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『進撃の巨人』で知る心の動き

※ネタバレを含みます。
 まだ読んでいない方で、
 ネタバレを避けたい方は
 読まないでください。

『進撃の巨人』について
書いてきました。

前回の記事では、
主人公が属する
調査兵団の中から

裏切り者が出て、
彼らは町を襲った
巨人であることが

判明するという話を
書きました。

現実の世界でも
そうだと思うのですが、

ある物事に二つ以上の
見解があった場合に、
片方の見解を知っただけで、

その物事について
「わかった」とは言えません。

『進撃の巨人』の世界もそうです。

前半の主人公の視点を
知っただけでは、
物語を完全に理解したことには
ならないんですね。

後半以降に出てくる
裏切り者たちの背景を
知ることによって、
この物語は完結します。

彼らは主人公たちが暮らす
町の壁の外からやってきました。

まず、壁の外にも人間がいる
ということを、
壁の中の多くの人たちは
知りません。

壁の中の住人にとっては、
壁の中で世界が
完結しているのです。

これは今の地球の状況に
似ていますね。

我々の人生は基本的に、
地球の中で完結しており、
その外には宇宙が広がっていて、

今のところ、
人類らしきものは
見つかっていません。

実際、現実の歴史を辿ってみると、
似たような状況の島が、
存在した時代があったようです。

大陸と離れた小さな島に暮らし、
外の世界を知らず、
その世界でのみ存在した
人々もいたんですね。

『進撃の巨人』で、
最初に出てくる国も
そんな感じでした。

しかし、外からやってきた
裏切り者たちは違いました。

自分たちがいる
世界の広さを知っていて、
目的をもって、
この島にやってきたのです。

前回の記事で、
「主人公と裏切り者である
 彼らには
 巨人になる能力がある」
と書きました。

これがこの物語を読み解く
「鍵」になっています。

主人公と彼らは、
かつては同じ地に生きた
同じ祖先を持つ
「エルディア人」だったのです。

もっというと、
壁の中に住む人たちは、
そのほぼすべてが
エルディア人でもあります。

(なぜ、主人公や特定の
 エルディア人だけが、
 巨人になることができるのか、
 を説明しだすと、
 とても長くなるし、
 物語の核心部分でもあるので、
 ここでは説明を割愛する)

裏切り者たちが住んでいたのは、
遠く離れた「マーレ」
という国でした。

その国では、
「エルディア人」は
「悪魔」として
迫害されています。

というのも、かつて
エルディア人の国・
エルディア帝国は

その巨人の能力を使って、
世界を席巻していたからです。

エルディア帝国は
圧倒的な武力でもって、
次々に他民族を侵略し、
奴隷として扱いました。

その侵略の歴史は
1700年にもわたる
長いものでした。

やがて、国内で内戦なども起こり、
エルディア帝国は滅びます。

エルディアの王は、
パラディ島に逃れて、
新しい国を築きます。

この国こそが、
主人公が暮らす世界でした。

他国に対しては、
圧倒的な巨人の脅威を示しつつ、
鎖国し、

島の住民たちは、
王の巨人の特殊能力によって、
記憶が改ざんされます。

こうして、壁の中の人たちは
「壁の外には人類がいない」
と思い込まされたのです。

一方のマーレでは、
こうした歴史の背景が
よく知られており、

多くのエルディア人は、
迫害を受け入れつつ、
慎ましく暮らしていました。

そんな中で、
エルディア人が
「マーレ人」として
認められるためには、

兵士として戦うことが
求められます。

前半で調査兵団を
裏切った彼らは、

エルディア人でありながら、
マーレ人として認められるべく、

マーレ軍に入隊した
若き兵だったのです。

つまり、彼らは、
マーレがパラディ島へ
送り込んできた
スパイだったのです。

マーレに生まれた
エルディア人は例外なく、
「エルディア人は悪魔である」
という教育を受けて育ちます。

そのため、彼らは、
憎むべき相手として、
パラディ島に乗り込み、

自ら巨人の力を駆使して、
町に乗り込んでいきました。

ところが、
彼らがパラディ島で
出会ったエルディア人は、

マーレで教えられていたような
「悪魔」ではありませんでした。

彼らも自分と変わらない
「人間」であることを知ります。

だからこそ、彼らは、
自国(家族)のためとはいえ、

相手の国の人たちを
殺さなければならないことに
葛藤を覚えます。

特に、調査兵団の人間とは、
寝食をともにし、
苦楽をわかちあった仲です。

これが悩まないで
いられるはずがありません。

のちに、主人公のエレンも
逆の立場を味わい、
裏切った彼らの心境を
知ることになります。

なかなか文章だけでは
伝わらないかもしれませんが、

このような奥深い人間の葛藤が
切実に描かれており、
それが重く心に
のしかかってくる場面もありました。

これまでにもいろんなマンガを
読んできましたが、

ここまでリアリティーのある
人間の心の動きを
表現できた作品は、
なかなかない気がします。

これが、私が
「『進撃の巨人』は文学作品」
と言った理由の一つです。

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