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はじめての裁判傍聴③ 法廷編

 今回は裁判が行われる法廷内の様子をお伝えします。刑事裁判が行われた法廷をベースに、民事法廷における違いを補足するかたちで進めます。

 傍聴人用の扉から刑事裁判が予定されている法廷に入室する。フロアマップによれば、この地方裁判所で最も広い法廷のひとつ。裁判所内で同じサイズの法廷は六室ほど。傍聴席は感染症対策で前後左右ひとつずつ間隔を空けるため、座れない席には貼り紙がされている。約半数は使用できないことになるが、今回見た限りでは傍聴人が多すぎて着席できないケースはなく、ほとんどの法廷で空席のほうが目立つ。傍聴人の服装は私も含め、基本的には皆がカジュアルな服装。法廷と柵で隔てられた傍聴席には傍聴人のほかに証人や、民事裁判では原告、被告、次の裁判を待つ関係者なども着席している。低い木の柵の端には、証人などが傍聴席から法廷に入場するための片側スイング式の扉が設けられている。

 傍聴人席前の柵の向こう側に目を移す。一番奥の高座は左右に長い裁判官席で、裁判官は背後にある扉から法廷に登場する。手前の平場の席には書記官が座る。これに対面する形で証人席。左に検察官、右が弁護人。左右の検察官と弁護人の席にはひとつ違いがあり、弁護人席の前にくすんだブルーの長椅子が密着する形で置かれていた。これと同じ長椅子が証人席と傍聴人席の柵の間にも置かれている。長椅子の中央には被告人が着席する。単独の椅子ではないのは、刑務官が存在する場合に左右に着席するため。証言の前後には、証言台後ろの長椅子に被告人と刑務官がともに移動する。そのため民事法廷では、この長椅子は存在しなかった。保釈中であれば刑務官は不在となる様子。検察官と弁護人の席の左右関係は固定と思っていたが、法廷によっては逆の配置。明確な決まりはないようだが刑事と民事を問わず、原告が左、被告が右のケースが多かった。裁判所によっても違うのかもしれない。

 入室して気になったのはモニターの多さ。裁判官、書記官、検察官、弁護人の各席にはPC用のモニターが置かれている。そして検察官と弁護人席の背面上部の壁には大画面テレビが掛けられている。これらのモニターが裁判でどのように利用されるのか注目していた。しかし室内での存在が目立つわりに、傍聴したなかでは壁掛けのテレビに映像が映し出されることはおろか、PC用のモニターに関係者のノートPCが接続されることさえ一度もなかった。全体に、ノートPCが持ち込まれるケースはあっても、裁判は基本的に膨大な紙資料を使って進められ、書記官以外はPC自体を持ち込まない関係者のほうが多数だった。なお、モニターが法廷内に常備されているのは刑事裁判の法廷のみで、民事裁判が行われる法廷では見なかった。

 書記官、検察官、弁護人、被告人が揃った状態で、最後に裁判官が入室する。全員が起立して一礼。当初は、周囲の傍聴人も立ちあがっているのを見て、慌てて起立・礼にならった。三人の裁判官が揃う裁判もわずかにあったが、ほとんどの裁判は一人の裁判官によって進められていた。裁判所側の関係者としては書記官が必ず参加するほかに、被告人の国籍によっては書記官の隣に通訳が席に着いた。民事裁判では、この他に二人が加わる場合があった。一人は事務官と思われ、書記官とは少し離れた個別の席に着席する。もう一人は傍聴席から法廷への入り口すぐそばに陣取り、原告や被告の身元を確認するなどの受付にあたる業務に従事していた。検察官と弁護人の数はほとんどの裁判では各一名で、二名が担当しているケースはそれぞれ一件を見た限りだった。

 刑事裁判の予定は「新件」「審理」「判決」の三つの分類で法廷前に貼り出される。「新件」は言葉の通り初回の裁判、「審理」は二回目以降の裁判、「判決」は判決のみが言い渡される。今回の私のように、継続的に事件を追うわけではなく傍聴を体験するだけなら、あまり「新件」「審理」の区別を気にする必要はないと思えた。一方、「判決」は言い渡しのみになるため、10分前後の短時間で終了する。裁判予定以外で注意すべきと思えたのは裁判の予定時間。とくに民事裁判で予定時間が30分以内などと短く設定されている場合は、事務的なやり取りが行われるだけのことが多く、傍聴可能とはいえ場違いな感が強い。刑事と民事で比較すると傍聴人が多いのは明らかに前者。民事で、ある程度傍聴人が集まったのは、審理に4時間の予定を確保していた一つの裁判だけだった。裁判の開始時間については午前10時から12時、昼の休憩を挟んで13時から15時ぐらいの時間帯に集中していた。

 最後に、裁判の内容に関係しない部分を少し。裁判は基本的に粛々と進むのだが、唯一滞りやすかったのは次回審理予定日時の決定。司会ともいえる裁判長が中心になって検事、弁護士、被告などに予定を確認するが、なかなか都合が合いにくいときがある。真面目な場なのだが、上役が飲み会の調整に苦労しているように見えて少し可笑しい。特に前述した被告人の通訳は、絶対数が足りていないのか引っ張りだこのようで、どうしても予定が合わず、結局他の通訳に変更された。もう一点は、スマホ。ネットや守衛から受けた注意でも電源オフとされ、ある裁判では傍聴席で誰かの着信音が二回ほど鳴ったのだが、とくに裁判長が咎めることもなかった。検事や弁護士については(通信設定はオフかもしれない)、次回審理予定を決める際など普通にスマホを利用していた。裁判所という場所だけにもう少し厳しいと予想していたが、映画館でのスマホ利用への注意程度だった。

 ここで一旦、私なりに考えた、傍聴する際のポイントを備忘録として書き残しておきます。

①(義務ではないが)裁判長入退廷時に全員の起立・礼あり
②服装は気にしなくてOK
③携行品は任意でメモ帳とペン程度、身分証を含め必需品は特になし
④裁判中はスマホ等が鳴らないよう注意
⑤民事裁判より刑事裁判のほうが傍聴人も多く傍聴しやすい
⑥同じ理由で広い法廷のほうが居やすく、途中入退場も目立たない
⑦民事は特に、一時間未満など短時間を予定している裁判は避ける
⑧10時または13時あたりに開始時刻が集中

 おもに誰に向けたアドバイスかといえば、今回の傍聴体験の詳細を忘れた将来の自分に対してです。とくにたいした調査もなく一連の体験だけを元にした素人による見解であり、裁判所による違いもあるかと思いますので、参考程度にご覧ください。次回は、実際に傍聴した刑事裁判の様子について具体的な事実を避けながら、お伝えします。

(トップ画像はpixabayより。作成者はGDJ様です。)

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