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“美術家×トマト農家”として、日高村へ。 ここが、いつでも戻れる場所に。

葉栗 翠/Midori Haguri

横浜育ち。2009年武蔵野美術大学油絵学科卒業。見過ごされている土地の記憶を手がかりに、見えるもの見えないもの、忘れるもの忘れられないものをテーマに作品を展開。近年は画材の持つ魅力に着目し、研究を続けている。
村とアーティストとの間に長く続く関係の最初の接点を作ることを目的に『アーティスト・イン・レジデンス(注)事業』を始動した高知県日高村へ、来村。
日高村のトマト農家に2週間滞在し、“美術家×トマト農家”として活動を行った。

主な個展に「戯れる。あるいは溺れる。」BUKATSUDO GALLERY,横浜(2021)。グループ展に「食と現代美術vol.8」BankART station,(2021)、「黄金町バザール 2020」黄金町界隈,横浜(2020)、「Koganecho in Wonderland」space 55,韓国(2019)、「東アジア文化都市交流展」泉州市交通歴史博物館,中国(2019)、「沈殿」space ppong,韓国(2018)等。

(注)アーティスト・イン・レジデンスとは

アーティスト・イン・レジデンス(Artuist in Residence、以下、AIR)とは、国内外からアーティストを一定期間招へいして、滞在中の活動を支援する事業をいう。日本においては1990年代前半からAIRへの関心が高まり、主に地方自治体が担い手となって取り組むケースが増えてきている。



Q:葉栗さんはどのような絵を描かれていますか?
A:“水”を題材にした絵が多いですね。



意識して描いていたわけではないのですが、過去に自分の描いた絵を集めてみると“水”を題材にしているものが多いですね。

水ってあるのが当たり前で、人間にとってないと生きていけないもの。
だけど、あっという間に、人の命を奪うこともあるじゃないですか。
救うこともあるけど、奪うこともある、その2面性が面白いなと。


私自身子どもの頃から、川があるところでずっと育ち、川がとても身近なものだったんです。
だから、川の豊かさも、逆に、川の怖さも知ってる。
川とともに生きてきた人たちの文化や暮らしや、抗えない水害とかが起こった時に、どうやって人がやり過ごすのかということに、とても興味をもちはじめて、自然と“水”を題材にした絵が多くなっていました。

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Q:日高村ではどのような生活をしていましたか?


7:00  起床
8:30  トマト農家の三好さんがお迎えが来る
9:00  トマトハウスに到着。トマトの収穫作業を開始
10:00 小休憩(10分くらい)おやつを食べながら
    パートの方とおしゃべり
12:00 お昼休み
13:00 トマトの収穫作業を再開
15:00 小休憩(10分くらい)おやつを食べながら
    パートの方とおしゃべり
17:00 収穫の作業終了
17:15 必要な時はスーパーに寄って買い物をする
18:00 ご飯を作って食べたり
    一日の中で印象的だったことを
    絵日記に描いたり自由な時間

平日は、だいたいこんな一日でした。
休日は、日高村を流れる仁淀川を遊覧できる屋形船に乗ったり、
村の方たちと蒟蒻芋から蒟蒻を作ったり、
おっちゃんと猪の狩猟に行ったりと村の暮らしを堪能していました。

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Q:日々描かれていた絵日記の中でお気に入りはありますか?
A:お気に入りは、「金継ぎとまと」



トマトを収穫しているときに見つけた斑入りのトマトを描いた絵日記です。
トマトの表面の斑が金色にキラキラと光っていて、とても綺麗で、
焼き物が割れた時に金を塗って修復する“金継ぎ”みたいだなと思ったんです。


でも三好さんによると、その子はB級品で出荷されないトマト。
こんなにも綺麗でかわいいのにダメトマトなのか、市場に出回らないこの子に出会えたのは、日高村に来て私が収穫したからなんだなと思うと、とても愛着が湧いて(笑)


その日の「金継ぎとまと」を絵日記に描いたのが、とてもお気に入りです。

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Q:印象的な出来事はなんですか?
A:村のおっちゃんたちに狩猟に連れて行ってもらったこと。
  生物の命が奪われ“肉”になっていく過程を、初めて間近で見た。



事前に仕掛けていた罠に獣がかかっていないか確認しながら、山を登り、罠にかかっていれば、その場で仕留めて持って帰るのが、狩猟です。


その日は、1つ目に登った山には何もかかっていませんでしたが、
2つ目に登った山に、猪が一頭かかっていて…
想像はしていたつもりだったけれど、実際に目の前で見ると衝撃的でしたね。


罠にかかって暴れている猪、バンッと仕留める時の銃声の大きさ、山の中の獣の匂い、お湯をかけながら毛を剥いで真っ白になっていく肌、お腹を切り開いて内臓がトロトロと引き出されていく様子。


生物の命が奪われ“肉”になっていく過程を、ここまで間近で見たのも、捌いたばかりの新鮮な肉を食べるのも、何もかも初めてで忘れられません。

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あと、狩猟に連れて行ってもらった時に印象的だったのが、おっちゃん達が言ってることがわからなかったことです(笑)
同じ日本なのに、外国にきたみたいで、英語を聴いている時に、単語を頑張って拾って推測しながら話を聴く、あの時と同じ気持ちになりましたね。
どうしても何と言っているのか、わからない時は、若い方が通訳して教えてくれました!

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Q:日高村で“美術家×トマト農家”として活動してみていかがでしたか?
A:多くの刺激を受け、他のアーティスト・イン・レジデンスでは得られない収穫がありました。



私の周りのアーティストに、トマト農家で働きながらアーティスト・イン・レジデンスをしたという話をすると、「成果や作品を出すというゴールに向けて、滞在期間中にリサーチをするのがレジデンスで、働くのはレジデンスじゃなくない?バイトと一緒ではないの?」と言われたこともありました。

その考え方も一理あるなと思いますが、私は地域で働くということに魅力を感じて、日高村に来ました。

ある地域のまちづくりのプロジェクトの一環として、空き家をアーティストに解放し、作品を制作するというアーティスト・イン・レジデンスに参加したことがあるんです。
その時は、地域の人と関わる機会もなかったため、外から来た私たちは異物でしかなくて、
「税金で何かしている人たち」という見られ方をしてしまって…
地域のための活動のはずなのに、地域の人からは理解が得られていないことへのジレンマがありました。

今回はそういう面で、地域の人からの受け入れられ方が全く違うなと感じました。

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日高村のアーティスト・イン・レジデンスは、作品や成果物を強制的に求められてはおらず、滞在期間中は、ただ地域の人たちと働く。
一般的に「アーティスト・イン・レジデンス」という名前から想像するようなものではないかもしれません。
でも、私は一緒に働いたからこそ、人と深く関わることができました。

新しい土地にきて、新しい人に出会い、新しい文化に触れ、今までにない環境に身を置くことで、多くの刺激を受け、他のアーティスト・イン・レジデンスでは得られない収穫がありました。

Q:この日高村の滞在期間でどのようなインスピレーションを受けましたか?
A:“食べる”ってなんだろうって、ずっと考えています。



私は日高村の滞在期間で、トマト農家でトマトを栽培し、自生している蒟蒻芋から蒟蒻を作り、猪を殺して食べました。
今まで加工された食品を買って食べたことはあっても、自分の口に食べ物が届く経緯をここまで目の当たりにするのは初めての経験でした。

自然の食べ物のイメージだったトマトは、ハウスの中で徹底的に管理され、想像していたより不自然な環境で育てられていること。

そのままでは食べられない蒟蒻芋を昔の人の知恵で、煮て、練って、茹でて、手間暇かけて蒟蒻を作っていること。

肉をいただくということは、生物を殺していただいているということ。

本当に知らないことばかりで、ここまで食べ物と向き合ったのは初めてでした。

この日高村での経験が今後の作品にどのように繋がるか、今はまだわかりませんが、日高村から帰ってからも“食べる”ってなんなんだろうと、ずっと考えています。

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Q:今後、日高村とどのように関わっていきたいですか?
A:日高村はいつでも戻れる場所。



まだ、アイディアの段階ですが、子どもから大人まで、楽しめる版画などのワークショップをやれたらいいなと思っています。私の前に日高村に来られていた、ダンサーの久保田さんと共同でも何かしらできたら面白いですよね。

とりあえず、日高村はいつでも戻れる場所。また、必ず遊びに行きます!


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