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最期までおうちで暮らしたい- 90歳ひとり暮らしの母をささえる訪問リハビリ-

90歳の一人暮らしの母の暮らしを支える訪問リハビリについて書きました。母はリハビリの効果で母の筋力が向上し、外出意欲が高まり、排泄コントロールも改善されて「布パンツ」が復活しました。母には認知症(アルツハイマー型)があります。認知症に対する偏見や誤解にそまって「なにをしてもムダ」と考えて何もしなかったら、母の今の幸せな暮らしはありませんでした。訪問リハビリで母の笑顔が増えると、介護する側の私や支援者の方々の笑顔も増えました。「あきらめないで・・・」とお伝えしたいです。あなたの大切な方の介護に少しでもお役に立てたらうれしいです。



ひとり暮らしの安心をささえてくれたリハビリ

はじめるきっかけ

母の介護が始まったのは、今から3年前の夏でした。久しぶりに帰省して一緒に外出したら、今までシャキシャキと胸はって歩いていた母が、ヨロヨロとした足取りで、「ちょっと待ってちょうだい」とか「つかまらせて」と言うのです。母は一人暮らし。いつどこで転んでもおかしくない状態のまま放っておけば、いずれ「転んで⇨骨折⇨入院⇨寝たきり」になってしまう…という最悪な図式が頭をよぎりました。

「このまま放っておけん ! 」と危機感を感じた私は、お世話になっている小規模多機能のケアマネージャーさんに相談して理学療法士さんの「訪問リハビリ」を教えていただき、お世話になることに決めました。

こんなにちがう ! ビフォーとアフター

リハビリを始める前までは、歩いて5分もかからないドラッグストアへの買い物も「行きと帰りに道端にしゃがんで一回休憩せんと動けんようになる」と言っていました。筋力がないため、早く歩くことができません。部屋の中もヨロヨロの伝い歩きで、よりかかれる壁に沿ってソロリソロリと移動します。重い荷物を運べないので、洗剤とお米のまとめ買いなんてことなどは到底不可能でした。たとえ少量でも、小柄な母が筋力が衰えたままの体で袋をぶら下げてトポトポ歩くのは、かなりの負荷がかかっていたと思います。

今年の秋で、母のリハビリは3年目に突入します。週2回、1回あたり40分のリハビリを続けています。筋肉がつくと、日々の暮らしで困っていた動作もスムーズにできるようになりました。少し動くだけで「疲れた~」と横になりたがっていた母が、30分程度の散歩なら「いい汗かいたわ~」と言えるまでになりました。気持ちが前向きになって、図書館や外食、温泉を楽しむことができるようになりました。

母のリハビリA to Z

排泄コントロールの改善

筋力がないときの母は転ばないようにするのが精一杯でした。かなりゆっくりとしたペースでしか移動できないので、トイレに間に合わないことが増えていました。「失敗してしもうてな…」と聞くと、なんとも切ない思いをしました。

リハビリで筋力がついてくると、トイレにもスタスタと移動できるようになりました。トイレの失敗も激減し、リハビリパンツが不要になりました。布パンツとミニサイズの尿もれパッドだけで大丈夫になりましした。おかげで、外出も気軽に出かけられるようになりました。替え用に大きなリハビリパンツを持ち運ぶのは大変で、母も「恥ずかしいな…」と感じていたようです。今はミニサイズの尿もれパッド一つあれば、外出しても困りません。1日に交換する枚数も減ってきて、ついには過活動膀胱の薬もストップして様子を見ることになりました。

ひとり暮らしに必要なオーダメードのトレーニング

理学療法士さんが自宅に来てトレーニングしてくれるのはとても有効でした。母が実際に暮らしている部屋の動作を見て、必要なトレーニングのメニューを考えていただけるのはとてもありがたかったです。二階に洗濯物を干しに上がるため、母が安全に階段を昇降できるように「段差があるところでの足運び」と「手すりを確実につかめむトレーニング」をしてくださいました。しばらく続けていくうちに、「もう怖くなくなったから大丈夫じゃ」と自信を持って階段を上り下りできるようになりました。

近所に一人で安心して外出できるようにもなりました。叔母の家の帰り道に迷ってしまうことがあったとお伝えすると、理学療法士さんは、陸橋を使ったり、交番の前を通過したり、叔母の家の横を通る散歩をリハビリに組み込んでくれました。横断歩道を渡らずに道を渡ろうとしている母の日常をお伝えしたら、道路の横断に支障がない歩行速度かどうかストップウォッチで測ってくれたりもしました。もし信号がない道路を横断したとしても、母は左右の確認はしっかりできているので、道路を一人で横断しても心配ない速度で歩けていると教えてくれました。

今はもう一人で道路を渡って買い物に出かけることはなくなりましたが、当時は「迷わないか」「車にひかれないか」とヒヤヒヤしていました。でも、迷ってもなんとかなる散歩ルートや、安全で安心できる散歩ルートを作ってくださったおかげで、遠距離介護でそばにつきそえない私の心配はかなり減りました。今では「ちょっと行ってくるわ」と近所の叔母の家に出かけようとする母に、安心して「いってらっしゃい~」と言えるようになれました。

表「母のリハビリのメニュー(40分/回・週2回)」

筋力アップ⤴︎ ⇨ 体への自信回復 ⇨ 外出意欲アップ⤴︎

筋力がついて暮らしが改善されると、母は「まだまだ大丈夫」とひとり暮らしを続ける勇気がわいてきました。今は3ヶ月に一度帰省していますが、帰省のたびに母の歩行が安定し、速度も増し、出かける範囲や回数も増えてきたことに驚いています。楽しい体験をすることで、リハビリの励みにつながり、「また出かけたい」と思えて、「またリハビリをがんばろう」と思えるのかもしれません。母の外出意欲と排泄コントロールの改善に焦点を当てて、表にまとめました。

表「排泄コントロールの改善と楽しいお出かけ体験」

母のリハビリで知った「認知症に対する誤解と偏見」

ネガティブな情報がいっぱい

母に認知症があると分かってから調べたネットには「認知症があると外をうろうろ歩き回って家に帰れなくなる」とか、「認知症がある人はトイレの失敗はよくするようになる」、「認知症があるとひとり暮らしは無理になる」といったネガティブな情報が氾濫していました。

筋肉はうらぎらない

最初は鵜呑みにして、出来なくなることを受け入れていくのが家族の役割なのかと考えて、なすすべもなく悲嘆にくれていました。しかし、母がリハビリを開始してからは、そんな心配は一切なくなりました。リハビリの散歩によって近所の外出で迷うことはなくなり、トイレにも間に合うようになったため、失敗して困ることもなくなました。

高齢者の怪我は室内での転倒が多いと聞きますが、筋力アップして適切な動作をリハビリで教えていただいているので、母の転倒するリスクも減りました。最期までひとりで暮らせるかどうかは、今はまだ進行中なので分かりませんが、「転倒⇨骨折⇨入院⇨ひとり暮らしの限界」という流れを防ぐことができているのはリハビリのおかげだと感じています。

認知症が進行すると筋肉がおとろえるのではなく、歳を重ねて衰えた筋肉はトレーニングするといくらでも盛り返すことができると知りました。筋肉は決して裏切らないのです。

リハビリの費用のこと

「歳だからしょうがない」とか、「認知症があると何をしても変わらない」などとあきらめてしまう前に、訪問リハビリを試して本当に良かったと母の笑顔を見て感じています。もしあなたの大切な人が母のような状態だったとしたら、あきらめしまう前に、理学療法士さんの訪問リハビリを試してみていただきたいと思います。「費用が心配」というかたはご安心ください。介護保険サービスを利用すると全額負担ではなくなりますよ。ケアマネージャーさんか、地域包括支援センターに相談してみてくださいね。

母の笑顔がふえると、まわりの笑顔もふえました

訪問リハビリのおかげで、歩くこともままならなかった母が、ビーチ散歩や温泉旅行、夜の公園散歩など、様々な外出を楽しめるようになれました。理学療法士さんが考えてくれたオーダーメイドの母専用のトレーニングメニューで、母は着実に自信を取り戻し、「100歳まで生きたいなぁ」と生きることに前向きになれました。自暴自棄ですさんだ心だった母が大変身したのです。

まだまだ試行錯誤の最中ですが、たった3年で母の暮らしは激変しました。母の笑顔がふえると、介護を支えてくれる専門職の方々も、良い介護を提供することができたと手応えを感じてくださるようで、「こうしたらもっと良くなるかもしれない」とアイデアを出してくださるようになりました。母はさらに暮らしやすくなり笑顔が増えると、それをみた専門職の方々の笑顔もまた増えるという「ハッピーの循環」が始まりました。

認知症があるからとネガティブになって何もしないのはもったいないことだと思います。できることを増やしていけるのが、筋力アップのアプローチです。最期まで歩いてトイレに行けるように、リハビリはいつからスタートしても遅くありません。「人生あきらめたらあかん」母の背中を見て感じました。

母はひとり暮らしをしています。介護サービスをフルに利用しています。安心して最期まで一人でも暮らせるための必要な介護サービスは「訪問診療」「訪問歯科」「訪問リハビリ」「訪問鍼灸」の4つだと感じています。今後、このシリーズで今までの母の介護に関する情報をまとめてシェアしていきたいと考えています。これからもボチボチとおつきあいくださいますと嬉しいです。

⇧ 自己紹介と我が家の介護のことをまとめています。最近アップしたその他のnoteもごらんいただけます。

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