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印税無し、協力、自費出版、補助金、助成金付きの企画について

先日、ギャラ(印税、原稿料、デザイン料、組版代など諸々)について書きましたが、なんか足らないな、という感覚がありましたが、あの内容だけだと僕の理想も半分入っているので、一部誤解が生じそうな気がしたので、今回は、印税無し、またはお金を著者からいただく企画、どこかの団体や機関から補助金や助成金をいただいて出すような企画の本、それらのことについて書きます。

あの記事を読んだ作家さんやライターさん(文筆行で飯を食っているプロから、兼業で書いている方、普段は別の仕事で生計を立てていて文筆は趣味の方、すべてを含む)の中には、「ギャラ(印税)どころか、印税無しの契約だったじゃん!」とか、「印税無しどころか現物買取50万円もしたし!」とか、「印税無しどころかお金100万円も出したし!」とか、そういった方もいたと思います。

弊社でも、実際にそういった企画、本もありました。僕が担当したものの中でも、そういった契約で本になった企画はいくつもあります。
なので先日僕が書いたギャラについての記事だけだと矛盾が生じてしまうので、今日はギャラ(印税)無しや、お金(補助金、助成金も含む)をいただく企画、などについて書きたいと思います。

印税あり、印税無し、現物買取、協力(一部制作費著者負担)、自費出版、補助金、助成金などの出版条件については、厳密に会社で規定を設けているところもあるかもしれませんが、弊社など小零細出版社の場合はケースバイケースが多いです。以下、弊社におけるそれぞれのケースをあげてみます。

◉それなりの金額の印税を支払うケース
この場合は、かなりの確率でたくさん部数と利益が出そうな企画である場合や、最近までヒットの実績のある文筆(本だけでなく雑誌やネット記事への寄稿、講演なども含む)だけで飯を食っているプロの作家、ライターさんの場合、などに、こちらから勝負をかけたいので高額の印税を払って期限通りに執筆を依頼する場合などは、印税率は大手並みにすることもあります。
(先日テレビのノーギャラが問題だと書いたのは、テレビの方が作家やライターに出演依頼をしてきたのに、それで情報出してもらって(出演はしないで情報だけ提供する場合も含めて)、それで番組を作って、それでスポンサーから高額の広告収入を得ているのに、制作会社に丸投げしているというカラクリを作ってノーギャラ(呼んでおいて交通費すら支払わない)ということが問題だという話でした。テレビ局は、「こっちは制作会社に依頼していてギャラのことなんて知らない」というならば、制作会社が作家やライターにギャラを払えるレベルの制作費を制作会社に払えって話です)

◉それなりにか、少しでも印税を支払うケース
それほど高額でもないけど、10万から20万円ぐらいの印税を支払うケース。この場合も、基本的に文筆で飯を食っているプロの作家やライターさんで、確実にヒットするかは半々の確率だけど、なんとか頑張って売れる本にしたい、できそうな場合や、その作家、ライターさんと、この企画でダメでも次の企画でいけるかもしれないし長く付き合いたいとか、大ヒットは出ないかもしれないけど、確実に執筆してくれてコンスタントに企画を出していける作家やライターさんなどの場合は、内容にもよりますが、多額ではないけど、それなりにか僅かでも印税を払うことがあります。

◉印税無しのケース
無しの場合は、まったくの無名で、本業は別にあって文筆で飯を食っていない方、売れるかどうか分からないけど、少しでも売れる可能性はある企画なのでチャレンジしてみたい、という場合には印税を無しにする場合もあります。こういった企画は、だいたい数十万円の粗利(正味の売上、定価ではなく、取次などへの卸値(弊社だと定価の62から67%)から、印刷と製本とデザイン、制作費などの費用を引いた利益)が出ることもありますが、もし加えて印税を数十万円支払ってしまうと、ほとんど粗利は僅かでビジネスとしては失敗というケースです。この粗利には編集者に支払われている人件費や、本を保管したり納品返品などの物流面のコストは入っていないので、実際の利益は、印税を支払うと実質赤字になってしまうケースも多々あります。
ただ、もし予想以上に、かなり売れた時に、それでも印税無しだと作家やライターさんに申し訳ないので、重版がかかるほど売れた場合は、印税を初版以上売れた分の実売で払うことがあります。僕が担当した本の中にも重版がかかって、初版は印税無しだったけど、重版で印税を払った方も何人もいます。あと最初から出版社に気を遣ってくれて、「僕は印税をもらうことは最初から考えてないので、とにかく本を出したいので印税は要りません。製作費が厳しければ、いくらか買い取るか、協力金も払います」と最初から申し出てくる著者もいますが、こういった場合も印税無しで、さらに協力金をいただくケースもあります。

◉お金をいただく場合、一部負担の協力出版、それ以上負担の自費出版や、補助金、助成金をもらう場合、買取をしてもらう場合などのケース
まったくの無名でプロではない作家やライター、趣味で書いている人、大学の教授で研究の実績のため、専門的で売りにくい本だけどお金を払ってでも出したい学者、実績がほとんどなくて初めて単著を書く著者、ジャンル的に売りにくい本、豪華な印刷製本、カラー印刷など制作費がかかる本、定価をそのジャンルの相場に安く抑えたい、専門的すぎるので助成金を受けたい、などのケースでは、お金を著者からいただいたり、補助金や助成金を受けたり、本、現物を買取してもらうことがあります。何度か聞いたことがありますが自費出版で有名な某出版社の場合は自費出版には200万円から300万円を作家やライターに要求すると聞いたことがあります。
僕が担当した本では、そこまで高額の自費出版をしてもらったことはないですが、この200万円という金額は、出版社の経営者ならば、たぶん「まあ、そんなもんだね。高くもないと思うよ」とだいたいの経営者は言うと思います。一般の普通の感覚の人にとっては200万円は大金だと思いますが、本を作るには、たとえば1000部から2000部作るとしても、ページ数やカラーページが入るかによっても変わりますが、平均的に考えて、印刷製本、物流管理コスト、編集者の人件費などを足すと最低80万から150万円はかかります。加えて、もし無名で話題になりにくい、書店員も取次も知らない無名の人が書いた本など、平積みにもしてくれないし、取次も過去の実績がない人では、あまり多くて仕入れてくれない、ということを考えると、売れても数100冊、良くて500冊も売れたらすごいですが、それだと本の売上の利益は僅かしか出ません。自費出版で100万円いただいたとして、印刷製本、物流管理コスト、編集者などの人件費でほとんど消えてしまうので、僅かな利益しか発生しないのです。だから自費出版専門の出版社はビジネスとして成り立たさる為に、ちゃんと利益が確実に残る200万円を要求してくるのです。なのでビジネスとしてだけ考えると、別に法外な金額でもないのです。
実際にみなさんも想像してみてください。例えば、世間に知られている文学賞の受賞経験もない、まったくの無名の人が小説を書いて出したとしましょう。書店がその本を目立つところに平積みすると思いますか?取次や書店がこんな本が売れないと言われ続けている時代に実績のない作家やライターの本をたくさん仕入れますか?仕入れるわけないのです。
取次や書店に仕入れてもらえなければ、出版社は本を作ってもお金を生み出さない倉庫の保管料だけが毎月かかってくる大量の在庫を抱えることになります。
もし百歩譲って、出版社の営業が頑張って書店に平積みしてもらったとしましょう。でもお客さんがそれだけで買いますか?書店にしょっちゅう通って、棚の隅々まで見て、話題になっていない聞いたこともない過去に本も出したことがない作家やライターの小説を1600円とか2000円とか出して買いますか?ほとんど買われることはないです。小説や短歌や詩などの本は、何か有名な文学賞を取るか、超有名人か売れっ子作家からのお墨付きをもらって、それを本の帯に載せられるならば売れる可能性はあると思いますが、そういうことで冷静に考えれば現実は甘くないと分かるはずです。
自費出版は、それでも本を出したい、世に出したい人のためにあります。出版社は慈善事業ではないから会社を存続させるためには、利益を出さなくてはならないから、売りにくい企画、本の場合はお金をもらわないと商売として成り立ちません。だからもらうのです。
ただ、研究、学術書、実用書、ビジネス書の場合は、ちょっと違います。もし本を出した実績が無くても、研究者としても実績が華々しければ話題にしやすいし仕掛ければ売れるかもしれません。あと学術的に出版の価値と意義が高い本ならば、申請すればどこかの団体や公的機関や国家から出版助成金を受け取って制作費に充てることもできます。あと趣味や実用書でも、本の刊行実績がない著書でも、業界ですでに有名とか、カリスマ店長や社長として、誰もが認める実績を出している人ならば、実績がなくても仕掛けて売りやすいので、印税をもらって出せる可能性はあると思います。

ただ自費出版は、中にはアコギな出版社もあると思います。200万円出してもらえれば、ちゃんとブックデザインをプロのデザイナーに依頼してカッコよく作ることは可能ですが、200万円著者からもらっておきながら、明らかに酷いレベルの素人が作ったようなブックデザインや、間違いだらけのままの組版、安っぽい紙や造本で出すような出版社は、著者の気持ちはまったく考えず、利益を最大限に上げることしか考えていないアコギな出版社の可能性が高いです。

それと、ちょっと話が逸れますが、作家やライターさんが、印税を上げようとするのは分かるのですが、上げればそれでいいのか、という問題も作家やライターが気づいていないこともあります。もし出版社が作家やライターに押し切られて、無理して印税率を上げて、結果として売れなかった場合は赤字になります。経済的損失、リスクを背負うのは、やはり作家やライターではなく、出版社なのです。なので、作家やライターさんが無理に高額な印税を要求してそれが通って喜んでてても、結果売れなかった場合、あとでその本の担当の編集者が、社長や同僚に「この本、全然利益出てないじゃん! なんでこんな売りにくい企画に、こんなにたくさん印税を支払ったの?」と責められ、下手すると責任を追求されることもあります。小出版社の場合は担当の編集者が社長だったりすることもありますが、売れなくて利益が出ないと即経営、資金繰りに影響が出るのが目に見えてわかるので、やはり苦しい気持ちになります。結果、もうこの作家やライターさんには企画を依頼することも、依頼されても、その編集者はまた売れなかったらどうしようとという気持ちになることが多いので、結果、最初の本で印税がもらえても次の仕事に繋がらないことがあります。やはりお互い無理のない妥協点、お互い後で後悔しないレベルの出版の条件を探って出す方がいいと思います。

ただ、僕個人の考えとしては、1冊目が売れなくても、何か売れる可能性を感じられたならば、2冊目もチャレンジすることがあります。そのケースは、作家やライターさんには売れるだけの才能と企画力はあるはずだけど、出したタイミングが売れにくかった、タイトルや売り込みが上手くハマらなかったなど、出版社の力量で本が売れなかったと思えた場合は、2冊目で、その失敗を修正して再チャレンジすることもあります。僕の担当した方でもそういった再チャレンジで、2冊目でそこそこ売れて利益も出たケースもあります。

あともう一つ、どの著者にも大手並みの印税率を出している小さい出版社も、少ないですが、中にはあるみたいです。それで経営していけるのは、本当に凄いことで、尊敬の念すら覚えますが、それはそれだけ企画を厳選して、毎回これで売れなかったら経営がかたむくから絶対に売れる本にする、というかなりの勝負をかけているということです。なので企画が通る確率は低いと考えた方がいいでしょう。通ったとしても著者の思うような本作りができないこともあると思います。絶対に売るためには、売ることのプロである出版社の意向に従わないといけませんから。
だからそういった出版社では、なんの実績もなく、売りにくい企画は、なかなか実現しないと思います。どんなレベルでも、どんなジャンルでも、どんな実績でも、すべて印税を大手並みに出していたら、普通はすぐに資金繰りに行き詰まります。ハードルが高いのです。

このことに関することでちょっと付け加えると、印税率が高い出版社の人が、印税率が低いとか、無い、自費出版をしている出版社を非難することをたまに見かけますが、それはちょっと違うかなと思います。
非難するならば、売りにくい企画でもチャレンジして出してください、と言いたいです。弊社には、数社から断られて、弊社に最後に企画を持ち込んでくる作家やライターもよくいますが、ちょっとでも売れる可能性があるならば、そのかわり出版条件は下げて(当然、条件は著者と話し合って合意を得ます)、出す場合がよくあります。そういった企画や著者の受け皿として、弊社のような出版社も必要だと思います。

歴史に残る本、宮沢賢治の『注文の多い料理店』やポターの『ピーターラビット』も、最初な売れないと思われて自費出版で世に出た本だということからも、そういったお金をもらって本を出す、という出版社が存在する価値はある、ということを証明していると思います。




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