見出し画像

現場を動かせないマーケターへ - 「他者と働く / わかりあえなさから始める組織論」

いかにして「顧客の行動」を変えるのか、と多くのマーケターが日々考え続けている事かと思います。

ただ、最近つくづく痛感しているのは、顧客の行動を変えるためには「社内(部下や他部署)の行動を変える必要がある」という事です。当たり前ですが、いくら良い戦略を掲げたとしても、それを実行するメンバーが何もしなければ意味がないからです。

マーケティングはチーム戦であり、社内の幅広いメンバーと連携する必要があるという事実は、言わずもがなかと思います。「顧客理解」ができている優秀なマーケターだとしても、「部下や他部署の理解」ができていなければ、社内を動かす事ができず大きな成果は残せないでしょう。

今回ご紹介するのは宇田川元一氏の著書『他者と働く / 「わかりあえなさ」から始める組織論』です。難しい社内コミュニケーションの課題に立ち向かっているマーケター達の助けになればと思い、ポイントをご紹介します。

技術的問題と適応課題

本書では「のどが渇いた時は水を飲む」のように、既存の知識や方法があれば解決できる問題を「技術的問題」、「他の部署に助けを求めても協力をしてくれない」のように、明確な解決策が見つからない問題を「適応課題」と定義しています。

知識や技術があふれ、インターネット等によってそれらを簡単に入手できるようになり、多くの技術的問題は解決がしやすい世の中になってきました。つまり、私達を悩ませている問題の多くは「適応課題」と言えます。

適応課題は「対話」で解決する

適応課題は単に「こうするほうが合理的だ」と主張しても解決しません。正論や合理性だけで解決できれば、苦労はしないですよね。ではどうやって解決するかというと「対話」です。本書では対話を「新しい関係性を構築すること」と定義しています。

例えば「相手にいかに自分の提案を受け入れさせるか?」ではなく、「相手の状況の中で自分の提案が意味あるものになるには?」と考え、関係性を変えていく、少し手間のかかるアプローチです。組織とは目に見える「モノ」ではなく「関係性」であり、その関係性を作ったり変えていくための対話の実践が、適応課題の解決の近道となります。

溝に橋を架けるための4つのプロセス

1.準備「溝に気づく」

まず相手との間に大きな溝があることに気づく事から始まります。適応課題である溝は、気づきづらく、認めづらいものですが、しっかりと溝に向き合うことで次の段階へ勧めます。

2.観察「溝の向こうを眺める」

溝の向こうにいる相手が、どんな環境や倫理などの枠組みの中で生きているのかをよく知ろうとする段階です。じっくりと相手や相手の周囲を「観察」することが重要となります。観察を通じて、自分が相手にどのように働きかけることができるのかの手がかりを発見します。

3.解釈「溝を渡り橋を設計する」

自分の言っていること、やろうとしていることが、「相手にとって意味のあるもの」として受け入れられるためのポイントを見つけます。そもために相手側の立場に立って、自分が言っていることや、やっていることがどんな風に見えてくるかをよく眺めてみます。そして橋を架けられる場所や、どんな橋をかけるべきかを設計します。

4.介入「溝に橋を架ける」

ここぞというタイミングを狙って、行動へ移します。うまく橋が架かることもあれば、架からないこともありますが、橋の具合を冷静にチェックすることが大事です。うまくいっていない箇所があれば、もう一度観察のステップに戻ります。

対話が面倒だという方へ(自分自身へ)

対話は適応課題を解決するための素晴らしいアプローチだという事は、本書を読めば十分理解できるかと思います。しかし、そうは言っても時間がかかる面倒な手段だと感じる方もいるでしょう(私自身を含め)

こんなまどろっこしい事をしなくても、地位や権力によって部下を動かせば良い、自分の言う事を聞くメンバーを集めれば良いだけだと考えたくもなります。

しかし「一見時間のかかる手法に見える対話こそが、実は効率的良く物事を進めるために必要なのだ」、そう自分自身が納得できる理由を見つけられると、考えと行動が変わるのだと思います。

プログラマーから経営者になった方が「経営とプログラミングは同じだと気づいた時に、経営に対する見方が変わった」といったような事をおっしゃっていたのですが、このように見方さえ変われば行動も変わってくるのでしょう。

未熟で無知だった私は、マーケターとはひたすらに顧客の方を向いて仕事をする人であると思っていたのですが、「顧客を動かす」事もマーケティングであれば「社内を動かす」こともまたマーケティングであると見方が変わりました。ターゲットを定め、相手にとっての価値を定義し、適切なチャネルでコミュニケーションをする事で、イメージや行動を変えていくというアプローチは、社内相手でも当然使えるからです。

そう考えるようになってからは、面倒だと感じていたマネジメントや社内調整も、ポジティブに取り組めるようになってきたのかなと思います。私のように対話が面倒だと感じている方は、まず自分が納得する理由や見方を探してみてはいかがでしょうか。

この記事が参加している募集

読書感想文

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?