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バスタブの中で『約束はできない』その7

混沌の中に落ちている、僕は風呂に潜る
恋人は独りきりで歩いている
線路の下で手摺りがゆっくりと燃えている、ビラ配りの人びとがいる
スーパーマーケットでポップソングが流れている
布団を干してあるベランダを見て、寝室のベッドに潜り込みたいと考える
公園で、自分が着る服のことを考えている
僕らは何かを我慢している、バイクが風を切って走る、僕らは不満を持っている
放課後の職員室の前を歌いながら歩いたことを思い出す
廊下のの子を踏んで音を立てている、その映像はすぐに通り過ぎてしまう
気がつくと、居心地のわるい笑みを浮かべながら地下街を歩いている

ここにあるのは一編のまぬけな詩だ
それは果てしない宇宙空間で感じる孤独のようなものだ
詩の中で死んでいる窓の外の木々は、どこへも行けない恋人たちだ
どこへ行けば順当な死を迎えられるのかという疑問を胸に抱いている
僕は君の不安を海に流す、そして孤独な宇宙に投げ出された四肢を抱いている
それは何かのしるしをもっている

川が見える、流れているのはろくでもない、いいかげんな沈黙だ
深い谷底の痩せ我慢が見える、僕はずっとここにいようかと考える
服を着ていない孤独の姿が見える、それは不満を抱えている
僕は果てしない樹齢の木々の中にいて、他には誰もいない
どこにもない詩、それは天空だ
草むらの奥の物音を追う

こたつの上にみかんとココアを並べてTVを見ている
乳酸菌の働きについて考えている
君が何を食べて生きているのかなんて言われなくても知っている
それは限りなく続く永遠の証明だ
働いてお金を稼がなくてはならない海の中でなんとか生きている

詩人の手の見えない詩がある、それはラップの掛かった食器についての詩だ
今夜は明日のランチのことを考えながらお風呂に入って、ミルクを飲んで寛ごう
真夜中の上空の正体飛行機の音を思う、くすぐったい音符がシーツにもぐり込んでいる
大きなトカゲが街を歩いている
僕らは失われた太古の大地で暮らし、詩の中の海を泳いでいる
そこでわけもなく笑い続けている

僕らは将来についての詩を書く、そこでは新しい風が吹いている
そして小さなトカゲを育てている、ときどきそれは可愛い仕草を見せる
大切なものへと姿を変えていくものたちがある
それらは眠らない言葉たちが湧き出る泉で暮らしている




 個人的には冊子の中で一番気に入っていたかもしれない詩でした。過去形です。今は正直もう時間が経ちすぎてなんとも云えないという🤭

 他の詩と決定的に違っているところがあって、それは何かと云うとこの詩の中にはある程度わたしの当時の心境が直接的に反映されているのですね。

 当時のわたしには帰る場所がマジに存在しなくって、うーん、仮初めの? ですね、ハリボテのマイライフの中に何とか幸せめな瞬間を見出そう的な? なんかそういうの、あったのですよ🤭

 ちなみに複数の顔を使い分けるペルソナ使いなポルトガルの国民的詩人フェルナンド・ペソアよろしく、わたしはいろんなキャラを演じ分けてきましたが、この時被っていた仮面は男性だったので、一人称が「僕」ですね。 

 映画の『ジュラシック・ワールド』のように恐竜が解き放たれてしまえばいい、という刹那的な部分と、詩を書くことで世界と繋がっていたいという部分と、まともに生活がしたいという部分と‥なんかごちゃごちゃに混在しながら書いた祈りですね、この詩も。

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