営業マインド&スキルエンパワーメントストラテジー#02 「戦略」を知らず「戦術」に走っていないか?
営業人は『ソルジャー』である。
フィールドという戦場でソリューションという武器を持ち、日々戦いを挑んでいる。
ただ、戦争とは違うのは、血なまぐさく人々の命や生活を奪うのではなく、その武器によって消費者の豊かな生活や企業の成功・成長を促すための「闘い」である。
たしかにカッコよく言えばそうだろう。
過去は男性の営業マン(ここでは昭和的に営業マンと言おう)が多かったし、女性の「営業マン」も男性的戦闘態勢で営業に臨まねばならなかった。
しかし、今なら、例えば営業部長が営業活動を「戦闘」などと置き換えようものなら、やれ「ブラック」だ、やれ「パワハラ」だ、と言われる時代になった。
ただ、営業活動、いや営業に限らずビジネス活動は「闘い」である。
営業もR&D部隊も、いわんや管理部門だって、毎日「奮闘」しているではないか。
おそらく役員は従業員に対して「闘志を燃やして仕事に臨んでほしい」と思っているだろう。
「戦争」を英語で言うと「War」だが、ここでいう「闘い」は「struggle」である。
つまり、死地にある戦士のように奮闘せよ、という気概の表れだ。
さて、ここまでは言葉遊びのようなものだ。
では、「戦士」であるなら、何のために戦うのか?
武士のように「一所懸命」か?騎士道であれば「誇り」のためか?
営業人はミッションを掲げるからこそ営業人として奮闘できる、というのは前節#01で述べている。
では、「どうやって」奮闘するのか、が今度は問題になる。
その奮闘は意味があるのか?この奮闘を終えると何が手に入るのか?
それをわかって営業人は奮闘しているか?
多くの営業人は与えられた仕事、設定された目標を、わが社の商材を提供し、その対価を得ることで達成する。
では、その達成にはどうやって到達するのか?
ここで多くのマネージャーが「戦術」をソルジャーたちに与えてしまう。
つまり、
「この商材はこう売りなさい」
である。
確かに「売り方」を授けるのは間違っていない。
ただ、この「売り方」を授けて営業活動を行うと、ただの突撃集団しか生まれない。
「この商材をこういう見込み顧客が欲しているから、この商材でできるソリューションを提案して売ってこい」
と丁寧に言われてもどこまでも「戦術」なのである。
前節#01で主題としたミッションと目標によく似ているが、
「戦術」は「戦略」があった上で編み出されるものなので、
「戦略なき戦術」は存在しない、といっていい。
トップマネジメントが「戦略」を認識しているから、
ミドルマネジメント以下は「戦術」だけ知っていればいい。
というのはトップマネジメントの傲慢である。
古い軍隊組織であればそれで良いだろう。総司令部・参謀本部が戦略を立案し、各司令部に戦術を通達し、各師団はその戦術を元に作戦し、実行する。
しかし、営業人は「戦士」であれど「軍人」ではない。
近代の軍人も「個人のイマジネーション」は尊重されている。
ましてや、営業人は「個人のイマジネーション」を活用できないわけがない。
そこで、営業人は営業活動において、「戦略」を認識して、その「戦術」をもって「奮闘」するべしなのである。
ここで、「戦略」と「戦術」の違いを述べておこうかと思うが、賢明な読者諸君にツベコベいうほどのことではないので、
一言でいうと、
目的に向かって「大局観」を持って導き出すのが「戦略」であり、「戦略」を基礎に「実現性」「具体性」を持って導き出すのが「戦術」である。
営業人は「戦術=営業手法」と「武器=商材」を与えられて前線に赴くことが多いというのは前述の通りだ。
しかし、「戦略」を知った状態で前線に赴けば優秀な営業人はどう動くであろう。
「戦略」を認識していれば、そこから「戦術」を導くことができる。
つまり、会社が与えた「戦術」だけで奮闘するのではなく、自身が編み出した戦術をも駆使して奮闘が開始される。
営業人が複数人いれば、掛け算のように戦術が生まれていくのである。
個人で編み出す戦術のため、失敗する作戦もあるであろう。
ただ、トップマネジメントが思い及びもしなかった良策や妙策が生まれるかもしれない。
営業人は「駒」ではない。一人の考える「人間」である。
人間は、想像力を駆使して「より良い何か」を本能的に生み出そうとする、という特徴を持っている。
トップマネジメントは「傲慢の罠」につかまりやすい。
「我々が役員・トップマネジメントはどの従業員よりも高い視座で物事を考えている」と。
「大局観」は誰でも持てるものである。トップマネジメントだけが持っている特殊能力ではない。
そこで、つい、「我々トップマネジメントより劣るソルジャーには、戦略はわかるまいから、それをかみ砕いて導いた戦術を与えてあげよう」となる。
むしろ、戦略をきちんと示し、営業人=ソルジャーたちの能力を信じ、戦術を無限に生み出す集団として扱うべきである。
企業が戦略を示せないのであれば、営業人は「戦術」から「戦略」を逆算すればよい。
「この顧客にこの商材をこうやって売れ」と言われたけれど、「なぜ、そう導かれたのか」を考えるのだ。
見込み客が提示されているのであれば、その見込み客はこの商材を我々が提供したことでどんな便益を得るのか?
商材は具体的なので、何の役に立つのか、を見込み客というスケールを、業界、社会、と広げてみる。
コミュニケーション手法が示されているのであれば、この商材はどういう便益が期待できるのか、を直接的に示しているはずである。
これらの情報から、「わが社はどうやって社会にどんな価値を提供し、どこに向かっているのか」を自分なりに逆算し、「戦略」を自分なりに具体的にせねばならない。
これは、戦略が示されない悲劇的な企業の場合の対処方法だが、
経営がきちんと組織化されていれば、当然のごとく末端にまで戦略は開示されている。
いわゆる「中期計画」や「中長期ビジョン」である。
それを「行動」に落とした「アクションプラン」を持つ企業も多いだろう。
そして、もう一つ、見落としがちではあるが、「自社ホームページの社長メッセージ」が「大局観」を持って書かれていることが多い。
多くの従業員は「社長の夢の吐露」的にとらえてしまうが、実際に社長メッセージを自分で書いている社長は少ない。
ここには「ライター」が存在し、「中期計画」や「企業ビジョン」を「社長の思い」に落とし込んだ形のものとするのである。
営業人は所属する企業の戦略をきちんと理解し、戦術を導き出し、作戦を遂行し、「仕事を取る」という作戦成功結果を得るのが醍醐味なのである。
何も考えずに「突撃ー!」で作戦成功を得るのも達成感があるのは違いなかろうが、それ以上の喜びが得られるのは想像に難くないであろう。
なので、まずはぜひ自社の「中期計画」「経営ビジョン」「社長メッセージ」を見直してみてほしい。
この節はこれくらいにしておくが、実は戦略についてはここまでは基本の話。
次回は「もう一つの戦略」について考えていってみようと思う。