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スマート冷蔵庫の普及によってブランドは「最愛」ポジションを目指すか「最安」で売るかの二者択一を迫られる

数年前から妄想していることなんですけど、もしAmazonがスマート冷蔵庫を出したら一般消費財メーカーのマーケティングは大転換を迫られるんじゃないか。

それはもう戦後75年続けてきた現代マーケティングを根底から覆(くつがえ)すくらいのインパクトがあるかもしれません。

「なんで冷蔵庫?」「なんでAmazon?」「いやいや、日本のEC化はそんなに簡単に進まないよ」という意見が聞こえてきそうです。

僕も、日本の、特にスーパーやコンビニで買うことのできる一般消費財におけるEC化率は20%が限界だと考えてきました。

でも、此度のコロナショックで、もしかしたら今後10年(2030年)で20~30%、20年(2040年)で30~40%くらいまで上がってしまうんじゃないか。

そして、もしそうなったら、第一位想起ポジションを獲得している「最愛ブランド」か、最安値でしか買ってもらえない「最安ブランド」しか生き残れない(どちらでもないブランドは買ってもらえず大きくシェアを落とす)未来がやってきてしまうのではないか、と思うに至りました。

その理由(妄想)をまとめてみます。

日本のECの現状

日本のEC化は欧米に比べて遅れていることが知られています。

2019年4月に経済産業省が発表しているデータをこちらがよくまとめてくれています。

2018年のBtoC食品産業(食品・飲料・酒類)のEC化率は、たったの2.64%。市場規模がバカでかい(64兆871億円)ので、それなりの規模がECで取引されても(1兆6919億円)割合はとても小さく見えます。

日本国内のEC市場規模は17兆9,845億円で、EC化率は6.22%。前年対比で8.12%増ですが、まだまだ存在感として大きくありません。

ここから一見関係の無い話が続きますが、後でぜんぶつながるのでざっと目を通してください。

日本の森林率は先進国で第3位

突然ですが、日本はとても森林が多い国です。

日本の国土のうち、森林率は実に68.5%。なんと7割が森林です。ちなみに、地球の地上全体の平均森林率は31%なので、倍以上です。

森林が多いということは、山間部が多い(平地が少ない)ということです。日本は農業中心の国だったため、人は山間部に集落や村をつくり、分散して生活をしてきました。

四季がある国、日本

日本には四季があります。

四季はニュージーランドやオーストラリアにもありますが、3ヶ月単位で季節が明確に変わるのは日本の特徴とも言われています。

また、春は桜、夏は海、秋は紅葉、冬は雪と、象徴となるわかりやすい特徴があり、それもあってか、古くから季語を楽しむ俳句や短歌、風流、風情、侘び寂びなどの文化が発展したとも言えるのでしょう。

ユネスコ無形文化遺産に登録された「和食」は、「旬のものを楽しむ」ことを大切にします。

その季節の旬のものを、風情たっぷりに楽しむ。そんな日本の食文化は、四季があることが大きく影響していると言えます。

島国、ニッポン

さらに、日本は、国土が海に囲まれた島国です。

そのため、農業だけでなく、沿岸部では漁業が発展しました。

当たり前ですが、海産物は(穀物、野菜、肉と比べて)品質の劣化が早いですよね。そのため、鮮度にこだわる国民性が生まれたとも言えるでしょう。

フランス、イタリア、中国、シンガポール、フィリピン、ハワイ、ペルー、チリなどでも生魚や生牡蠣を食べますが、お刺身をはじめ、ここまで生の海鮮物を好んで食べる国民はかなり珍しいといえます(和食文化の影響もあるのでしょう)

小売店だらけの国、日本

日本の小売店舗数は、1970年に189.7万店まで増加し、ピークを迎えます。

人口1,000人当たりの事業所数を「店舗密度」と言いますが、日本を超えている先進国はイタリアだけで、フランスの1.5倍、アメリカとイギリスの2倍もありました。

これは1970年の人口1,000人当たり小売店舗数。

日本の小売店舗数

全国津々浦々に多くの小売店舗が存在していたことがわかります。でも、一店当たり販売額で見ると、一転、こうなります。

小売店の売上

店舗密度が高い地域は一店舗当たり販売額が下がります。供給過多まで小売店舗数が増加したことがわかります。

出典はこちら。

1974年の大規模小売店舗法、2000年の大規模小売店舗立地法の施行により、チェーンストアによる大規模小売店舗が増加し、2016年には日本の小売店舗数は100万店を下回りました(その一方で、一店舗あたり売場面積はどんどん大きくなっています)

いずれにせよ、日本は古くから多くの小売店が存在してきた結果、旬のもの、新鮮な食材、必要な日用雑貨は、商店街やスーパーに(徒歩や自転車で)買いに行けば良い、という消費スタイルが根付きました。

まとめるとこうなります。

山間部が多い島国

農林水産業で生計

全国津々浦々に分散して人が生活してきた

生活するためには近所に食料品や日用雑貨を購入するためのお店が必要

集落や村ごとに八百屋、肉屋、魚屋、日用雑貨店などの業種店が生まれる

商店街として発展(家のすぐ近くにお店がある)

四季や旬のもの、鮮度を重視するため週に何度も買い物に行く

これは生鮮品や日用雑貨だけの話ではなく、洋服や家電などの耐久消費財も、家の近くに多くの小売店舗があるため、直接行って買っちゃった方が早いし(実際に目で見て買えるし)効率的、と、EC化率が高まらない一番の要因になってきたとも言えます。

・旬のもの、鮮度の高い食材を好む
・家の近くに小売店が多くある
・週に2~3度、スーパーや商店街に行く生活スタイルが当たり前
・実際に目で見て買いたい人が多い

これらが、日本の(特に一般消費財における)EC化率は、20%程度が上限なのではないか、と考えていた理由です。

そもそも買い物に「楽しい買い物」と「楽しくない買い物」がある

少し違う視点の話を。

買い物には「楽しい買い物」と「特段、楽しくない買い物」の2種類あると思っています。

楽しい買い物は、ファッションや趣味性の高いものなどが代表例で、自動車、家具、その他に文脈性の高いコスメなどが該当します。

一方の、特段楽しくない買い物は、スーパーやコンビニ、ドラッグストアで購入する一般消費財(生活品)です。

一般消費財の買い物は、「いまからスーパー行くんだ♫ルンルン」と心を踊らせて行くものではなく、なくなったから補充のために仕方なく行く人が多いですよね。

しかも、お米や生鮮食品、日配品、シャンプーなどの日用雑貨はかさばるし重たい。小さな子ども連れで行って帰ってくるのはなかなか大変です。

ちなみに、僕はスーパーやドラッグストアが大好きなので、ルンルン心が踊ります。

人間の最上位ニーズは「ラクをしたい」

もうひとつ別の話。

仕事柄、多くのグループインタビューをやってきましたが、グルインは終わった後に参加者の発言を一つひとつ付箋に書き出して、それがどのような意図があり、それぞれが因果として結びついているのか、トーナメント戦のようなピラミッド型にまとめていく作業があります(ニーズ構造化分析)

商品やサービスによって未充足ニーズは違うはずなのに、一般消費財の場合、一番上にくる「最上位ニーズ」は、だいたいいつも「ラクをしたい」になります。

不便は嫌だ。便利が良い。生活を快適にすごしたい。心豊かな毎日を送りたい。でも面倒くさいのは勘弁。とにかくラクをしたいのです。

コロナが変える買い物行動

必要なものがあったら、近くのお店に行って買えば良い。

それが当たり前であり、その方がなんとなく安心だし、便利(な気がする)。そう考えていた日本人は多かったはずです。

でも、それが此度のコロナ騒動で、風向きが変わってきました。

「人との接触を8割減らす」という大方針のもと(生活必需品の買い物は許可されているものの)物理的に、日々の買い物に行くことが少なくなりました。

いつもはスーパーで買い物をする商品も、Amazonや楽天やヤフーショッピングで買ってみる。

するとどうでしょう。

多くの人が、意外と便利じゃん!(これでいいじゃん!)と、改めてネット通販の便利さを再認識したのです。

そもそも、スーパーやドラッグストアで購入する商品は、特段楽しくない買い物。重いし、往復の移動を考えると、ネットでポチって、翌日家に届けてくれた方が(当たり前ですが)便利であることに改めて気づいたのです。

Amazonダッシュは自動発注のテスト?

2015年3月31日に発表され、2019年8月31日をもって物理ボタンのサービスを終了したAmazon Dushボタン。

これは、先週書いた第一位想起ブランドの習慣購買を簡単にするためのツールでした。

Amazonダッシュ

しばらくすると、多くのユーザーで使用頻度が低下することを理由に、物理ボタンのサービスは停止しましたが、僕はこの取り組み、未来の自動発注へ向けた布石だったんじゃないかと考えています。

Amazon冷蔵庫がもたらす破壊的イノベーションはマーケティングのルールを根底から変えてしまうこと

本題です。そして、ここからは大いに妄想です。

仮に、です。Amazonがスマート冷蔵庫を発売したとします。

スマート冷蔵庫は、2025年に4兆円を超えるとの試算もあるスマートホーム市場の中核的家電。様々な家電がIoTやAIに対応し、スマホやスマートスピーカーから操作できるもの。スマート冷蔵庫は、すでに各社がコンセプトモデルを発表し、実用化(一般販売)への準備を進めています。

LGやサムスンの韓国勢、Panasonicや三菱電機などが発売する初期モデルのスマート冷蔵庫は100万円くらいする高価なものになることが予想されます。

日本には5,700万の世帯が存在します。ということは、5,700万台(以上)の冷蔵庫があるのでしょう。

もしもです。

Amazonが10万円や20万円くらいの価格でAmazon製スマート冷蔵庫を発売したらどうなるでしょう。

壊れていない人が買い換えることはめったに起こらないかもしれませんが、調子が悪くなったり、引っ越しするとき、買い替えを検討する際の購入選択肢には必ず入るでしょう(なにしろ普通の冷蔵庫の値段で、100万円もするスマート冷蔵庫が手に入るんですから)

もしかしたら、だいたいの家庭の冷蔵庫が、5年くらいで(買い替えによる入れ替えによって)日本の家庭の冷蔵庫は、半分がAmazon冷蔵庫に、なんてことになるかもしれません。

Amazonは、なぜ売れば売るほど赤字になる100万円のスマート冷蔵庫を10万円や20万円の破格でばらまくのか。

それは、冷蔵庫の中身の年間LTV(Life Time Value)つまり一年間に冷蔵庫の中で消費される買い物金額を(ほぼ)全額手中に収めるためです(ついでに冷蔵庫の中身以外の乾物や調味料、そしてその他の(洗剤やシャンプーなどの)生活商品も手中に収めるでしょう)

Amazon冷蔵庫は、当然、AmazonIDと連携します。

Amazonでの買い物をすればするほど、AIがライフスタイルや趣味嗜好を学習していきます。

購入したときのユーザー情報登録で、家族構成も入力するでしょう。

自分、奥さん、子どもの生年月日(以降、勝手に加齢を判別する)。食材アレルギー、そしてもしかしたら健康診断情報やウェアラブルデバイスによる健康情報とも連携するかもしれません。

Amazonは、「この商品をチェックした人はこんな商品もチェックしています」「この商品を見た後に買っているのは?」など、購入実績や興味データから精度の高いレコメンドをしてきます。

でも、いまの限界は、購入実績や(クリックとしての)興味データをAmazonに提供しない限り、レコメンドができないのです。

しかし、家族の年齢やアレルギー、健康状態や好みの料理や食材情報が入手できれば、未来の消費に対してレコメンドをすることができるようになります。

Amazon冷蔵庫ユーザーは、毎日何も考えず、ヒューリスティック(脳のショートカット)で生活しているだけで、どんどん生活が便利になるのです。

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「いや、そんなの今さら言われなくても昔から言われているよね?」ですよね。

ここからが妄想の本題です。

Amazonが日本の家庭(世帯)の大多数(たとえば約半数の2,500万世帯)の冷蔵庫を奪取した場合、ユーザーにこういう提案をしてくるのではないでしょうか。

「マヨネーズはこれからも(いつもの)キユーピーマヨネーズでよろしいですか? それとも、そのときの最安値のマヨネーズを(自動)発注しますか?」

これ、大変なことだと思うんです。

「マヨネーズはキユーピーマヨネーズカロリーハーフが良い。でも、焼肉のたれはエバラでもキッコーマンでも日本食研でもダイショーでもいいから最安値商品で良い」

これが行われると、こだわりが強く、かつ習慣購買されているブランド(≒Evoked Setの第一位選択)は、購入の意思決定が脳のショートカット(ヒューリスティック)からAmazonの自動発注エンジンに切り替わります。

ただでさえ、習慣購買されている商品は、ほぼ何も考えず、まるでロボットのように繰り返し購入されています(だから強い)。

それでも2位以下のブランドが戦えるのは、店頭という最後の刺激を与えるラストチャンスがあったからです。

でも、Amazon冷蔵庫によって習慣購買(第一位選択ブランド)の自動発注が始まってしまったら、もう未来永劫(と言ったら大げさですが)ブランドスイッチを起こすことは極めて困難になります。

このように、Amazon冷蔵庫は、マーケットシェアを固定化させる装置になりえます。

そして、店頭による刺激がなくなり、ブランドスイッチが難しくなった2位以下のブランド(メーカー)は、Amazonからこのような逆提案を受けるでしょう。

「どうします? 物量をさばきたいのなら、XX日からXX日の期間の「最安値商品」にエントリーしますか? 現在、貴社の商品カテゴリーにおいて、最安値を希望している顧客(Amazonユーザー)は全体のX割で、数にしてXX万あります。その期間の想定販売数はXX万個になるでしょう。仕入値(掛け率)はXX%で、最安値エントリー料は一週間XX千万円です」―――。

メーカー各社は、大量の商品を販売してくれる(セブン&アイ、イオンなどの)大規模なチェーンストアに対し、毎日、血のにじむような営業活動を行っています。

そこに、Amazonが参入してくるんです。

そして、Amazonで購入されるのは、通常価格で自動発注される最愛ブランド(第一位選択ブランド)か、それ以外の最安ブランドのどちらかだけなのです。

「便利」と「気持ち悪い」の境界線

「仮に、そんな未来が技術的に可能になったとしても、家族や個人情報をAmazonに提供するなんて気持ち悪い! だからそんな未来はやってこないだろう。」

そう考える人も少なくないかもしれません。

でも、便利と気持ち悪さの境界線は、日々変化していきます。

ネット通販でクレジットカード情報を登録するなんて怖い!と思っている人がほとんどいなくなったように、そして、Twitter、Facebook、InstagramなどのSNSで日常生活を投稿することにほとんどの人が抵抗感がなくなったように、人は少しずつ、便利さと気持ち悪さの境界線を移動させて行くものです。

Amazonに生活(買い物)、家族構成やライフスタイル、趣味や嗜好情報を提供することが気持ち悪くない(少し気持ち悪いけど、便利さと天秤にかけたら便利さの方が勝る)人は、決して少なくないでしょう。

第一想起ポジションの獲得が急務

以上、大いなる妄想でした。

Amazonがスマート冷蔵庫を発売するかはわかりません。発売するとしても超低価格で一気に市場浸透を図るかどうかもわかりません。自動発注は結局夢物語で、うまくいかないかもしれません。そして、相変わらず日本は(実店鋪としての小売店が強く)一般消費財領域ではEC化率が20%程度で頭打ちになり、依然として店頭での競争が主戦場のままかもしれません。

でも、コロナによる半強制的なリモートワークの普及が、コロナ不安解消後の仕事の仕方に多大なる変化を与えるように、買い物の仕方も少なからず変化させるでしょう。

そして、IoTやAI、デジタル家電、スマートホーム構想、GAFAによる支配などから考えても、この妄想話は、決して可能性ゼロのシナリオではないと思うのです。

Amazonがスマート冷蔵庫を発売してもしなくても、第一位選択(だいブランドが強いことは前に書いた通りです。

「その日」が来たら、もはやEvoked Setでも勝てないのです。第一位選択ブランドへの道は、もはや待ったなしです。

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