見出し画像

書籍レビュー『夏への扉』ロバート・A・ハインライン(1956)日本で特に人気がある SF の名作


日本で特に人気がある SF の名作

ロバート・A・ハインライン
といえば、
SF 界のビッグ3に数えられた
作家の一人です。

彼の代表作の一つでもある
『宇宙の戦士』('59)は、
宇宙を舞台にした作品で、

作中に登場するパワードスーツは、

日本のアニメ
『機動戦士ガンダム』にも
多大な影響を与えた
と言われています。

作家デビューした'39年から、
亡くなる'80年代まで、
多くの作品を執筆し、

世界的な SF・ファンタジーの
文学賞であるヒューゴー賞を
4度も受賞しました。

数ある作品の中でも、
特に日本で人気があるのが本作、
『夏への扉』です。

本作は'57年に雑誌で連載され、
翌年には単行本が発表されました。

'58年には日本語版が発売され、
この60年以上の間に、
何度も新装版が刊行されています。

2011年には、日本の
演劇集団キャラメルボックスが
世界ではじめて舞台化し、

2021年には、
日本で実写映画化もされました。

こんなところからも、
いかに本作が
日本で読まれ続けてきたかが、
よくわかるでしょう。

失意の底にいた主人公

舞台は1970年代のロサンゼルスです。

主人公・ダンは30歳の男性で、
機械を設計する技術者でした。

彼は友人のマイルズと起業し、
自分の発明品を
世に送り出すことに成功します。

ダンが手掛けていたのは、
家庭用ロボットで、

それまでお手伝いさんを
使っていた家は
その必要がなくなり、

世の女性が家事から
解放されることを
手助けしました。

(当時は今と違い、
 家事の多くは女性の仕事だった)

ダンは次々に
新しいアイディアを思いつき、
多くの作業をロボットに
置き換えようとします。

マイルズの方は、経営に専念し、
その目的が徐々に企業を
大きくしていくことに
シフトしていくんですね。

ここで、ダンとマイルズは
意見が対立しました。

ダンは自分が作るロボットを
より完璧な形にしてから、
世に出したいと思っています。

ところが、マイルズは、
それらのロボットを
いち早く市場に投入して、
収益を上げたいのです。

この二人の考えは、
どちらも間違いとは言えません。

ものづくりに関わる以上、
このような葛藤は常に
付きまとうものでしょう。

どうしてもお互いの
意見が相いれず、

マイルズは強引にでも
事業を進めるための
策略を企てました。

ダンとマイルズの会社には、
一人の女性秘書・ベルを
雇っていたんです。

ベルはダンと恋仲にありました。

そして、ダンは婚約のつもりで、
彼が持っている自社株の一部を
ベルに渡してしまったのです。

このことが、のちに、
ダンを失脚に追い込む
原因となってしまいました。

そうだ冷凍睡眠があるじゃないか!

この物語は、
非常に起伏に富んでおり、
この後、話が二転・三転します。

どこまで説明してしまうかが、
難しいところなんですが、

率直に言うと、
マイルズはベルを使って、
ダンを騙していたのです。

そして、最終的には、
ダンは会社から
追い出されてしまいます。

街中にあった一つの広告が
途方に暮れたダンを
ある道へ導くのでした。

それは保険会社が提供する
サービスの一つで、
「冷凍睡眠」
というものです。

「コールドスリープ」
というやつですね。

みなさんも、こんな話を
聴いたことがないでしょうか。

実は、有名な誰それは、
亡くなったのではなくて、

冷凍保存されていて、
いつか蘇るのだ
という都市伝説を。

そういった類の話は、
おそらく本作を源流とする
SF 作品から出てきた
与太話なんでしょうね。

主人公のダンは、
この広告を見て、
あるアイディアを思いつきます。

それは、冷凍睡眠で、
30年後の世界に覚醒することです。

今は、親友と恋人に裏切られ、
失意の底にあるダンですが、
冷凍睡眠に入れば、

一気に30年の時を
早回しにすることができます。

そうすれば、30歳のダンは、
2000年になっても、
30歳のままです。

ところが、今は自分と
同年代のマイルズ、

もしくは少しだけ若いと
仮定されているベルでも、
60代前後、

老いた彼らをあざ笑うことが
できるというわけです。

果たして、彼の復讐劇は
うまくいくのでしょうか。

と、この記事を
締めくくりたいところですが、

実際のところは、
ダンは冷凍睡眠の寸前に
そこに入るのを
思いとどまっていました。

しかし、それでは、
都合の悪い人たちがいます。

それは彼を騙した
マイルスとベルの二人ですね。

マイルスとベルは
どのようにして、
ダンを冷凍睡眠に
送り込むのでしょうか。

先ほども書きましたが、
その後の話の展開も、
起伏に富んでいてい、
読者を飽きさせません。

一気に読めてしまう
こんな傑作があったとは、

私自身ももっと早くに
読んでおけば良かったと
後悔したくらいです。

タイムマシンがあれば、
それができるのに……。


【作品情報】
初出:『ザ・マガジン・オヴ・ファンタジィ
    アンド・サイエンス・フィクション』
   (1956)
   単行本(日本語版) 1958年
著者:ロバート・A・ハインライン
訳者:福島正実
出版社:早川書房

【著者について】
1907~1988。
アメリカ、ミズーリ州生まれ。
’39年、『生命線』で作家デビュー。
代表作『宇宙の戦士』(’59)
『異星の客』(’61)など。

【映像化作品】

【同じ著者の作品】


この記事が参加している募集

読書感想文

海外文学のススメ

サポートしていただけるなら、いただいた資金は記事を書くために使わせていただきます。