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地方に起業家を生み、根付かせるには。一社一社と顔を突き合わせる伴走支援で地元企業のマインドセット醸成
もともと地方にはスタートアップやベンチャーが少ないと言われる中、宇都宮市はいち早く創業支援に乗り出し、熱心に取り組んでいます。
製造業や農業が盛んで、プロスポーツチームを3チームも輩出するなど、スタートアップエコシステムを形成する高いポテンシャルを持つ宇都宮市。
次なる課題は「より具体的な成果を得ること」と言います。
話し手
宇都宮市 経済部 産業政策課 産業イノベーショングループ
総括 福田宏明氏、主任主事 田仲林太郎氏
聞き手
イグニション・ポイント株式会社 コンサルティング事業本部
イノベーションプラットフォームユニット 事業責任者・ディレクター 松本、
デジタルユニット シニアコンサルタント 大山、
デジタルユニット コンサルタント 捧
課題──6年目のターニングポイントの課題。地元定着化と、もっと寄り添ったスタートアップ支援への打ち手は
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宇都宮市は、スタートアップを増やすための育成支援「宇都宮アクセラレーター」を2018年に開始。以降、6期目を迎えた現在は一定の成果を上げたことでさらに深い課題へ向き合うことに。アクセラレーションプログラムの次なる課題は、「より具体的な成果を得ること」だったと言います。
福田氏「スタートアップの発掘・支援は一定の成果を上げてきた一方で、プログラムの終了後に域外のスタートアップ企業が地元に定着してもらえないことが課題でした。
また、支援先企業によって求める支援への要望もニーズも課題感もレベル感が違いますから、一社一社にもっときめ細やかに寄り添える余地があるのではないか、と考えていました」
6期目からジョインした田仲氏も同様の考えを持っていたと言います。
田仲氏「新しい施策で、過去5年間から大きく方向性を変える方法を模索するタイミングに来ているのではないか、と感じていました」
決め手──コンサルティング以外のイノベーション・ベンチャーキャピタル知見にも期待
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宇都宮市が事務局を務める、宇都宮イノベーションコンソーシアムのプレゼンテーション審査を経て、イグニション・ポイントの支援が始まったのは23年5月のこと。その時、福田氏がイグニション・ポイントに対して持った印象は「期待できるし、心強い」というものでした。
福田氏「イグニション・ポイントさんの第一印象は『経験豊富な人材が集まる、知見がありそうな企業』でした。コンサルティング事業だけでなく、イノベーション事業やスタートアップを育てるインベストメント(投資)事業があり、多様な人材が揃うことで総合的な支援を期待できると感じました。また、盛岡市さんなど、他の地方都市も担当していた点が心強かったですね」
イグニション・ポイント主担当を務めた大山は、アピールしたポイントを次のように力説します。
大山「イグニション・ポイントはスタートアップの集積地である渋谷区さんをご支援していますが、日本全国でイノベーションの機運を高め、東京だけではなく、地方のスタートアップが盛り上がっていくことで、イケてるスタートアップはもっともっと出てくると思っています。その想いを胸に後方支援できればと、宇都宮市様の案件に応募いたしました」
イグニション・ポイントはその包括的な支援体制に多くの自治体より信頼を寄せていただいています。
取り組み──顔の見える伴走支援。新しい価値を生むためのマインドセット醸成
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宇都宮市の抱えていた課題に対してイグニション・ポイントが打った施策は主に2点。23年5月から24年3月までの11カ月間に渡り、スタートアップを支援するアクセラレーションプログラムと、宇都宮市の中核企業とスタートアップをつなぐオープンイノベーションプログラムを支援しました。
大山「アクセラレーションプログラムではまずスタートアップを集め、次に選抜した企業を伴走支援するという2ステップで施策を行いました。特に、宇都宮市内のスタートアップを積極的に掘り起こすため、地元のネットワークを活用し、宇都宮市内の異業種交流会に参加したり、地元の起業志望者に対してプログラムやイベントの案内を行いました。この取り組みにより、200人近くの方々との対話を通じて、40件を超える応募の中から、栃木県内においては約20件の応募を得ることができました。地方スタートアップの掘り起こしと、地元定着化に向けて少なからず貢献できたのではないかと考えています」
PoC(概念実証)型コースが3社、インキュベーション(育成)コース6社の計9社が採択。宇都宮市内のスタートアップ5社、市外のスタートアップ4社という結果になりました。
大山「2ステップ目の伴走支援は、面談してその場で思いついたことをただ伝えるだけの場当たり的なメンタリングになりがちです。そうならないように、事前の業界構造・競合のリサーチやスタートアップの現状、課題のヒアリングを何度も重ねました。また、顧客ヒアリングに同行し、相手の状況を理解した上で解決に向けて一緒に議論することで、より効果的な支援を心がけました」
定例会のほか日々電話やチャットを通じて、密にコミュニケーションを取りました。現場を担当した捧は、当時を次のように振り返ります。
捧「私は月に1回から3回のペースで宇都宮市を訪れていました。採択企業が地元の小学校にチラシを配りたいと、200校分、2万枚のチラシの仕分けと封入のお手伝いを一日かけて行ったこともあります。
支援するスタートアップのためになること、成長につながりそうなことであればあれば何でもやる精神で動いていました。メンタリングはオンラインを中心にしながらも、宇都宮市内や時には弊社オフィスにて対面での実施も大切にしていました。また、採択企業が実証実験を行う際には土日も使って同行しながら、第三者視点での気づきを何か一つでもお伝えできないかと常に考えていました」
一方のオープンイノベーションプログラムは、宇都宮市内の中核企業とスタートアップの共創を目指して、試行的に1社のマッチングを目指しました。
大山「最初は協業できるスタートアップがなかなか見つからず、地元企業とのマッチングに苦労しました。そこで、理解を深めるためにオープンイノベーションに関する丁寧な説明や議論を重ねました。その結果、地元企業が今後進出したい、医療・介護領域におけるスタートアップとのマッチングが成立、新規事業開発のための協業を進めていくことになりました」
戦略という絵を描くだけではなく、実行から実装までのご支援が実を結びました。スタートアップのご支援や、オープンイノベーションのご支援を行う際に、イグニション・ポイントが大事にしているポイントは2点あります。
松本「宇都宮市さんがこれまで積み上げてきたスタートアップエコシステムは素晴らしいもので、非常に層が厚いです。その上で、新規事業やスタートアップ支援にイグニション・ポイントがこれまで多く携わってきた中で私が思うのは、ご支援の際に重要なのは『全体感を持つこと』です。
プロジェクト全体の課題やゴールを見据えて考えるべきことや検討すべきことに向き合うこと。メンタリングやヒアリングの際も単に聞かれた質問に答えるだけではなく、別の観点の検討も必要なのではないか、といったご提案をときには行いました。
例えば、技術シーズを起点にしたスタートアップであれば、プロダクトアウト開発を行うだけではなく、顧客ニーズにも目を向けてみる。顧客の視点からどのようなユースケースで利用されるのか、視点を変えて何が提供価値になるのかを改めて検討するといったご提案です」
大山「オープンイノベーションにおいては、大企業側に既存の考えだけでなく新しい考えを取り入れるマインドセットの変革が最も難しいポイントでした。
もちろん、既存事業の改善も重要です。ただ、新規にイノベーションを生み出していく考え方はまったくの別物。製造業における既存事業の改善では、高品質化・低コスト化をミスなく推進していくような確実性が重視されますが、新規事業の場合は、小さな失敗を繰り返しつつ、新しいアイデアや想像もしなかった新規顧客を探索していく必要があります。
こうしたマインドセットの変革を行うために対話を重ねたことで、地元企業がスタートアップに対して、すごく前向きに向き合ってくれるようになりました。当初はスタートアップとの協業に慎重だった企業のマインドセットが、『一緒に何を生み出せるのか?』、という考え方に変化し、それが浸透していったことは大きな収穫でした」
マインドセットの変革が実を結んだ成果でした。
成果──成長スピードが加速、アンケート結果も高い満足度。「土台はできた」
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アクセラレーションプログラムもオープンイノベーションプログラムも種まきのフェーズで、はっきりとした成果が見えてくるのはこれから。しかし、現時点でも一定以上の成果を感じています。
福田氏「イグニション・ポイントさんから支援企業の課題に応じた適切な支援・アドバイスを受けたことで、一社一社の目に見える成長が図られたことが、アクセラレーションプログラムの成果の一つだと感じています。そのきめ細かい対応のおかげで、課題解決や成長のスピードが速くなったという成果も出ました。
またオープンイノベーションプログラムでは、異業種とスタートアップの協業が図られ、新しい価値が生まれました。100万人規模の政令指定都市や県単位以外の、宇都宮市規模の自治体ではおそらく初めての取り組みであり、中核企業とスタートアップとの取り組みが生まれたことは誇れる大きな成果と言えるでしょう」
田仲氏「アンケート結果や成果発表会の様子からみても、採択されたスタートアップの満足度が高いことがわかります。実はインキュベーションコースという新しい取り組みに対して、当初は反応が得られるか不安もありましたが、採択企業には高い満足を感じてもらえているようです」
福田氏「これまでの取り組みで、スタートアップを創出し、新しい企業を発掘して孵化・育成させる過程の厚みは増してきましたし、土台作りはできたと感じています」
ご支援を通じて、イグニション・ポイントらしさをどのような点でもっとも感じていただけたのでしょうか。
福田氏「画一的ではなく、顔を突き合わせて、オーダーメイドの手厚い支援をやっていただけた点が一番良かったと感じています。また、イグニション・ポイント社内に様々な業界知識をもった専門家がいて、アドバイスをもらえたことも成果につながりました。
イグニション・ポイントの皆さんが一様に、『成果のための成果を作るのではなく、実のある成果を出していこう』という考えだった印象を受けましたし、その姿勢にとても満足しています」
田仲氏「顔を突き合わせるコミュニケーションや飲み会の開催など、地元の企業との信頼関係構築に重点を置いていただけたことが重要でした。時には泥臭く思える関係構築の必要性を理解し、寄り添ってくれていると感じましたし、そこはイグニション・ポイントさんらしさでもあるのかと思います」
戦略立案だけで終わらず、着実に実行から実装化へ。地元に入り込んで企業との信頼を獲得したことが今回の成果につながりました。そんなイグニション・ポイントらしさの詰まった、自治体への支援が結実した好事例です。
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(記載内容は2024年5月時点のものです)
取材・文:山岸 裕一
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