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ノック9本目:パスタブリッジ ~プラオリティとセレンディピティ~

<プログラム概要>
パスタで橋を作るというワークを通じて、プロフェッショナルの心構えを学ぶ研修


「パスタブリッジ」はアルーが開発してきた研修の中でも、極めて異色のプログラムです。

株式会社エデュ・ファクトリー(アルー創業時の社名、2006年前半まで)は当時企業研修ではなく、新卒採用支援の事業を行っていました。企業が学生の方向けの会社説明会等で自社理解を促すために、ビジネスゲームやグループワークを実施することが増加しており、当社はその制作を受託していました。

パスタブリッジは、2005年夏頃に採用支援プログラムとして、大手建設会社様の就職イベント向けに開発をしたものでした。「建設プロジェクトの疑似体験のワークショップ」として制作をいたしました。

<すごい開発バイブル まとめて読まれる際はこちら↓>

すごい開発バイブル


①インターン生の提案

この制作受託案件において当初から「パスタで橋を作る」というアイデアがあったわけではありませんでした。

お客様のご要望をお聴きし、当時経験不足であった私は「さてどうするべきか・・・」と悩んでおりました。

レゴを使ったワークショップとするか?厚紙を使って工作をするか?エデュ・ファクトリー創業期には、幼児向けの「ビー玉迷路工作教室」というものに取り組んでいたことがありましたので、そのアイデアでいくべきなのか?しかしどれもピンと来るものがありませんでした。

そんな時、当時エデュ・ファクトリーのインターン生だったYさん(その後外資系戦略コンサルティング会社にご就職され大活躍をされていらっしゃいます)が私に提案をしてきました。

「池田さん、パスタブリッジってご存知ですか?」

YさんはWEBサイトで「パスタブリッジ」という工作の制作事例を紹介してました。
パスタブリッジとはその名の通り、パスタを素材として橋を作る工作です。歴史がある取り組みで、制作コンテストが開かれるくらい有名なものでした。

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(※画像のパスタブリッジサンプルはアルーによる作成)

Yさんのユニークなアイデアを聴いて、私は早速企画をまとめてお客様にご提案をしたところ、GOとなりました。
大手建設会社様でのパスタブリッジワークショップは評判がよく、その後も数年間リピートすることになりました。これが採用支援プログラムとしてのパスタブリッジ開発の背景でした。

ここまでであれば「すごい開発バイブル」で取り上げる話ではありませんが、このパスタブリッジというワークショップの題材は、思わぬ展開を見せたことで、その後のアルーの企業向け教育研修プログラムに進化していったのです。


②大手通信会社様モチベーション研修案件

2006年秋に大手通信会社様の新入社員の方を対象とした、グループ会社複数社合同でのフォローアップ研修案件の提案依頼を受けました。そのテーマは「モチベーション研修」。3クラス同時開催2日間の研修プログラムを、合計3回開催するというものでした。

オリエンテーションの場に参加した営業担当Sさん(2008年まで在籍)、高橋浩一さん、私の3名は、コンペティションが研修会社10社以上に声を掛けられた大きなものであることを知りました。

競合の中には、モチベーション研修を専門とする研修会社様も参加されていました。モチベーションというテーマで競うには、当社にとってはなかなか厳しいコンペティションであると感じました。

モチベーションというテーマに対応した研修は、当社には「モチベーションマネジメント100本ノック」というものが当時ありました。しかし、モチベーションというテーマに対する当社の研究不足もあり、このコンペの数ヶ月前実施をした大手金融機関様での案件では、良い成果を出すことができておりませんでした。モチベーションマネジメント100本ノックを提案しても到底コンペで勝てそうもなく、かつ仮に受注をできたとしても研修成功は見込めておりませんでした。


大手通信会社様への提案に向けてSさん、高橋さん、私の3人で企画内容を検討しました。
数時間、ああでもない、こうでもない・・・という議論がされた後、天から降ってきたのが「モチベーション研修とパスタブリッジを組み合わせる」という奇想天外なアイデアでした。


提案する内容は2日間の研修でした。企画の骨子は以下のようなものでした。
①パスタブリッジを「チームで行う仕事の疑似体験」と定義する
②パスタブリッジのワークを計2回実施する
③1回目はグループで実施するが「初めて経験する仕事」であり、なかなか上手く行かない
④受講生の方には1回目パスタブリッジワークの経験を振り返り、自分のモチベーションをどのようにコントロールするかを議論する
⑤2回目にクラス全員(1クラス約30人)で難易度を高めたパスタブリッジにチャレンジし、失敗を乗り越え、成功をつかみ取り、自らのモチベーションを向上させる

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結果、この案を提案したところ奇想天外なアイデアをご評価いただき、10社以上の競合研修会社様とのコンペに勝つことができました。

パスタブリッジという過去の開発資産を生かしたこと、お客様の課題と掛け合わせることで、コンペに勝つことができる新企画を作り出すことができたというのは大きな成果であり、チームとしての学びにもなりました。


しかし問題はそこからでした。
プログラムの開発自体は、私とTさん(2006年~2008年まで在籍、研修カスタマイズ開発を担当)が中心となり進めていきましたが、初回の実施をするまで「本当にパスタブリッジがモチベーションマネジメントに役立つのか?」という懸念が消えませんでした。

そこで私は、この研修の開発において大きな失敗をいたしました。

研修成果に対する消せない懸念から、様々なモチベーションマネジメントの理論や概念を詰め込んだプログラムに仕立て上げたのです。

モチベーションマネジメントの概念として取り入れたものは・・・「変えられるもの/変えられないもの」、「自責で考える」、「石切職人の寓話」、「言葉を言い換える」、「夢に日付を入れる」、「カレンダーを作る」等・・・。


③失敗を踏まえてコンセプトを練り直す

納品1回目、結果は失敗でした。パスタブリッジはワークとして盛り上がったものの、モチベーションマネジメントという目的においては、有益な効果を発揮できたようには感じられませんでした。

受講生の方々が深く内省し、次に向けてポジティブな一歩を踏み出すような結果にはなりませんでした。私たちの目にもお客様の目にも明らかでした。

納品1回目終了直後の重苦しい雰囲気のお客様との振り返りの中で、お客様がおっしゃったひと言がありました。

「今回、モチベーションマネジメントの色々な考え方を伝えていただきましたが、全て『右から左に流れてしまった』印象を受けました。受講生が咀嚼しきれていないと感じます。例えば、『石切職人の話』一つだけでもきちんと受け止めてくれれば変わるはずなのですが・・・・」


2回目の納品は3日後でした。次回に向けた改善をお客様に約束しその日は終了となりました。「少し頭を冷やしたい」という話を営業Sさん、高橋さん、開発Tさんにし、翌日に方向性を議論することにいたしました。
帰宅後、私は当時住んでいたマンションの非常階段でお客様の言葉を考えておりました。


「流れてしまう」「咀嚼しきれなかった」「石切職人の話、一つだけでも伝わればいい」・・・。


話は少しだけ脱線しますが、このnoteは「すごい開発バイブル ~100本ノックづくりのDNA」というタイトルです。しかし、本稿のパスタブリッジは「100本ノック研修」ではありません。当社が練り上げてきた100本ノック研修とは異なるアーキテクチャの研修です。

「100本ノック研修」は、伝えるべき概念を絞り込み、シンプルなメッセージにして、繰り返し伝えるから効果がありました。しかしパスタブリッジ&モチベーション研修では多くのメッセージを詰め込んでしまいました。その点に問題があったのでは?という仮説が浮かびました。


翌日、社内MTGで方向性を決めました。

メッセージを一つに絞り込む。受講者の方々に「本当に持って帰ってもらうべきメッセージを一つ選ぶ」ということでした。

それは「変えられるもの」に集中すること
仕事がうまく行かない要因を、「変えづらい」環境や他者のせいにするのではなく、「変えられる」自分の次の行動をどのように変えていくかと考える姿勢を持つことです。

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その1メッセージを2日間の中で「100回繰り返す」というコンセプトを決定しました。

次回の納品までの残り2日間で研修の全体構成を練り直しました。

パスタブリッジという仕事の疑似体験の素材はそのままに、問いかけ、解説をシンプルに、かつ「変えられるものに集中する」というメッセージに繋がるように改定していきました。

1枚1枚のスライドについても中身を変えました。初回では多くを説明しようとしていたために1枚あたりに多くの情報量が記載されていました。
そこでスライド1枚あたりの情報量を絞り込みました。極力言葉を減らし、文字のサイズを大きくし、シンプルかつ本質的な問いかけを繰り返す構成に変えました。
余計な情報を削ると、伝えるべきメッセージが明確に伝わるようになりました。

ビジネスでは「選択と集中」が重要です。研修プログラムにおいても伝えるべき情報の選択と集中が必要でした。この気付きは、以降の開発でもとても役立っております。


全体構成を見直す中で、もう一点重要視したのは、2日間の受講者の感情の変化を想定することでした。

伝えるメッセージは「変えられるものに集中する」ということのみです。シンプルかつ強いメッセージであるが故に論理だけで伝えても受け止めてもらえない可能性がありました。
論理ではなく感情で共感していただくことが大切だと考えました。

そこで研修の流れのデザインが必要でした。研修の流れは「DNAワーク」で提唱した「高揚感」「挫折感」「達成感」というコンセプトを踏襲しました。

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(※図は「DNAワーク」のプログラム紹介資料より)

パスタブリッジという楽しそうなゲームを行うことで研修に対して興味を喚起する「高揚感」。しかし失敗を経て、自分の自責のスタンスについて考え、業務での自分の姿勢について内省をすることで気付きを得る「挫折感」。2回目の難易度の高いパスタブリッジを、姿勢を改めて臨むことで乗り越える「達成感」。この流れがあって、初めて自責のスタンスを咀嚼し共感ができます。

改定の2日間の間は、ほぼ徹夜でした。

そして挑んだ第2回納品。結果は大成功でした。
受講者の反応もお客様のご評価も目指したとおりのものでした。

メッセージの絞込み、100回繰り返し伝える、余計な情報を削る、受講者の共感を生む研修の流れが相乗効果を発揮し研修の目的を実現することができました。続く第3回も成功に終わりました。


④偶発性からの学びを得た受講者

改定後の納品を行って、私にとってもう一つ気付きがありました。

開発だけでなく、私自身も研修の講師を務めました。私が担当したクラスの中では、クラス全体で取り組むパスタブリッジ2回目が失敗してしまいました。(パスタブリッジのワークでは「橋」の工作物を作成後、錘を吊るし一定の重量に耐える必要があります)

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研修の想定では、全体パスタブリッジワークは成功をすることで達成感が得られるはずでした。講師を務めながら内心冷や汗をかいておりました。

しかし、そのクラスの受講生の方々は全体パスタブリッジワーク失敗後、自発的に失敗要因の振り返りを行い、今後の自分たちの行動を変えることができるのは何かということについて議論を深めました。アルーが伝えた「変えられるものに集中する」という学びのポイントをきちんと受け取っていたと感じることができました。

パスタブリッジは、成功と失敗が受講者にゆだねられる一発勝負のプログラムです。他の100本ノック研修と違い予定調和に終らない可能性があります。

しかし研修というのは本来Liveであり、Liveであるが故の偶発的な学びが存在します。その偶発性を含めて予期し、研修デザインを行うことが大切だと学びになりました。

この開発・納品の経験は、以降のプログラム開発に対して大きな教訓となりました。


パスタブリッジを活用したプログラムが次にスポットライトを浴びたのは、2008年秋から冬に掛けて提案、納品をした大手エンターテインメント企業様のグループ合同3年目のキャリア研修でした。

2006年の時は「モチベーション」、2008年では「キャリア」がテーマでした。

しかしそうしたテーマ設定の裏側にあるお客様の真のニーズはどちらの場合でも「現状に満足せず、一段上の視座を持ち自分から行動すること」を受講者にご理解いただくことでした。

私はそんなテーマにこそパスタブリッジは活用できると考えています。
なんとなく仕事をしていたら突破できない「チームで行う初めての仕事」。それを超えるには自責のスタンスを持ち、一歩踏み出し、チームに貢献することが必要であると体感的に学ぶことができるためです。


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パスタブリッジ 開発における教訓


DNA41:過去の開発資産を活かす
採用支援プログラムとして開発したパスタブリッジを再活用した

DNA42:学びのポイントを一つだけに絞り、徹底的に繰り返すことでメッセージを落とし込む
「変えられるものに集中する」だけに絞込み100回繰り返したことで、受講者の心に響く研修を行うことができた

DNA43:スライドはシンプルにすることで、伝わることがある
スライドの情報量を減らすことで、本当に伝えるべきメッセージをクリアに伝えることができた

DNA44:高揚感、挫折感、達成感を体験できるようにデザインする
キーメッセージに共感してもらうために、受講者の感情の変化に配慮した研修プログラム構成にした

DNA45:予定調和に終らない、偶発性から受講生が得られる学びも存在することを認識する
パスタブリッジは講師の予想通りの落としどころにならない可能性があるが、そうした場合でも受講生が学ぶものは存在する

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本noteでは別途アルーの創業からの歴史をまとめた「スタートアップ企業としての営業組織づくりノウハウ」を公開しています。ぜひご覧ください。

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