見出し画像

映画レビュー『シン・ゴジラ』(2016)防災とも深いかかわりがある作品


防災とも深いかかわりがある作品

5年前にブログで書いた
書籍レビューを再掲載しました。

この本の中で、災害について
描かれた良作として
紹介されているのが
『シン・ゴジラ』です。

もちろん、映画好きとしては、
本作が公開された8年前から
気になっていましたし、

前述した本をはじめて読んだ
5年前にも「観たい」と
思っていました。

しかしながら、観たいものが
山積みになっており、
ずっと先延ばしになっていたんです。

実際に観てみると
著者が本の中で
おっしゃっていたとおり、
よくできた作品でした。

こんなタイミングで、
本作の紹介をするのは、
どうかとも思いましたが、

災害とも深くかかわりのある作品なので、
敢えて、紹介させてもらいます。

ベタなゴジラもしっかり描きつつ

本作は『エヴァンゲリオン』などで
有名な庵野秀明監督が手掛けた
『ゴジラ』のリブート作品です。

平成の『ガメラ』シリーズを手掛けた
樋口真嗣監督が特技監督として
起用されています。

物語は東京湾羽田沖からはじまります。

無人のプレジャーボートが発見され、
その付近から突如として、
大量の水蒸気が発生、

アクアトンネル内では、
走行中の車両が巻き込まれる事故が
発生します。

熱源が海底で検知されたため、
海底火山の噴火、

あるいは熱水噴出孔の発生が
原因であると予測した政府は
湾内を封鎖、対応にあたりました。

そんな中、内閣官房副長官・
矢口蘭堂(長谷川博己)は、
ネット上に広がっていた

一般市民による
目撃情報や動画から事故の原因を
「巨大生物」によるものであると
指摘します。

当然のことながら、
このような現実離れした話が
受け入れられるわけもなく、

矢口の意見は一方的に
否定されてしまいました。

しかし、その直後、
海上で発生していた水蒸気が消え、
その中から生物のものと思わる
巨大なしっぽが出現します。

このテレビ報道を見た
政府上層部は、

ただちに専門家を招集し、
この巨大生物への対応を
検討するのでした。

ただの娯楽作品ではなく、
日本人へのメッセージが
込められている

ここまではベタな流れというか、
誰もが想像する「ゴジラ」の
はじまり方という感じがします。

このあと、この巨大生物は、
地上に上陸するのか
否かが議論され、

当然のごとく、生物は地上に
上がってきます。

そして、そのまま直進し、
街をめちゃくちゃに
破壊していく過程も、
まごうことなき「ゴジラ」です。

(この時点では「ゴジラ」
 という名称もない)

多少なりともゴジラを
知っている者からすると、
何よりも不可解なのは
その生物の姿です。

小さな手のようなものは
あった気がしますが、
足はありません。

地を這って前に進むんですね。

そして、この生物は、
時間が経つごとに
徐々に進化していき、

誰もが知っているような
「ゴジラ」の姿になります。

この生物が街を
破壊していくさまは、
特撮や CG を使った迫力のある
描写が続きます。

あまりにもリアルなので、
やはり、今の時期の鑑賞は
つらい場合もあるかもしれません。
(そこは無理なさらずに)

もちろん、ゴジラのような作品の
おもしろさは、そういった部分が
多くを占めているので、

単なる娯楽作品としても
楽しむことがきます。

しかし、私自身が思う本作の魅力は
そこではありません。

たぶん、歴代のゴジラの中では、
ゴジラの登場シーンが極端に
少ない作品でもあると思うんです。

記事の冒頭で述べたように、
専門家の方が本作のことを
著書で絶賛していました。

どこが絶賛されていたのかというと、

日本で災害が起きた時に、
どのような過程を経て、
救助や救援が行なわれているのかが、

とてもリアルに描かれている
というのです。

実際に観てみると、
まったくその通りでした。

その中には SF 的な科学考証、
法律や政治に関する内容が
多分に含まれており、

さらに非常にスピーディーに
話が進んでいくので、

専門家である著者でも
劇場で鑑賞した時には、
わからないことが多かった
と書いています。

しかし、これが不思議なことに、
私のような素人でも、
政府や専門家が何を議論しているのか、

そして、何を実行しているのかが、
なんとなく理解できるんですね。

ここが本作のすごいところです。

たぶん、この入り組んだ話を
しっかり丁寧に伝えるために、

セリフやシーンのテンポを
落としていたら、

こんなに魅力的な作品には
決してならなかったでしょう。
(むしろ、それは眠くなりそう(^^;)

もしかしたら現実の社会で、
災害が起きている時に、

このような作品を楽しむことに
うしろめたい気持ちが出てしまう
という方もいるかもしれません。

ですが、本作をただの
「怪獣映画」として認識するのは、
もったいない話だと思います。

前述した本の中で、
著者が制作者と対談した時の話が
掲載されていました。

本作を手掛けた方が
一番伝えたかったことが
そこには書かれていました。

「なんであんな防災映画を
 作ったんですか」
と聞く私に、制作者はこう答えました。
「十数年ぶりにつくるゴジラは
 国民映画だから、
 日本人に伝えるべき最も大切なことを
 メッセージとして入れたいと思いました。
 だから東日本大震災であり、
 原発事故であり、
 今心配されている巨大地震を
 彷彿させるような映画を描いたんです」

『次の震災について本当のことを話してみよう。』福和伸夫(2017)時事通信社 p.29~30

このような制作者の
思いが詰まった作品だからこそ、

本作は観た人に
さまざまなことを考えさせる
素晴らしい作品になっているんですね。

「こんな時に……」と、
後ろめたい気持ちになる
必要は決してないと思います。

むしろ、自分が逆の立場だったら、
今起きていることを
少しでも自分の身に置き換えて

考える材料にしてもらった方が
有益だと思うでしょう。
(「無関心」が一番つらい)

そういう材料の一つとしても、
本作はオススメです。


【作品情報】
2016年公開
監督:庵野秀明(総監督)
   樋口真嗣(監督・特技監督)
脚本:庵野秀明
出演:長谷川博己
   竹野内豊
   石原さとみ
配給:東宝
上映時間:119分

【関連記事】


この記事が参加している募集

映画感想文

サポートしていただけるなら、いただいた資金は記事を書くために使わせていただきます。