意味不明な二人の話

「憂、燦々の意味って知ってる?」

そう聞いてきたクリープハイプ好きな彼とはネットで二週間前に出会った。大学四年生、私の四個上。会うのは今日が初めてだけど文面通り気配りが出来て落ち着いている人だった。

「知らないな〜、どういう意味なの?」

対して私は高校三年生。彼との共通点はクリープハイプ好きなことくらいだけど話していて何故かすごく落ち着く。


「憂、燦々って実は浮気されてる女性の曲なんだけどサビの憂憂憂憂憂は月曜〜金曜を表していて、燦々は土日のこと、つまり平日彼は浮気をしていて土日は自分と一緒にいてくれるのを表してるんだよ」


私達はきっと今日付き合う。出会ってからこの二週間で何度か通話をしている中で「好きだよ」と彼に告白して貰えたことがあった。だけど、ネットで出会いまだ日が浅いうちにして貰った告白を素直に受け入れられるほど私は純粋じゃないから、「今は返事出来ない、ごめんね」と言った。

遊び目的じゃないの?と尋ねれば彼は「俺は次付き合うなら同棲とか結婚までしたい、逆に遊び目的なんだとしたら俺と話すの辞めなね」と言い、出会ってまだ日が浅いのに私の何が好きなの?と尋ねれば彼は「精神年齢が高くてしっかり考えてる所、通話すごく楽しくて結局一時間くらいしてたけど話してて安心出来た」と言った。安心材料になるか分からないけどと言って彼はバイトのシフト表や大学の時間割、行ったお店や友達との写真など事細かに送ってくれた。私が「なんで?」を彼にぶつける度に彼は百パーセントで答えてくれたおかげで私の中の彼に対する疑問はなくなりつつあった。

そして、私が今まで誰と付き合っても消えなかった元好きな人への未練が彼と話すうちに消えていく感覚に私は気付いていた。

「好きです、付き合って下さい」

別れ際そう引き止められ、私は頷いてしまった。彼を疑う余裕がないくらい私は彼を好きになっていた。


彼との日々はすごく楽しかった。彼がいるだけで世界は輝いていて、忘れられない元好きな人に囚われていた世界とは別物だった。お互いに好きな音楽を共有して感想を送り合ったし、一緒に行ったカラオケでは私が恋人にずっと歌って欲しかった「僕は君の答えになりたいな」を歌って貰えた。「栞」を一緒に歌ったあとに彼は

「俯いてるくらいがちょうど良いって本当に素敵だと思うんだよね、下を向けば花を見つけられるし」

と呟いた。その時、ずっと誰と話しても埋まらずにポッカリと空いていた穴が塞がった気がした。初めて私と同じ感性で生きている人を見つけた。

初めは少なかった共通点が一緒にいるうちにどんどん増えていた。同じLINEスタンプを使っていること、横浜が好きなこと、公務員を目指していること。私が大学生になったら同棲しようと約束を交わしたし本当にずっと一緒にいるんだと思っていた。

彼との最後のデートは横浜だった。

お互いの好きな街だった。


その日彼と初めてホテルに行った。出会って四週間くらいした後のことだった。今まで決して恋人に身体を許さずにいた私が初めて許した相手だった。部屋に入る時「103じゃなかったね」と笑った私に彼は優しく「確かにね」と言ってくれた。二人でシーツに包まっている時、彼は「君って本当に素直だよね」と言った。

「素直じゃないよ全然、そんな良い子じゃない」

「素直だよ、付き合う相手によっては悪い子になっちゃう気がするくらい真っ白な人だと思う。きっとどこに行ってもモテるし上手くやっていける人だと思う」

その日以来、彼から来た連絡は一件だけだった。


「年齢とか色々考えた時に君に無理させている気がしてこの関係を解消したいです」


別れてすぐに違う女の子に会おうと連絡しているのを知った。彼が私に言った言葉に本音があったのか私には知る余地もないしこの関係に名前を付けるなら何だったのか分からないけど、彼の言動が全て嘘だったとしても私は嘘じゃない部分までちゃんと好きだった。子供みたいに笑う所、体温、時々遠くを見る所、急に歌い出す所、全部好きだった。

彼が幾度となく褒めてくれた私の素直な所のせいで彼を疑うことが出来ずに傷付いてしまった、怪しい所なんて沢山あったのに全てすっ飛ばした。自分の長所すら長所と認められなくなってしまった。五年間好きだった元好きな人のことすら気持ち悪く思えてしまうくらい心が壊れてしまった。

彼と過ごした時間は一ヶ月すらなかったけど本当に楽しくて久しぶりに息が出来た時間だった。初めて全てを捧げて人を愛すことが出来た。どこかで会ったような気がするよりもっと運命だった。彼はきっと愛想が良くて人を惹き付けるから誰かと普通の幸せを手にするんだと思う。その誰かになれなかったことが今は少し痛いけど、私は私で幸せになるから遠いどこかで勝手に幸せになってくれれば良いよ。



海の日に海に行くような
その素直さが何より誇りです

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