見出し画像

消費、消耗し続ける暮らしよりも、つくり、あたため、つないでいく暮らしがいい。ものづくりのまち・燕三条の人々が教えてくれたこと【新潟県三条市〜燕市 7月20日〜21日】

この旅で最大のピンチとなった1日を越えて、新潟市から予定より1日遅れで向かったのは、三条市。今日から2日間は、ものづくりの聖地・燕三条を見て回ることに。まずは私たち家族もキャンプ用品を愛用しているスノーピークの工場へ。友人の紹介で、工場見学をさせていただけることになっていた。新潟市内から高速を走り、1時間ほど。豊かな自然に包まれた三条のまちへ降り立ち、スノーピーク社の新しい工場「Operation Core HQ2」(地図のB)へ。

雨の中到着した私たち家族を笑顔で迎えてくださったのは、工場長の上原陽一さん。エントランスには見覚えのあるテントが設置してあり、娘も緊張がほぐれた様子。さっそく中をご案内いただく。この工場では、商品の発送から製造、修理まで幅広い業務を行っている。発送の現場では全国の直営店や個人からの注文がコンピュータで管理され、“ミスの起こりようがない”ような工夫が施されている。製造現場では、焚き火台の製造を見学。大きな金属音にびっくりする娘。その横では、ロボットによる組み立てが行われているが、最終工程はやっぱり人の手が必要。一つひとつ、丁寧に仕上げが行われて、念入りなチェックの末、出荷されていく。機械に頼りすぎない手仕事、その完成度の高さに、頭が下がる想い。

一方、修理を請け負っている現場には、大量のテントやタープなどがユーザーから送られてきていた。それをひとつひとつ広げ、手作業によってもくもくと修理に取り組む人々の姿は、まさに職人。美しく補修されたギアたちは、またユーザーのもとへ。この営みが、長く愛される商品を作り出しているのだ。その他にも、梅雨時期は「乾燥」などのメンテナンス依頼も多いという。スノーピークの商品価値は、こうした購入後のメンテナンスによって確実に高まっているのだと感じた。

その他にも、テントが会議スペースとして利用されている遊び心あるオフィスも見学させていただいたり、スノーピークの魂を存分に感じさせていただいた。何よりも、その言葉の隅々から自分たちの仕事への誇りと自信を感じる上原さんのあり方に触れられて本当に良かった。お忙しい中アテンドいただいた上原さんに心からのお礼をお伝えし、工場をあとに。そして向かったのは…キャンプ場!いつか訪れてみたかった「スノーピークHeadquartersキャンプフィールド」へ。

工場から車で30分ほどで、広々とした芝生のフィールドが見えてきた。ストアと本社オフィスも併設していて、施設も充実。オートサイトにチェックインし、車を移動。雨なのでフィールドは、ほぼ独占。のんびりと夕飯を準備して食事を楽しみ、シャワーも浴びて静かな環境で就寝。気持ちいいフィールドで、家族の時間を堪能させていただいた。なんて贅沢な夜なんだろう。

朝も小雨が降っていたけれど、パパお手製のハンバーガーと娘作・いもむしサンドイッチで賑やかに朝ごはん。そうそう、娘は最近、積極的に洗い物をやってくれるようになった。みんなの家事への参加意識が、じわじわうれしい。

素晴らしいキャンプフィールドを堪能し、近くの温泉で朝風呂を楽しんだあとは、友人オススメの「こくわ屋」でランチをいただくことに。電話をしたら、お客さんがいっぱいの店内で、カウンター2席とテーブル2席を確保してくださっていた。美人親子のおふたりに笑顔で迎えていただき、お料理を待つ間はグズる息子のためにベビーカーを貸してくださったり、気持ちもほっこり。運ばれてきたカレーと菜食ランチの味に、さらに心がほくほく。主人のカレーはとってもフルーティなのに、スパイスもしっかり感じられる本格的なお味。私がオーダーした菜食ランチは、一品一品、丁寧な味付けがうれしく、ボリュームもたっぷり。あぁ、こういうものを身体が求めていたんだ!と、大げさじゃなく涙が出そうだった。

娘の「こくわんカレー」はさらにフルーティで、「何が入ってるんだろうね」なんて話していたら、娘の香織さんがこくわの実を差し出してくれた。「これが入ってるんですよ。食べてみてください」と。娘と味見してみると、キウイのような味わいのさわやかな味。キウイがちょっぴり苦手な娘も、なぜか美味しい!と大興奮。こくわの実は、この地域の山に普通に実っている木の実らしく、店名もこの実から。甘口のみならず、「こくわ屋」のすべてのカレーに使われているそう。美味しさにハマった娘と「こくわジェラート」をオーダーし、こくわづくしのランチを楽しませていただいた。

会話を楽しみながら、コーヒーを淹れる香織さんの手元に目をやると、なんとこれから見学に行こうと思っていた鎚起銅器の老舗「玉川堂」さんのコーヒーポットが。聞くと、「店の看板と思って思い切って買っちゃいました。コーヒーが本当にまろやかで美味しくなるんです」と香織さん。使い込むほどにいい色に変わっていっているのがわかる。地元の技術に誇りを持ち、お店の看板として使い込んでいるなんて、とてもいいなぁ。偶然にも次へのワクワクもいただいて、「こくわ屋」をあとにした。千加子さん、香織さん、心地よい時間と空間を、本当にありがとうございました!

そして向かうは燕市の「玉川堂」。無形文化財に指定されている鎚起銅器の江戸時代から続く老舗で、世界有数の金属加工産地である燕において、象徴的な存在。本店では職人さんの作業現場も見学させていただけるとのことで、見学時間に合わせてお邪魔した。趣ある門をくぐり、日本家屋の中に入ると、玉川堂さんの看板商品がずらり。子連れの身ではちょっと緊張するが、「どうぞどうぞ」とあたたかく迎えていただけて、ホッと心が安らぐ。注意事項などの説明をお聞きしたあと、さっそく見学へ。

カンカンカン。銅を打ち付ける音が心地よく響く工場へ足を踏み入れる。丸太の上で、畳で、一枚の銅板に真剣に向き合っている職人さんたちの姿を間近に感じ取る。金「鎚」で、打ち「起」こしながら、器を作り上げていく「鎚起」銅器。驚くことに、最新の技術では、一枚の銅板を丁寧に丁寧に打ち続け、湯沸かしの出っ張りまでも形作っていくことができるのだとか。てっきり、口の部分はあとから付けるものだと思い込んでいた私。驚きを隠せない。湯沸かしをつくるために使う鉄棒、金槌は、数十種類。途中、銅が固くなったら高温で焼きつけ、柔らかくしてまた打ち続ける。出っ張りをつくる際、銅版が薄くならないための工夫なども説明いただき、ひとつの湯沸かしを形づくることが、地道で果てしなく根気を要する作業であることを知る。

色付けや柄についても、職人技を一つひとつ、丁寧にご教示くださった。打ち付けと同様に色付けにもさまざまな難易度があり、すべての工程をひとりでできるようになるまで、20年〜30年もの歳月を要するのだとか。その道を極めた職人さんだけがつくることができる器や湯沸かしは、「職人にきちんとお支払いをしたいので」とスタッフの方がおっしゃる通り、値段もやはり相当のもの。先ほどの「こくわ屋」さんのように、良いものを選び、長く愛用する人々に支えられ、その技術は現代へと受け継がれている。

見学後、営業のマシューさん(カナダ出身で、ものづくりの魂に心惹かれて新潟に移り住んだとか)とさまざまな話を交わし、湯沸かしはとても手が届かなかったけれど、ロックグラスを主人にプレゼント(それでも充分背伸び!)することに。ウィスキー好きの主人が長く愛用してくれたら、それはとてもうれしい。これから先、使う度にこの旅で感じたことを思い出してくれたらいいな。マシューさん、職人のみなさん、ものづくりの真髄に触れる素晴らしい時間を、ありがとうございました。

燕三条。ものづくりの魂が息づくまちには、技術を愛し、長く深く、地道に取り組み、その価値をつなぎ続ける人々の姿があった。たくさんのものが短い命で消費・消耗され続ける日本社会においてもなお、受け継がれているものの背景には、必ず、人の想いがある。それを応援する人々の行動がある。急ぎ足の旅のなかでもふと足を止めて自分の暮らしを見返したくなるような、貴重な滞在だった。旅から帰ったら、自分の暮らしを、もう一度見返してみようと思う。無限にものや時間を消費、消耗し続ける暮らしよりも、つくり、あたため、つないでいく暮らしがいいな、と思うから。

ハプニングから始まった新潟滞在を終え、明日は長野へ。古い友人の家へ、あの学園へ、また楽しみな旅路が始まる。暑さに負けぬよう、たっぷり休息を取りながら、旅を続けよう。



この記事が気に入ったら、サポートをしてみませんか?気軽にクリエイターを支援できます。

7
フリーランスライター・エディター、2人の子どものお母さん。人の言葉をありのままに聞くことで本質を見つめるインタビューがライフワーク。現在は主にウェブマガジン「greenz.jp」にて、「ほしい未来」のつくり手のみなさんの言葉を紡いでいます。
コメントを投稿するには、 ログイン または 会員登録 をする必要があります。