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正岡子規『はて知らずの記』#11 七月二十八日 仙台

(正岡子規の『はて知らずの記』を紹介しています)

宿で休養。しかし月を見て焦る。


二十八日、朝。
天、漸く熱し。
病の疲れにや、
旅路の草臥れにや、
朝とも昼とも夜ともいはず、
ひたすらに睡魔に襲はれて、
唯、うとうとと許りに、
枕一つが、こよなき友どちなり。

燈下に、日記など認め終りて
窓を開けば、
十六夜の月、澄み渡りて、
日頃のうさを晴らす折から、
不図、松島のけしきこそ
思ひ出だされたれ。
心飛び立つ許りに、はやりて、
如何でか、この月を、あだには、
と、足は戸の外まで踏み出しながら、
最早、夜深けて、
終列車の時刻も過ぎたり。
独り、不平に堪へず、
頻りに呟きながら
蚊帳に入るに、
生憎、月光は、
玻璃窓を透過して、
わが枕辺に落つ。

月に寝ば 魂松島に 涼みせん

十七夜の月、見過ごしては、
ことさらに、松島の風光に負くに似たり。
明日は必ず、扶桑第一の山水に対せん、
と独り契り、独り点頭きて、
眠に就く。


松島(この日は思慕するだけ。)

国分町の針久旅館に泊まる。

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