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『伴走』~修了(卒業)文集から~

かねてより気になっていた地元の居酒屋に意を決して飛び込んでみた。
こじんまりとした店でカラオケもなく客同士で会話を楽しむといった、至って静かな店だった。

そこでたまたま隣席だったのが、熟年の視覚障害者の男性。
話をしているうちに「視覚障害者ランニングクラブ」を主宰し、月2回の練習会をしているが、伴走者が足りないという。
それでは、私もマラソンを走っているので「助っ人」しましょうということになった。

自分の走力を考え、初心者の伴走をさせてもらうことにした。
ランナー(視覚障害者)と伴走者は、長さ50センチ程の紐を輪状にした「絆」の両端を持つ。

始めは絆を通じての腕振り、真っ直ぐの歩行を行う。コースを歩きながら坂の上り下りや右左折、舗装か砂利道かの予告。公園内の桜の開花や新緑・紅葉・積雪など四季折々の情景を説明する。歩行に慣れてくるとランニングに移る。
走りながら予告や説明を行うので、伴走者はランナーの3割増しの走力が必要とされる。

練習会が終わると街に出るが、同伴者がいない時は「白杖」や「点字ブロック」が頼りだ。時には、点字ブロック上に駐車の車に接触したり、行き交う歩行者を叩いてしまうこともあるという。日頃健常者が何気なく渡っている音響式横断歩道は、東西と南北の渡りによって曲が異なる。これが地方によって違った曲が流れるので、地元の人の「声掛け」が有り難いという。

このように伴走を通してメンバーの方々から、視覚障害者の方の目線や気持ちになって伴走することの大切さを教わった。

今年(当時)はリオ五輪・パラリンピックの年。

パラリンピックでは障害者の健闘が感動を与えてくれ、注目されるだろう。
その大会を黒子で支える伴走者や介助者の無償の行為に頭の下がる思いがする。

                          おわり

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