見出し画像

はじめての裁判傍聴④ 刑事裁判編

 今回は実際に傍聴したいくつかの刑事裁判の様子をお伝えします。個人や組織が特定されないよう抽象的な表現につとめ、被告人に対する個人的な見解についても差し控えます。

1.外国人詐欺

 被告人は二人の刑務官に挟まれて弁護人席前の長椅子に座っている。一見して東南アジアあたりの外国人で、大人しそうな青年。さすがに心なしか不安げにも見えるが、落ち着いてはいる。書記官の隣には同じく外国人と思しき中年の女性が席を占め、被告の通訳に当たる。
 罪状は電子機器を利用した詐欺。少額だが件数は多く、被害総額は車を買うには十分な額。審理からは不明だったが、技能実習生による電子機器を利用した詐欺だとすれば、今日的な事件である。
 被告人への尋問。弁護人が一通りの質問をしながら反省の弁を引き出し、故国の家族たちの貧窮を犯行理由とする。替わって検事が尋問に立つ。貧窮が理由であれば再犯の怖れがあるのではと、被告に質問を投げかける。再犯の可能性を否定し、更生して日本を再訪しないことを誓う被告。
 検事は懲役を求刑し、弁護人は執行猶予を求めた。この間、常に通訳が必要となるため通常の裁判よりも時間がかかっている。通訳担当者が多忙のため、判決では別の通訳を調整することになり、被告も了承する。裁判官が起立して全員が一礼。刑務官に連れられて被告人が退廷。

2.公務執行妨害

 判決。被告人は一人で、傍聴席に関係者らしき人物も見られない。罪状は公務執行妨害で、警察官への暴行。初犯であること、反省の態度が見られることから、執行猶予が言い渡される。検事と弁護人の発言はなし。判決の言い渡しのみのため、短時間で終わる。

3.大麻所持

 定職をもつ中年男性の罪状は大麻所持。数年前から知人を通じて大麻を購入、使用していた。傍聴席に座る夫婦と思われる初老の男女のうち、男性が傍聴席の扉から入廷する。証言台に立った被告の父親は、弁護人と検事からの質問を受ける。息子の大麻使用は知らなかったこと、逮捕されて驚いたこと、そして今後は息子を監督すると述べる。検事から、具体的にどのように息子を監督するかについての質問を受けた父親が、少し回答に詰まる。
 麻薬の入手元である知人の名を明かさないことなどを理由に、再犯の怖れを指摘して一年未満の懲役と所持品の没収を求刑する検事。前歴がなく、禁断症状がないことから依存性も低く、使用期間もそれほど長期ではないことを理由として執行猶予を求める弁護人。被告が入手元を明かさなかった点については、今回の傍聴のなかで唯一明確な黙秘の事例だった。
 最後に証言台に立った被告は、今回の事件で家族を始め周囲の人物に迷惑をかけたことに繰り返し触れ、それを理由に罪を重ねないことを誓う。判決言い渡し日がスムーズに決まり閉廷。退室後、廊下で法廷前の貼り出しを検めていたところ、背後を弁護人と被告が通り過ぎる。弁護人は検事の求刑が比較的に軽かったと、被告を慰めていた。

4.迷惑行為条例違反

 判決の言い渡し。罪状は盗撮。複数県にまたがる広域における隠し撮りにより起訴されている。同様の罪による服役の前科があり、再犯であることなどを理由に一年未満の実刑判決が下る。今回の傍聴で唯一、主文を読み上げる裁判長の声色がやや芝居がかった口調にはっきりと変わり、声量も意識的にて大きくしていた。裁判官によって、読み上げ方にも違いがあるようだ。

5.不法侵入と窃盗

 初回裁判である新件。罪状は不法侵入と窃盗。盗品は転売されている。若い被告はスーツ着用で、髪もつい最近短めに切り揃えたことがうかがえる。固い表情と姿勢から緊張が伝わる。ちなみにこの被告を含め、私が傍聴したなかで身だしなみを整えて裁判に臨んでいた被告人は二十代の若者だけだった。その他おおよそ三十代以上と見られた被告たちは、保釈中であるかに関わらず、みなカジュアル、または部屋着に近い格好をしていた。
 証言台に立ったのは被告と、被告人の母親。事件当時は一人暮らしをしていたが、保釈後の現在は母と二人暮らし。被告側は失業により生活費にも窮していたこと、コロナ禍のため再就職が滞ったことを犯行理由とする。母親は被告の失業自体を知らず、事件後に驚愕したことを伝え、現在は職にも就き態度も落ち着いていると話す。検事は被告が大学時代に多額の借金があったこと、返済したとはいえ娯楽や交際目的だったこと、保釈後にはあっさり再就職できていることに触れ、被告に対する不信感を顕わにする。
 被告を狡猾かつ悪質であるとする検事は、再犯や余罪の可能性にも触れて複数年の懲役を求刑。弁護人は、現在は親元で落ち着いていること、前科がなく若年で反省していることを挙げて執行猶予を求める。被告人が反省の弁を述べ、判決日決定の後に閉廷。

6.万引き

 途中入室。罪状は一万円に満たない少額の窃盗。刑務官に挟まれ、やつれた様子の熟年男性が腰掛けている。裁判中に一度だけ奇声を発した。
 本件は今回、刑事裁判を傍聴したなかで唯一、検事と弁護人の主張が真っ向から対立したといえる裁判だった。争点は責任能力の有無。
 被告の供述を信用しない旨を表明する検事。前科二犯であり、生活保護を受給しているにも関わらず犯行に及び、犯行前のほうが様子が落ち着いていたことを挙げる。統合失調症によるとされる被告の言動も演技と推定する。
 弁護人は犯行当時、被告が統合失調症だったこと、逮捕後も医師により疾患を認められたこと、日常的に有名人に対してアプローチを繰り返していた事実などを挙げ、責任能力の欠如を示す。そのうえで、事件当日の寝不足もあって、幻聴による指示によって犯行に及んだと説明。被害額がわずかなこともあり、罰金刑が相当であることを主張する。
 最後に被告からの発言。精神病院への強制入院の検討も自ら申し出たうえ、寛大な処分を嘆願する。次回も判決ではなく、継続審理として閉廷。受刑者のうち少なくない一定数が、精神疾患を抱えているとされる事実を思い返す裁判だった。

7.覚せい剤密輸

 傍聴していた裁判が早く終わり、空いた時間を埋めるために、開廷直前の大法廷の覗き窓を開けて見る。はじめて多数の傍聴人が席を埋めているのを目にして少し驚くとともに入室してみる。席に着くと、後から入ってきた中年男性の二人組が、言葉を交わしながら少ない空席から席を選ぶ。やや小太りの被告人である男性が、刑務官に付き添われるかたちで判決を待つ。
 裁判官席背後の扉が開き、裁判官が三人入廷する。ここまでは、裁判長ひとりでなかったことがやや珍しい程度で、他の裁判ととくに変わりはない。しかし今回は裁判官に続き、性別と年齢もバラバラで、共通点のわからない十人ほどの私服の人々が入廷する。幅広い高座にある裁判官席では椅子が足りず、一部は平場にある椅子に促される。閉廷後に法廷前の貼り紙から、裁判員裁判であったことにようやく気が付く。
 今回の地方裁判所内ではもっとも広い法廷ながら、人口密度が高くなった室内。裁判官と裁判員の入廷が済み、「主文」という一言を端緒に、裁判長による判決の読み上げが始まる。大量の覚せい剤密輸に対する判決では、今回傍聴したなかでは最も重い、十年を超える実刑と多額の罰金が科された。同様の罪による服役の前科があり、違法性を認識できなかったとは到底考えられないと、おそらく審理において弁護側がしたであろう主張を退ける。
 閉廷後、やはり法廷前の貼り出しを確認していると、さきほど私に続いて入室していた二人組が判決に対する感想を述べはじめる。俗に傍聴マニアと称される人々だろうかと思いながら立ち去る。

本編のまとめ

 刑事裁判を傍聴して、ほぼ全ての裁判と判決に共通して感じたのは再犯の事実の重要性でした。前科やそれに近い過去があれば、明らかに実刑判決がくだりやすく、裁判のうえでも相当不利に立たされやすい傾向にあるようです。また初犯の事件についても、検事側が今後の再犯の可能性を挙げて実刑を求めるケースが目立ちました。再犯に関連していうと、犯罪を行った土地や場所に二度と足を踏み入れないことを確認する裁判が複数あり、いずれの被告も犯行に対する反省とともに再訪しないことを誓っていました。
 もう一点、弁護人について印象に残った共通点があるのですが、民事裁判にも当てはまるため、これは次回のまとめで触れることにします。ちなみに今回記事にしなかった裁判も含めて傍聴したなかでは、10人ほどの被告人の全てが男性でした。
 次回は、今回同様に個別の裁判が特定されないように配慮しつつ、いくつか傍聴した民事裁判の様子についてお伝えします。

(トップ画像はpixabayより。作成者はWikimediaImages様です。)

この記事が参加している募集

スキ♡を押すと、好きな映画10作品をランダムで表示します。