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灼熱の2023年夏に聞くフリーマン・ダイソンの「6つの異端的な考え」

 暑い。
 最高気温35度以上の猛暑日も、2~3日なら頑張って乗り越えようかという気になるが、「この先2週間連続で猛暑日です」などという予報に接すると、ゲンナリを通り越してゲッソリしてしまう。
 何とかならぬものか。
 誰もが気候変動は既成事実と思うだろう。
 地球温暖化に関連して、理論物理学者のフリーマン・ダイソン(1923-2020)が面白い発言をしている(「科学と社会に関する異端的な考え(Heretical Thoughts About Science and Society)」ボストン大学 2005年11月1日)。

 以下に講演の内容をメモ風に整理しておこう。

◇◇◇

異端的な考え1 米国の世界ナンバーワンの地位は2070年に終わる

・歴史に学べば、ある国の世界ナンバーワンの地位は150年しか続かない。
・米国の番は1920年に始まった。
・だから2070年に終わる。
・地位の入替は、軍事的・経済的・政治的に拡張し過ぎることから起こる。
・米国人には逆境が訪れる。
・しかし逆境は新しい生き方を見つける機会でもある。

異端的な考え2 地球温暖化の騒ぎは誇張され過ぎている(カギは表土にあるかもしれない)

・気候モデルは現実世界の記述に成功していない。
・大気と生物圏の間の炭素の移動を理解するには、多くの数値が必要である。
・1つの数値を強調したい:100年で1インチ(約2.5センチメートル)
・地球の陸地の半分は土壌に覆われている。
・土壌は毎年、大気中の二酸化炭素を吸収してバイオマスに変換している。
・化石燃料の使用により私たちが大気に放出している二酸化炭素を吸収するためには、年間100分の1インチだけ土壌のバイオマスを増やす必要がある。
・表土(表層部の土壌)の10%がバイオマスである。
・したがって表土の厚みを年間10分の1インチ(約2.5ミリメートル)増やせば、二酸化炭素の収支はバランスする。
・土壌を増やすには、農法を変える必要がある。
・遺伝子工学を使うことも考えられる。
・大気中の二酸化炭素の問題は、「土地管理」の問題である。
・中国が二酸化炭素を排出し続け、米国が土壌を増やしてそれを吸収するというモデルも考えられる。
・大気中の二酸化炭素増加は次の2点に帰結する。①大気中の放射輸送の変化(物理学)、②陸地・海洋の植物の変化(生物学)
・①は計測可能である。
・①は、湿った空気では影響が少ない(水蒸気による温室効果の方がはるかに大きいから)。
・寒く・乾いた空気で影響が大きい。
・影響が大きいのは、熱帯よりは極地、夏季よりは冬季、昼間よりは夜間である。
・局所的な温暖化は、地球平均値を見ていては分からない。
・②に関して重要なのは、生物にとって二酸化炭素は少ないことだ。
・生物学的に利用可能な短期の「炭素貯蔵所」は5つある。①大気、②植物、③表土、④海洋の表面、⑤化石燃料。
・これら貯蔵所の容量に大差はない(①が最小、⑤が最大)。
・二酸化炭素が豊富な大気で育つ植物は、ルート/シュート比を増加させる(「根(地下部)」の成長が「芽・葉・茎(地上部)」の成長を凌駕する)。
・これは、葉から吸収する二酸化炭素と、根から吸収するミネラルのバランスをとるためである。
・植物が腐敗すると、バイオマスの一部は大気に、一部は表土に還る。
・ルート/シュート比の高い植物は、より多く表土に還る。
・表土の量や増減は測定されていないが、以上の可能性は検討するに値する。

異端的な考え3 〝湿潤なサハラ〟が再現する

・サハラ砂漠に、6000年前に描かれた高水準の岩絵が見つかっている。
・当時のサハラは湿潤だったことの強い証拠がある。
・大気中の二酸化炭素がこのまま増え続けると、サハラが湿潤だった6000年前と似た気候が実現するか? 私の回答はYesである。
・仮に選択可能なら、「現在の気候」と「湿潤なサハラの気候」のどちらを選ぶべきか? 私の回答は後者である。
・ナチュラリスト対ヒューマニストという価値観の対立がある。
・ナチュラリストは、自然に対する人為の介入を悪とみなす。
・ヒューマニストは、人間と自然の共存を目指す惑星の改造を、自らの責務とみなす。
・両者の鋭い対立は、とりわけ遺伝子工学の分野で起きている。
・私が生まれ育ったイングランドの風景(牧草地など)は人工物である。
・私はヒューマニストである。

異端的な考え4 生物工学がコンピュータのように普及する

・フォン・ノイマンは、コンピュータの小型化・低廉化を予想できなかった。
・ノイマンのコンピュータ観と、生物工学の現在の状況は似ている。
・かつてのコンピュータが中央集権的だったように、現在の生物工学は、巨大な製薬会社やアグリビジネスの手に握られている。
・生物工学が、コンピュータと同じ小型化・低廉化の道をたどるなら、明るい未来が見える。
・生物工学のツールが使い易くなれば、ブリーダーたちは競って新しい生物をつくり、生物多様性は爆発的に高まるだろう。
・普及の最終段階が、生物工学を利用した遊び(バイオテック・ゲーム)である。
・ただし危険が伴う為、何らかの規制が必要になる(ウイルスを使って遊んではいけない)。

異端的な考え5 ゲノムのフリーシェアが〝再開〟する(生物学的シェアリング)

・ダーウィン的進化(自然淘汰と遺伝)の時代の前には、遺伝子の水平伝播(個体間および異種間の遺伝子の貸し借り)が一般的だった時代がある。
・ゲノムが自由に共有されるようになれば、ソフトウェアのオープンソース運動と同じ利益が得られる。
・遺伝子の水平伝播によって、進化は劇的に加速する。
・ダーウィン的進化の時代は、水平伝播の時代に挟まれた〝間奏曲〟に過ぎない。
・ダーウィン的進化の時代は、ホモ・サピエンスが文化的進化(アイデアの水平伝播)を始めた時(1万年前)に終わっている。
・ホモ・サピエンスは生物工学によって、遺伝子の水平伝播を復活させた。

異端的な考え6 グリーン・テクノロジーが農村部の貧困を解消する

・仕事と富の不足が、農村部から都市部への人の移動を引き起こしている。
・必要なのは、農村部に仕事と富を生み出すテクノロジーである。
・テクノロジーには2種類ある。①グリーン・テクノロジー、②グレー・テクノロジー。
・①は生物学に、②は物理学・化学に基づく。
・①は1万年前に農村部に登場した(農・畜産業)。
・②は5000年前に登場した(金属器使用から核兵器に至るまで)。
・富と権力は、前半5000年間は農村部にあった。グリーン・テクノロジーとともに。
・後半5000年間は都市部にあった。グレー・テクノロジーとともに。
・農村部と都市部の間のバランスシフトは、テクノロジーのシフトに連動している。
・テクノロジーをシフトすることで、農村部は復活する。
・ここ50年間で、新しいグリーン・テクノロジーが登場・発展した。
・グレー・テクノロジーでは不可能だった多くの事が、グリーン・テクノロジー(遺伝子組換え作物・昆虫)によって可能になる。
・グリーン・テクノロジーの素材は、土地と日光である。
・土地と日光は、農村部にも平等にある。
・「太陽」がエネルギーを供給し、それを「ゲノム」が化学的燃料に変換し、「インターネット」が農村部を孤立から救う。

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