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マンガレビュー『藤子・F・不二雄[異色短編集]3 箱舟はいっぱい』藤子・F・不二雄(1973~1982)人間の「欲」に根差した物語

藤子・F・不二雄は
短編マンガの名手でもあった

『ドラえもん』の
作者として知られる
藤子・F・不二雄ですが、

彼は短編マンガの名手でも
ありました。

特に、オススメなのが、
『ビッグコミック』などの
青年誌に発表した
読み切り作品です。

最初に『ビッグコミック』に
発表したのが、
『ミノタウロスの皿』('69)で、

地球とよく似た惑星にやってきた
主人公の青年が
一人の女性と出会う物語でした。

地球とは異なる風習を
おもしろおかしく描いた
作品でありながら、

「恐ろしさ」と「せつなさ」も
感じさせる傑作になっています。

『ビッグコミック』から
執筆依頼を受けた時に、
難色を示した作者でしたが、

『ミノタウロスの皿』で、
手応えを感じたことから、
青年向けの短編も多く
手掛けることになりました。

それらの作品は、
いくつかの短編集として
まとめられており、

本書は'90年代に、
小学館文庫から発行された
『異色短編集』の3巻です。

藤子・F・不二雄が描いた
少し不思議な大人の世界

本書に収録されているのは、
12篇の短編マンガです。

収録作品
『箱舟はいっぱい』('74)
『権敷無妾付き』('73)
『イヤなイヤなイヤな奴』('73)
『どことなくなんとなく』('75)
『カンビュセスの籤』('77)
『俺と俺と俺』('76)
『ノスタル爺』('74)
『タイムマシンを作ろう』('82)
『タイムカメラ』('81)
『あのバカは広野をめざす』('78)
『ミニチュア製造カメラ』('81)
『クレオパトラだぞ』('80)

『箱舟はいっぱい』は
『SFマガジン』、

『カンビュセスの籤』は
『別冊問題小説』、

『俺と俺と俺』は『GORO』、

『ノスタル爺』は
『ビッグコミックオリジナル』、

『クレオパトラだぞ』は
『ビッグゴールド6号』、

それ以外の作品は、
すべて『ビッグコミック』に
掲載された作品となっています。

いずれの作品も
藤子・F・不二雄流の
SF(少し不思議)を
ベースとしつつ、

宇宙船からタイムトラベルまで、
バラエティーに富んだ内容です。

人間の「欲」に根差した物語

藤子・F・不二雄の短編で
印象的なのは、
人間の「欲」に根差した話が
多いところですね。

例えば、『権敷無妾付き』は、

(「権敷無」は「けんしきなし」
  と読む、
 「権利金・敷金無し」の意)

真面目だけが取り柄の
妻子持ちの男のもとに、

見知らぬ女性からの
一通の手紙が届くことから
はじまります。

手紙には
「お会いして話したいことがある」
とありました。

意味深な手紙に、
周囲には興味のない素振りを
見せる主人公でしたが、

なんだかんだ理由をつけて、
手紙に書かれた場所に
行ってしまいます。

すると、そこで待っていたのは、
女性ではなく、
愛人(セカンドワイフ)を
斡旋する業者だったのです。

そこには、自分と同じように、
同じ手口に引っ掛かっている
サラリーマンがゴロゴロいました。

真面目な主人公は、
「けしからん!」という感じで、
憤って帰ってしまうんですが、

またしても、
なんだかんだ理由をつけて、
その業者が勧めたマンションの
一室に行ってしまうのでした。

人間にはこういうところが
あると思うんですね。

人前では「いやいや」と
拒否していながらも、

いざ、目の前に欲を満たすものが
出てくると、どんな人でも
抗えません。

そういう人間の本質的な部分が
よく描かれた作品が多いんですね。

また、これらの作品は、
すべて読み切りの短編なので、

おなじみのキャラクターを
使った連載作品とは違う
技術が必要になります。

話がはじまって、
すぐに読者に状況が
伝わらなくてはならないのです。

そういう点でも、
藤子・F・不二雄の短編作品は、
よくできています。

どんなに奇想天外な物語でも、
ストレスを感じさせず、
すんなりと物語の世界に
入っていくことができるんですね。

これは文字による説明を
最小限にして、
「絵」で理解させる
マンガならではの魅力でしょう。

あなたもぜひ、
藤子・F・不二雄が描いた
大人の世界をのぞいてみてください。

そこには、大人になった
今だからわかる
おもしろさがあるはずです。


【作品情報】
初出:『ビッグコミック』ほか
   1972~1982
著者:藤子・F・不二雄
出版社:小学館

【作者について】
1933~1996。富山県生まれ。
’51年、藤子不二雄として
(藤子不二雄Ⓐとのコンビ)
『天使の玉ちゃん』でデビュー。
‘88年、コンビを解消。
代表作『オバケのQ太郎』
(‘64~’66/藤子不二雄Ⓐとの共作)、
『パーマン』(‘67)、
『ドラえもん』(’69~‘96)

【藤子・F・不二雄短編集】

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