真っ赤なラーメン

誰しも、ラーメンを食べたくなるときがある。その日、私がそうだった。旦那さんもいないし、そういえばずっと食べたかった気がする。そうだ。今日はラーメンを食べよう。

最近一人ラーメンするんですよね。そう言うと、人から「意外だね!」とか「私、いまだに入る勇気ない。すごいね~」とか言われる。私からしてみれば、一人でおしゃれなカフェに入る方がすごい。まず、声小さい族の私は、オーダーの時店員さんに気づいてもらえないんじゃないかと不安になる。その点、ラーメン屋さんは、大体食券制度だから気楽だ。ほんとはそんなちっちゃいことを気にしているだけなんだけど、意外だと思われるのは、なんだか新しい自分が他人の中にいる気がして、ちょっと嬉しい。

券売機の前で、私は自分のおなかと相談していた。何を食おう。

気になったのは、青鬼大辛ラーメンなるもの。でもこれ、すごい辛いんじゃないか。そんな懸念はあったけど、私はその青鬼大辛ラーメンのボタンを押した。

「青鬼大辛ラーメン入りやした~」

食券を差し出すと、店員さんの威勢のいい声が響いた。それを聞いて、本当に私は、青鬼大辛ラーメンを食べるんだ…と不安とわくわくでいっぱいになる。

ほどなくして、ラーメンはやってきた。

わ。まっか。

まるで、地獄だ。見た目からして、辛い。恐る恐る口にスープを含むと、見た目ほど辛くはなくて、ちゃんと美味しい。でも、やっぱ辛い。

私は、久しぶりにはふはふ言いながらものを食べた。食べるほどに、汗と鼻水が出る。ちょっと周りの目が気になってきた。ここで、汗も鼻水も流さずスマートに食べられるいい女でいたかったな、なんて。

気づいたら、丸まったティッシュがどんぶりの横にちらほら。この店が無限ティッシュ(ティッシュの箱がまんまあることを言う)の店で良かったと思う。

ところで、これは、私が新年初めての挑戦もある。私の今年の目標。それは、したいことをする。行きたいところに行く。そんなの、当たり前な人には当たり前に出来ることだけど、私にとっては意外と難しい。私は、人任せで、この世で自分に出来ることなんて少ない。そう思っている節がある。会社の異動希望にも、「現状維持」しか書いたことがない。まず、行きたいところがないし、どうせ異動するときは、会社の都合で異動させられるんでしょ、そう思っている。

その考えは、いまでもそこまで悪くないと思っている。でも、なんだかちょっともったいない気もしたのだ。せっかく大人になって、青鬼大辛ラーメンを食べれるくらい自由なのに。そこで、手始めに、一番ハードルの低いラーメン屋に行きたいと思ったので、来た。そして今まで食べたことのない、真っ赤な辛いラーメンに挑戦しているのである。

最終目標は、パリ。フランスのルーブル美術館に行くこと。海外に一人で旅行なんて、無謀だろうか。まず手始めに、国内旅行で一人旅してみようか。

新年あけて、一週間。まだ野望は尽きない。心配していたけど、なんとか美味しく青鬼大辛ラーメンを平らげた。食べ進めるうちに、なんだか辛さにも慣れていった気がする。帰り際、店員さんが100円トッピング無料券をくれた。店員さんは、私の小さな挑戦を、知る由もない。そしてその挑戦に無事打ち勝ったことも。そして、青鬼大辛ラーメンの先に、ルーブル美術館を見据えていることも。それよりも、心配なのは、おなかの調子だ。明日、絶対おなか痛くなるでしょ、これ。挑戦を終え、結局心配性な私に逆戻り。おなかに爆弾を抱えながら、私は寒空を蹴って家に帰った。

一度はサポートされてみたい人生