことば・文字の指導
今は昔
もう20年程も前のこと
私が支援学校小学部にいた時のお話です。
重度のASD(自閉スペクトラム症)と知的障害のあるたけしくん(仮名)は小学部4年生。
話しことばでコミュニケーションを取ることができません。
辛いことがたくさんあるのに、辛さをことばで表現できないので、しょっちゅうパニックを起こしてしまいます。
私は、たけしくんと一緒に、「絵」と「ひらがな」を合わせるジグソーパズルをやってみました。
もし「物には名前があって、その音は文字と対応している」ということがわかれば、文字でコミュニケーションが取れるようになるかもしれない、と思ったからです。
パズル遊びはこんなふうにやります。
たとえば私が「リンゴ」と言いながら、たけしくんに「りんご」と書いた文字のピースを手渡します。
たけしくんは、そのピースがパチッとはまるところを探して、パズルを完成させます。
そうすると、「リンゴの絵」の下に、「りんご」の文字が書いてあるピースがはまることになります。
たけしくんは、パチッとはめる感覚が大好きで、来る日も来る日も一緒にしようとせがみました。
ある日のこと、たけしくんが突然、キラキラした目で私の顔を見つめ、満面の笑顔で、「お・お・か・み! お・お・か・み!」と言いながら立ち上がり、ぴょんぴょんと跳ね始め、私の手を引いて、黒板の前まで連れていき、黒板をポンポンとたたきます。
『ここに書いて!早く!早く!」と言っているようです。
私が試しに、黒板に「おおかみ」と書くと、もっともっととせがみます。
書くたびにきゃっきゃと笑って、跳ねまわります。
黒板中が「おおかみ」だらけ。
そう、たけしくんは、音と文字が一対一で対応していることに気づいたのです。
「お・お」と同じ形のものが二つあるときに、「お・お」と同じ音を2回言うのだ、ということに彼が気づいた「瞬間」に、私は出会ってしまったのでした。
なんという!!
私は、たけしくんと両手をつないでぐるぐる回りながら、ぴょんぴょん跳ねまわりました。
その日からたけしくんは、どんどんひらがなを覚え、文字を使ってコミュニケーションができるようになっていったのでした。
でも本当は、たけしくんは、「物には名前がある」ということをずっと知っていたのでした。
けれどもことばで表現したり、耳から入ることばを処理したりすることが苦手なために、周りの人間が、気づかなかった、ということです。
心の中に豊かなことばを持っているたけしくんに、私はようやく気付くことができたのでした。
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