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テレビレビュー『元彼の遺言状』(2022)最後まで観ないなんてもったいない

元彼の遺産相続事件

原作は、2021年に発表された小説で
「『このミステリーがすごい!』大賞」の
大賞を受賞した作品です。
(原作は読んでいません)

原作にオリジナルのエピソードや
続編の連作短編
『剣持麗子のワンナイト推理』の
エピソードが加えられています。

主人公・剣持麗子(綾瀬はるか)は、
お金をこよなく愛する
やり手の敏腕弁護士です。

彼女のもとに、元彼だった
製薬会社の御曹司・
森川栄治(生田斗真)の訃報が届きます。

彼の遺言状には、
「全財産は僕を殺した犯人に相続させる」
とありました。

栄治が住んでいた別荘の管理人であり、
友人でもあった篠田(大泉洋)から
「僕を犯人に仕立ててほしい」
という依頼を受け、

麗子は、この遺産相続の事件に
巻き込まれていくことになります。

古典ミステリーの数々を引用

ここまでが2話までのエピソードです。

原作を知らない方にとっては、
この遺産相続の話がずっと続くものと、
誤解を与える面もありました。

3話から麗子の弁護士事務所を
メインとした1話完結の
「探偵もの」に変化することに、

違和感を憶えて離脱する
視聴者も多かったようです。

ですが、言わせてください。

途中で離脱するのは、
もったいない作品だと思います。

正直なことを言えば、
私自身も3話目からガラリと
変わった印象に戸惑いも感じました。

このまま尻すぼみで
最後まで進んでいくのだろうかと
不安になったものです。

しかし、本作の一番おもしろい部分は、
終盤の9~10話でした。
(最終話の11話はオマケ的な感じ)

麗子と篠田は森川製薬の
遺産相続の事件が解決してから、
タッグを組むことになり、
バディものの様相を呈していきます。

3~8話までは、
1話完結のミステリーもので、
劇中に海外ミステリーの古典が
多く出てくるんですよね。

(篠田がミステリーマニア
 という設定に由来)

この演出からもわかるように、
王道の古典的なミステリーではあります。

これが多くの視聴者にとって、
退屈に感じられた部分もあったようです。

ですが、この積み重ねがなければ、
9~10話の盛り上がりはなかった
と言えるでしょう。

地味な積み重ねが
最後に効いていくる

では、私が一番おもしろい
と言っている9~10話では、
何が描かれているのでしょうか。

この2話分のエピソードでは、
篠田の過去の話が出てきます。

最初に篠田は、
麗子の元彼である栄治の友人
として出てくるんですよね。

篠田は過去に麗子に
会ったことがある
と言っていました。

ところが、麗子には、
その記憶がありません。

エピソードが進む中で、
徐々に篠田の正体が
明らかになっていきます。

各話で徐々に明かされていく、
過程がおもしろく、
その頂点に達するのが
10話というわけなんです。

3~8話の積み重ねがなければ、
終盤のおもしろさは
生まれることもなかったでしょう。

3~8話をとばして観ても
このおもしろさは
決して味わえません。

言ってしまえば、
本作に登場するミステリーの
仕掛けは古典的なものが多いです。

ですから、本作で楽しむべきは、
人間ドラマや演出の部分だと
思います。

ミステリー的な部分で、
期待し過ぎると、
肩透かしを食らうかもしれません。

特に、本作の1話、9~10話は
カメラワークなどの演出も
抜群におもしろかったです。

3話目以降の人気が伸び悩んだのは、
この演出の違いによるところも
大きい気がしました。

ちなみに、私が絶賛している
エピソードの演出を手掛けたのは、
ベテラン演出家・鈴木雅之氏です。

(代表作『王様のレストラン』
 『ロングバケーション』『HERO』)

鈴木氏が演出を手掛けた回は、
画面構成や場面転換に
工夫が感じられ、
夢中になって観てしまいました。

例えば、それらの回では、
複数の人物がお互いに
違う話を同時にする様子が
描かれていました。

麗子と篠田がお互いに
背を向けながら独り言のように
セリフを続けます。

二人のセリフは、
別のことを話しており、
一見、噛み合っていないように
感じられるんですが、

最後には二人のセリフが
うまくまとまり、スムーズに
話が進むようになっていまいた。

こういう部分は、
意識して観ていないと、
なかなか気づかない部分ですが、
演出のおもしろさの一つですね。

劇中の音楽も王道のミステリーを
感じさせるサウンドで、
個人的にはお気に入りでした。

(作曲者は川井憲次氏。
 代表作『機動警察パトレイバー』
 『GHOST IN THE SHELL/攻殻機動隊』)


【作品情報】
2022年4月~6月放送(全11話)
原作:新川帆立
脚本:杉原憲明
   小谷暢亮
   中園勇也
演出:鈴木雅之
   澤田鎌作
   西岡和宏
出演:綾瀬はるか
   大泉洋
   関水渚
放送局:フジテレビ
配信:TVer、FOD

【原作】

【鈴木雅之が演出を手掛けた作品】




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