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映画レビュー『LAMB/ラム』(2021)オチにはあまり期待しない、むしろ鑑賞後に想像が膨らむおもしろさ


北欧映画の波が静かにきている?

アイスランド、スウェーデン、
ポーランド合作の映画です。
(R-15指定)

『ローグ・ワン/
 スター・ウォーズ・ストーリー』
などで特殊効果を担当した

ヴァルディマル・ヨハンソンが
はじめて手掛けた
長編映画でもあります。

第74回国際映画祭では、
「ある視点」部門で
オリジナリティ賞を受賞しました。

最近、新しめの映画を
配信で探していると、
北欧系の作品によく当たります。

以前紹介した『ビバリウム』
北欧のいくつかの国による
合作でした。

たまたま観た
二つの作品だけを見て、
こういうのは
安直かもしれませんが、

今回観た『ラム』も
『ビバリウム』と似た雰囲気が
あったんですよね。

どことなくブルーや
グリーンがかった配色だったり、
若干、暗めの画面だったり、

そういうビジュアルが
共通していました。

そして、作品のテーマというか、
物語の展開のしかたも
二つの作品は似ていました。

『ビバリウム』は
若いカップルのもとに
子どもがやってくる話でしたが、
本作もそういう話なんですよね。

私はここに北欧の社会が
今抱えているものを
感じざるを得ませんでした。

牧羊を営む訳ありげな夫婦

舞台はアイスランドの片田舎で、
そこに暮らす夫婦を中心に
物語が描かれていきます。

夫婦は牧羊を営んでいました。

序盤の10分くらいは
ほとんどセリフもなく、
夫婦の生活が
淡々と描かれていきます。

その中で、夫が妻に
どこかで聴いてきた
タイムマシンの話をします。

「タイムマシンがあったら、
 過去をやり直したいか」

夫はこんなことを妻に投げかけます。

妻は、今が楽しいから、
それでいいんだ
というような返答をしました。

セリフなどで
明示されることはないのですが、

二人がやりとりしている時の
表情や間から、
過去に何か辛いことが
あったことが伝わってくるんですね。

本作はこういう部分が
非常によくできていました。

セリフや文字で
説明するのではなく、
役者の演技や映像の魅せ方で
それとなく暗示させるのです。

こういう魅せ方を
徹底しているので、
序盤の平凡な生活を
描いたシーンにも

独特な緊張感があって、
飽きさせません。

オチにはあまり期待しない、
むしろ鑑賞後に
想像が膨らむおもしろさ

牧羊を営む夫婦にとっては、
羊の子どもの出産は
日常的な業務の一つです。

その日も二人は、
一頭の羊から産まれてくる
子羊を取り出しました。

すると、そこに現われたのは、
それまでの羊とは違う、
子羊だったのです。

この子羊の姿は、
しばらく画面上に
はっきりとは映りません。

後ろ姿の頭は見えても、
首から下は見えなかったり、
何かで遮られて
見えなくなっています。

ここからしばらく、
この子羊の姿が
はっきりと見えないので、

観ている側としては、
じれったい印象も
受けるかもしれませんが、
安心してください。

そういったじらしがあるのは、
10分くらいでしょうか、
割とあっさり子羊の姿が
見えるようになります。

この辺のじらし加減も
よくできているんです。

まず、夫婦が子羊を
取り出してから、

他の子羊とは違って、
自分たちの部屋に
連れてくるので、

観ている側は
「え?」となるんです。

しまいには、
ベビーベッドを出してきて、
そこに寝かせたり、

この子羊をまるで
わが子のように、

抱きかかえながら
寝かしつける
ところまでいきます。

この時点で、鑑賞者は、

「この夫婦には子どもがいたが、
 なんらかの理由で失った」
「子羊はどうやら
 普通の身体ではない」

ということに気がつくでしょう。

何度も言いますが、
この作品はこういうところが
よくできています。

直接、言葉や文字で
説明するのではなく、
映像の力でそれとなく
暗示していくのです。

そして、子羊の姿が
はっきりしてきた頃、
また物語に大きな変化が
あります。

ただ、本作はオチの方は
あまり期待しないでください。

それほど意外性のある
終わり方ではなく、
物語がブツッとキレる感じで
終わります。

この終わり方に
不満を感じる方も
いるかもしれませんが、

これも作品の
完結のしかたの一つでもあり、

この作品の全体に見られる
「それとなく暗示する」
演出方法が徹底された
結果でもあります。

こういう作品は、
答えをはっきり示さないので、

観終わったあとにも、
受け手の想像が膨らんでいく
というおもしろさが
あるんですよね。

わかりやすい
おもしろさもいいですが、

たまには、こういう変わった
おもしろさに触れてみるのも
いいのではないでしょうか。


【作品情報】
2021年公開
監督:ヴァルディマル・ヨハンソン
脚本:ショーン(英語版)
   ヴァルディマル・ヨハンソン
原作:『夜明けのヴァンパイア』
   アン・ライス
出演:ノオミ・ラパス
   ヒルミル・スナイル・グドゥナソン
   ビョルン・フリーヌル・ハラルドソン
配給:セナ、クロックワークス
上映時間:106分

【第74回カンヌ国際映画祭受賞作品】


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