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書籍レビュー『新約聖書を知っていますか』阿刀田高(1993)聖書をわかりやすくおもしろく読み解いたエッセイ

宗教はすべてのはじまり

世界でもっとも読まれ、
引用された書物は、
新約聖書です。

言わずと知れたキリスト教の
経典ですね。

そんなに有名なのに、
聖書を読んだことのある人は、
限られるのではないでしょうか。

私も以前、どこかで
いただいたものを
一冊持っていますが、
未だに読んだことはありません。

しかし、聖書のことは
前々から気になっていました。

なんせ、世界で一番
引用されてきた書物です。

どんな分野の話を掘っていても、
行きつくのは、
聖書の世界の話だったりします。

私の好きな美術も音楽も映画も
その多くが聖書の中の物語が
モチーフになっているんですよね。

以前から、もっと知らなくては、
と思っていました。

しかし、こういう世界の話は、
特に信仰を持たない方には、
難しくて近づきがたい
イメージがないでしょうか。

私も特定の信仰を持たないので、
縁遠いイメージを持っています。

でも、安心してください。

本書は、私やそんな方と同じように、
特定の信仰を持たない著者が、
新約聖書について解説した
エッセイです。

新約聖書とは

著者の阿刀田高(あとうだ・たかし)、

その名前は以前から知っていましたが、
彼が書いた本は、
今回、はじめて読みました。

’60年代から活躍されている
作家さんで、
ミステリーやブラックユーモアを
得意とする方のようです。

短編を得意とし、
手掛けた短編の数は800にも及びます。

特に、ショートショートに関しては、
星新一亡き後の第一人者とも
言われるそうです。

本書に書かれていた聖書の話を
書く前に、新約聖書の成り立ちについて、
おさらいしておきましょう。

新約聖書は、全27巻で構成されています。

その内訳は、
「4つの福音書」「使徒言行録」
「ローマの信徒への手紙」
「ヨハネの黙示録」

この4つに集約されるのです。

「福音書」の「福音」というのは、
「よいしらせ」という意味なんですね。

福音書では、おもに生前のイエスに
まつわるエピソードが語られており、
さまざまな教えが書かれています。

福音書が4つあるのは、
著者が異なるためです。

それぞれ、マタイ、マルコ、
ルカ、ヨハネという人たちが
執筆したとされています。

「されています」と書いたのは、
実際には一人の執筆者が
書いたのではなく、

それぞれの著者の名のもと、
複数の人たちが、
この執筆に関わったと
考えられるからです。

マタイ、マルコ、ルカ、ヨハネの
それぞれの人物は、
もちろんイエスの弟子たちです。

しかし、必ずしも
生前のイエスを知っている
直弟子というわけではなく、

彼らも後世に伝えられた、
いわば、又聞きの話を文献として、
まとめたのですね。

「使徒言行録」は、
イエスの弟子、ペテロ、パウロの
活躍を描いたもの、

「ローマの信徒への手紙」は、
パウロがローマの人たちに
宛てて書いた手紙、

「ヨハネの黙示録」は、
世界の終末を伝える預言書です。

知ることは楽しい

「新約聖書」の「新約」の意味を
ご存知でしょうか。

これはわかりやすく言えば、
「新しい約束」
という意味です。

新約聖書からすれば、
それ以前の聖書は
「旧約聖書」になります。

イエス自身ももとは、
「旧約聖書」の教えを守る
信者でした。

彼は従来からあった
「旧約聖書」の教えをベースに、

さらに、その教えを広い意味で、
定義し直したんですね。

大きな違いは「旧約聖書」が、
信者だけを救うものだったのに対し、

「新約聖書」は、
宗教に属していなかったものでも、
「神様を信じれば救われる」
としたことです。

つまり、「新約聖書」には、
一般に広めるのに適した教えに
なっていたんですね。

だからこそ、キリスト教は、
世界に広まり、
「新約聖書」はもっとも読まれた
書物になったのでしょう。

著者は、本書を執筆するにあたり、
「新約聖書」の舞台となっている地を
実際に訪れ、10年もかけて
執筆しました。

その取材力ははかり知れず、
読んでいて、敬意の念を
持たずにはいられません。

一体、どういった動機が
彼をそこまで動かしたのか、

それについては、本書の中でも
著者自身が語っています。

著者も私と同じように、
美術、音楽、映画が
大好きな方なんですね。

ですから、本書の中には、
絵画や舞台の話が
時折、出てきます。

彼が本書を執筆した経緯は、
「芸術の楽しさを知ってほしい」
というものでした。

聖書の話を知ると、
さまざまな作品のおもしろさが
増すんですよね。

この想いには、
私にも思い当たるところがあり、
深く共感できました。

つまり、著者自身も
「知る」ことが楽しく、
それを共有したいという一心で、
本書を執筆されたのですね。

一方で、著者は、
特定の信仰を持たない者として、

「新約聖書」および、
信仰を持つ人に対して、
特段の敬意を
払っていることが伺えます。

時には、お詫びの言葉を
添えつつも、

著者ならではの洞察力で、
「新約聖書」にまつわる
不可解な事象について、
丹念に読み解いていく過程は、

ミステリーさながらの
スリルが感じられました。

何よりも著者自身の
謙虚さが文面ににじみ出ていて、
もっと読みたいと思わせてくれるのが、

本書のもっとも魅力的な部分です。

著者にはこの他にも
ギリシア神話を読み解いた
『ギリシア神話を知っていますか』

本書の姉妹本にあたる
『旧約聖書を知っていますか』
などの著作があり、

いずれ、それらの本も
読んでみたいですね。

全部、読んだら、
きっと世界が変わって
見えるような気がします。


【書籍情報】
発行年:1993年(文庫版1996年)
著者:阿刀田高
出版社:新潮社

【著者について】
あとうだ・たかし。
’35年、東京都生まれ。
’64年、『ころし文句』でデビュー。
(長崎寛との共著)
’79年、『来訪者』で
日本推理作家協会賞、
『ナポレオン狂』で直木賞を受賞。
’95年、『新トロイア物語』で
吉川英治文学賞を受賞。

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