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織り重ねられた布が偶然の綾を紡ぎ出す。テキスタイルスタジオ村上が受け継ぐ、津軽の伝統工芸「サクリ(裂織)」

ー作り手

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糸で作られる織物とは違う表情を見せる、裂織(さきおり)。裂織は、シルクや木綿の古布を裂いて横糸にし手織りする織物です。

地域によって呼び名があり、津軽では裂織を津軽弁で「サクリ」と言うのだそう。柔らかで温かな風合いの津軽裂織のはじまりは、江戸時代中期。古手木綿を裂いて織り、漁師の仕事着として作られたのがはじまりだと言われています。シルクや木綿の着物地を使い、新しい織物を創り出す津軽裂織は、偶然が重なり合い世界で一つの模様ができます。

今回ご紹介するテキスタイルスタジオ村上さんは、天然素材の心地よさや藍染の味わい深い色合いを大切に、裂織を使った作品を製作されています。

テキスタイルスタジオ村上さんの製作の様子は、こちらの動画からでもご覧頂けます。

裂かれた布のささくれた風合いが柔らかな手触りとなり、細く裂かれた布は絣の糸となり、織り上がった裂織布は唯一無二の模様に。元の布の柄や色が作品の印象を大きく左右していきます。

江戸時代から織り継がれ、2005年に青森県の伝統工芸品に指定された津軽裂織。テキスタイルスタジオ村上さんは、現代のテイストで織り継いでいるのに加えて、他の伝統工芸とコラボした作品も制作しています。

ひば林檎針刺し2

ヒバの木でできた林檎に針刺しを埋め込んだ「ひば林檎針刺し」。青森ヒバは天然の抗菌効果を持つヒノキチオールを含み、爽やかな香りがストレスを 和らげます。愛らしい色合いの裂織と青森ヒバがコラボレーションした青森ヒバ林檎針刺しは、アロマインテリアとしても楽しめます。

ブローチあけび2

裂織と同様、青森の伝統工芸であるあけび蔓細工の飾り編みを付けた「あけびブローチ」。あけび蔓細工も職人さんが手作りしたものです。

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こちらのバッグは、北海道の野生のエゾシカ皮を使用。革本来の持ち味を活かすために特別な加工を施しておらず、柔らかな風合いにこだわる津軽裂織とよく合うことから採用したそう。偶然が生む裂織の模様と、細かい皺やシミ、傷痕などを天然素材の模様として活かされている革。この2つには、ありのままを楽しめることが共通していて、抜群の組み合わせのように感じます。

「インターネットは苦手なんだけど…若い子に聞きながらショップを開設してみます」前向きな気持ちをiichiスタッフに伝えてくださった、製作者の村上あさ子さん。その言葉からは、津軽裂織を伝え、手に取ってもらうことに真摯に向き合っておられるのを感じました。そんな村上さんは、どのように津軽裂織に出会ったのでしょうか。

ーものがたり

村上あさ子さんは、1978年に東京で織物の基礎を習います。裂織との出会いは、東京からの帰省後、青森県立郷土館で見た古い裂織の仕事着だったそうです。その裂織は仕事着として使いこなされ、少し色褪せた藍色でなめらかな手触りの美しい織物だったと言います。

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津軽裂織は、漁師の仕事着として活用されていたため、他の地域の裂織に比べ薄く柔らかく仕上がる技法でできています。ところが、大正時代にゴムのカッパができたことで裂織を着る人も作る人もいなくなり、津軽で裂織が作られていたことも忘れられていました。

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村上さんは、津軽にも裂織という織物があったことを知り、津軽の裂織を踏襲し復活させたいという想いで裂織を始めました。

私が始めた頃、裂織は泥臭くて古い織物というイメージが強く、踏襲するだけでは裂織のイメージを変えることはできないと思い、藍染めだけではなく、草木染やそれまであまり使われていなかったシルクの着物地を裂き布に使い、技法もループ織や浮き織・引き返し織りなど、昔は使われていなかった技法も取り入れました。

技術や素材に新しいものを取り入れるだけでなく、ねぶた祭りの浴衣を藍染めにしたり、シルクの着物地を青森の林檎や山葡萄で草木染にするなど、青森でしかできないことを積極的に取り入れています。

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また、若い人にも興味を持ってもらえるような工夫も欠かしません。明るい色合いの洋服地を裂き布として使用し、ブローチや小銭入れなどを製作。伝統を守りながら、時代に合わせてどんどん新しいものに挑戦されています。

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その技術と活動が認められ、村上さんは、2006年に津軽裂織伝統工芸士に認定されました。

ー想い

「毎日使いたいモノ、使うと楽しくなるモノを作り、幸せな時間を届たい」をコンセプトにしているテキスタイルスタジオ村上さん。村上さんのその原動力は、青森の自然なんだとか。

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まるで渡れるように下から立ち上がる虹。雲が山を包み、目の前の木々が見えないくらい真っ白い冬景色。青森市が一望できる小高い山の上にある、テキスタイルスタジオ村上さんのサクリ工房では、美しい景色を望むことができるようです。

裂織を織りながら見える四季折々の八甲田山はとても美しく、自然からアイデアを貰い、機を織ることがとても楽しい時間でした。この楽しい時間や幸せな気持ちを届けたい、使うことが心地良かったり、楽しかったりするようなモノを作りたいと思いコンセプトとしました。

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青森の自然からエネルギーを得て、自然の一部を素材としていただき、作られる作品たち。定期的に作品と活動を見守り、幸せな気持ちを受け取っていきたいですね。

ー作り手情報


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