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才能の差は埋められるのか

私は小学生の時に長距離を始めました。最初は周りで誰も長距離をやっていなかったので小学校で一番速くなりましたが、それからは次々に現れる新規参入者からどう逃げ切るかが選手としてのポジションを維持するためのテーマになりました。

このため、タイムの伸びが鈍化するのが嫌で、特にそれまで陸上をやっていなかった人がちょっと練習して急に長距離が速くなることに脅威を感じ、自分もそうなれないのかと結構長いこと真剣に考えていました。

中学の時には運良く一つ下の学年に2人の天才がいて、その成長過程がとても参考になりました。一人は陸上に対して純粋で、とにかく練習をしまくるタイプ。もう一人は練習では決して全力を出さないのに、試合では一番速いというランナーでした。

練習しまくる後輩は安尻という選手で、小学生時代は3kmロードで全国9位。中1の4月には3000mを9分46で走った上、400mも中2で53秒86というスピードまであり、かなりのポテンシャルを持っていました。それでも、練習(自主練)のしすぎなのか徐々に伸び悩み、中3の時には800mで全中には出たものの以降は全国の舞台には立っていません。一方、もう一人の後輩である村上という選手は高校以降も伸び続け、1500mで日本選手権を制しただけでなく箱根駅伝でも区間賞を取るなど、中距離から長距離まで何でもこなせるトップランナーに成長しました。

練習しすぎてもダメなのは見ていても分かったので、むしろ練習はあまりやらないほうがいいのかな?と考えたりもしました。特に村上はただでさえ天才なのに、中学時代はバスケ部で、駅伝の時だけ長距離の練習をしていたような状態だったので、伸びしろが有り余っていて成長曲線が尋常ではありませんでした。

そこで、自分も高校入学後はわざと練習量を減らしたり、完全休養を多くしたりと色々試してみました。しかし、そうすると結果が安定せず、良い時も好調時の90%くらいのパフォーマンスは出せるものの、あまり成長している実感が得られませんでした。具体的には高1で5000m16分50秒、3000m9分38秒までは到達したものの、中3で3000mが9分33秒だったことを考えれば伸びているとは言えず、県内のライバルたちには明らかに差をつけられました。

その後も試行錯誤を続けたところ、結果として一番パフォーマンスが高くなったのは練習量を確保しつつ自分に合ったメニューを組めた高3のシーズンでした。スピードに特化しようとしたり、とにかく練習量を求めた年もありましたが、結局は自分の能力に合ったトレーニングを継続していくことが一番なのだと実感しています。持っている才能は人それぞれに異なるので、人と比べるのではなく自分のやるべきことに集中することが、才能ある選手たちに対抗する唯一の方法だと感じます。

ちなみに「あえて練習をしない」アプローチは社会人になって役に立ちました。時間のない時に最低限やるべき練習を取捨選択する際には、自分に必要な要素を的確に見極めて目的を達成できる練習パターンを考えることになるため、「これさえやっておけば何とかなる」という感覚を知っているのが強みになります。故障に悩まされるランナーが意外と試合に強いのは、そういうさじ加減を知っているせいかもしれません。

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