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味玉は正義【日曜の現実逃避】

味玉が好きだ。だから今日は味玉を作った。むしろ今日はそれしかしてない。

突然昔読んだあの小説なんだっけ?と思い立ち、僅かな記憶を頼りにGoogleの検索欄にキーワードを2つ3つ入れて検索してみたけれど、一向に私が望んでいる答えが出てくる気配がない。なんだかとても気になってしまってかれこれ一時間くらい手を替え品を替え試しているけれど、全く手がかりも掴めない。あの小説は幻だったのだろうか。確か高校の時、授業か何かで無理やり読まされた気がするんだけど。おかげで東大王に出たら早押し一問くらいは答えられるくらい、日本の小説家と作品名の知識を得ることが出来た。この時間は無駄ではなかったと思いたい。

明日からまた仕事が始まる。
土曜日は友人の絵画の個展に行き、久しぶりに色々と近況を話した。彼は最近仕事を辞めて、絵の方に専念することにしたらしい。「イラストの仕事が結構きてて意外と忙しいんだよね」という彼が眩しかった。

「ほんと、仕事辞めてよかったよ」

羨ましいセリフだなと思った。私の口からは一生出てこないセリフ。嫌味なく彼の口からこぼれたそれは、私への当てつけでもなく自慢でもなく、本心なんだろう。

「私も仕事辞めたいな。辞めても何にもないけど!」

そうだった。何にもないんだった。自分で言って当たり前のことを再確認して、少し切なくなったりした。

最近はアニメ「輪るピングドラム」を見ている。
私は動画を見ながら料理を作るので、目の端でアニメを見つつ、せっせと卵を茹で、殻を剥き、つるんとむけた卵をめんつゆに浸して、明日の楽しみに味玉を仕込んだ。

「きっと何者にもなれないお前たちに告ぐ!」

このセリフが何者でもない今の私にぐさっとくる。でもそれがなんだか心地よい。

私が何者かになれるのはいつなんだろうか。
そもそも何者かになっている状態はどういう状態なんだろうか。Googleで検索されるようになれば何者かになるんだろうか。昨日の彼のように個展を開けるようになれぼさすがに何者かを名乗って良いのだろうか。

とりあえず今冷蔵庫を開けば、現在進行形で味が染み込んでいるであろう味玉ちゃん6兄弟が可愛らしく並んでいる。今日の成果はこれだけ。それでも何者でもない私が味玉を仕込んだ私として肯定された気がするし、とにかく明日味玉を食べるのが楽しみである。それだけでも明日憂鬱な月曜日を生きる糧。味玉は正義だ。

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