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書籍レビュー『鳥類学者 無謀にも恐竜を語る』川上和人(2013)鳥類学者が書いた恐竜エッセイ

鳥類学者が書いた恐竜エッセイ

「恐竜は鳥の祖先である」

こんな話を聴いたことは
ないでしょうか。

本書の巻末にある解説を読むと、
「恐竜はワニの祖先である」
という説もあるそうです。

(巻末の解説は、
 恐竜学者・小林快次氏によるもの)

タイトルのとおり、
本書は鳥類学の視点から
恐竜が語られた本です。

タイトルには
「無謀にも」とありますね。

その名の通り、
著者は恐竜学の分野に
属する方ではないので、

あくまでも鳥類学者が、
妄想した「恐竜」の話でもあり、
分類としてはエッセイに
あたるものになっています。

しかしながら、
著者も「鳥類学」を専門とする
学者さんなので、

本書のまとめ方も
学術的な形に近い内容に
なっています。

それでいて、
語り口は非常にユーモラスで、
この部分にエッセイの雰囲気が
濃厚に出ています。

本題もおもしろいし、
本題から外れた話もおもしろい

著者は数年前に
『鳥類学者だからって、
 鳥が好きだと思うなよ。』
という本で注目されました。

私自身は、
この本は読んだことがないのですが、

書店で見かけた時に、
意表を突いたタイトルと装丁で、
とても記憶に残っています。

そんなこともあって、
本書を見かけた時に、
思わず手に取ってみました。

本書もタイトルがとても、
インパクトのある内容に
なっていますね。

実際に読んでみると、
タイトルに「無謀にも」
と付けられたのは、

著者の謙虚さによるところも
大きい印象です。

文庫本のカバーの袖にある
著者の写真を見ると、
中折れハットにサングラス、

という「学者」のイメージから
かけ離れた異質な印象を受けます。

私自身、これまでに、
さまざまな分野の学者さんが
書いた本を読んできました。

それらをおおまかに分けると、
二つのタイプにわかれる気がします。

それは、論文的な本と、
エッセイ的な本の二つです。

本人には自覚がない場合も
あるかもしれないですし、

この二つの中間のような
本もありますが、
大体どちらかの形に
落ち着いています。

まだ著者の本は、
本書しか読んだことがないので、
すべての著作がそうなっているかは
わかりませんが、

著者の文章は、
硬めの文体ではあるのですが、
書いている内容が
ユーモアに富んでいました。

特に、私が好きなのは、
本題から外れた注釈のおもしろさですね。

本書はレイアウトも凝っていて、
紙面の下側に注釈を入れるスペースが
広めに取られています。

その中で繰り広げられる
本題から外れた解説が
なんともおもしろいんです。

例えば、92ページの
注釈には「ガメラ」があります。

ガメラ
大映による怪獣映画
ガメラシリーズに登場の
架空の生物。初登場は1965年。
亀をモチーフにしており、
子供の味方である。
1995年に平成3部作として復活。
怪獣映画の金字塔である。

これは、もちろん、
本文に「ガメラ」という
ワードが出てきたからこそ、
解説されているわけですが、

ここまで詳しい解説は
いらないわけで、
なんだったら、
注釈に入れる必要もないんですが、

こういうところまで、
熱心に書かれている感じがあって、
思わずこちらも真剣に
読んでしまいます。

そうやって真剣に読んでいると、
中には、明らかにおふざけで
入れている注釈もあり、

そういうものを見つけるのも
またおもしろいんですね。

おふざけは注釈だけではなく、

本文の中でも時折脱線して、
どうでもいい話が
繰り広げられることがあります。

最初は、私も違和感を抱きつつ、
読み進めていたのですが、

それが慣れてくると、
とてもいい読み心地に
感じられてくるのだから、
不思議なものです。

これは明らかに、
著者の魅力的な文章力による
ところが大きいです。

恐竜学の歴史から
宇宙人の登場まで(笑)

本書の構成は
以下のようになっています。

序章 恐竜が世界に産声をあげる
第1章 恐竜はやがて鳥になった
第2章 鳥は大空の覇者となった
第3章 無謀にも鳥から恐竜を考える
第4章 恐竜は無邪気に生態系を構築する

第1章は、恐竜学が
いかにしてはじまったのか、
その歴史について触れられています。

私も本書を読むまで
知らなかったのですが、
恐竜の存在がわかったのは、
そんなに古い話ではなく、

化石が発見されたのは
19世紀のことだったそうです。

ですから、恐竜学といっても、
まだ200年くらいの
歴史しかないわけなんですね。

しかも、恐竜を研究して、
何かがわかったとしても、
すぐに現代の何かに役立つ
というものでもないので、

戦争が起きて、
世界情勢が不安定になると、
恐竜学の研究は停滞気味に
なってしまうそうです。

平和な時代にしか、
研究が進まない分野なんですね。

そして、第2章以降では、
本題ともいうべきところで、
著者が鳥類学者の視点から、
恐竜と鳥類の関係を考察しています。

第4章では、恐竜がなぜ絶滅したのか、

さらに、そこから地球の生態系が
どう変化していったのかまで、
考察されており、
非常に興味深い内容になっています。

最後の考察では、
仮定とはいえ、宇宙人まで
登場する話になっており、

(もちろん、
 ここはおふざけ半分の考察)

そこもある意味では、
「真面目」に考察されていて、
思わず、こちらも真面目に
読んでしまうのでした。

私自身、恐竜についての
本を読むのは、はじめてで、
果たして最後までついていけるのか、
不安なところもあったのですが、

著者のユーモラスな文章で、
あっという間に
最後まで読んでしまいました。

おそらく、入門編の本としては、
著者のように専門家でない人が
書いたものの方が
読みやすいのかもしれません。

どうしても、その道一筋の人が書くと、
専門用語が多用された
閉じた世界になってしまうんですよね。

その点、著者のような
専門外の人が書いた文は、
非常に読みやすいですし、
初心者の方にもおすすめです。

何より、文章がおもしろいです。


【書籍情報】
発行年:2013年(文庫版 2018年)
著者:川上和人
出版社:技術評論社、新潮社

【著者について】
1973年、大阪府生まれ。
農学博士。国立研究開発法人森林研究・
整備機構森林総合研究所
鳥獣生態研究室長。

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