正岡子規『はて知らずの記』#07 七月二十四日 二本松→福島
(正岡子規の『はて知らずの記』を紹介しています)
汽車で福島へ。そして夜散歩。
二十四日、満福寺を辞して、
二本松より、汽車に上る。
福島の某屋に投ず。
福島の郭外、
小さき山一つ、横たはれり。
これなん、信夫山といふ名所にて、
其の側に公園の設けあり、と聞きしかば、
そことなく、そぞろありきす。
十二日の月、澄み渡りて、
青田を渡る風、涼しきに、
空しく町に帰る心なければ、
畦道づたひに迷ひ行くも、
興ある遊びなり。
終に、公園に辿り着く。
公園は、
山麓、稍高き処にありて、
監獄署と相並び立てるは、
地獄極楽の双幅を並べ懸けたる心地す。
上る事、少時にして、
平坡の上に出づ。
月は大空にありて、
四方の山峰、紗を被りたるが如く、
福島の町は、それかと許り、
足下に糢糊たり。
満福寺
二本松(→二本松駅)
福島(→福島駅)
小川太甫宅に宿る。(全集第22巻)
亭主太甫氏俳諧を能くす。(初出)
信夫山
公園(→信夫山公園)
傍の亭に酒のみて争ひ罵る声聞ゆれど月見るさまにもあらねば明光は単に我旅衣の上にのみ洒き来れり。(初出)
福島県下は古より蚕飼ひする者多く況して此頃は此業に世渡りのたつきを求めぬ家もなければ福島町の如き固より富み栄えながら世に聞えたるには似ず戸数僅かに四千許りなりけるとぞ、其外此県下にては大道坦々糸の如くここの町かしこの村へと通ふこと旅人の幸、商人の悦びながらかにかくと世の打ちさわぎたるもはや一昔にぞなりける。(初出)
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