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生き残る、80点の店。

先日、なにげなく入った、チェーン店の「とんかつ屋」が、“なかなか良かった”ので、紹介しよう。

店舗の造りは、完全和風。綺麗な白木の太い梁や壁。明るい照明。広い通路。店員の声も明るく響く。「おすすめランチ」を注文した。

店内・テーブル・メニューを観察していくと、なかなか凝った演出をしている。

■「七つのこだわり」というコンセプト。

この店は「七つのこだわり」というコンセプトでアピールしている。肉のこと、米のこと、キャベツなどの野菜、お茶、みそ汁、パン粉、たれ。

それぞれのこだわりを1つずつ筆文字と絵で表現し、70〜80センチ角の額装にして、壁にかけている。これは、客の誰もが読んでしまうだろう。メニューにも書かれている。

■とんかつの下に網を敷く。

大皿にキャベツの千切りを盛り、とんかつを置いているのだが、とんかつの下には、半月型の金網が敷かれている。とんかつの油を落とすためである。

油がしっかり切れていないと、サクサク感がなくなり、ベトッとしてしまう。下に落ちた油がキャベツに流れてしまわないか、と考える方もいるだろうが、キャベツに油が混ざったところで、ドレッシングをかけるので、わからなくなる。

■ごはん・キャベツ・しじみ汁おかわり自由。

この3つのおかわりが自由である。ごはんのおかわりはよくあるが、みそ汁やキャベツはあまりない。

キャベツは、気候に左右され、価格変動が激しい場合があるので、経営面から見ると、おかわりは難しいところである。そこをあえてやっているのが、この店のうまいところだと思う。

もともと、皿に盛っているキャベツは量が多いので、それほどおかわりをする客はいない。した人がいても、それほど損失はない。

それよりも、客全員に「キャベツのおかわり自由」だというサービスをアピールできていることに感心する。実際にはおかわりしなくても、サービスを受けている嬉しさが残る。

そして、一番のポイントは、「しじみ汁」のおかわりである。単なるみそ汁では、客は喜ばない。貝類の価格が高いことを客は知っている。それをおかわりできるのだから、満足ポイントは高い。

■「漬物」と「なます」のサービス。

1グループにつき、「漬物」と「なます」が1皿ずつサービスとして出される。「こちらは、サービスとなっております」と店員が言いながら、出している。

サービスとして2品も出されると、客は喜ぶ。「気が利いているねぇ」となる。これがまた、美味しい。

■たれに使うごまは、客が擦る。

これは、飲食店がよく使う手だが、「客に何かをさせる」手法である。この店では、たれと合わせるごまを客に擦ってもらう。

たれの器兼すり鉢で、自然木そのままのすりこぎで、ごまを擦る。客は、こういうことを喜んでやる。これから食べるという楽しさを盛り上げるのである。

いっしょに来た人と“これくらい擦るのかなぁ”などと、会話が広がる。

■キャベツのドレッシングは、2種類。

普通は、前もってかけてくるか、1種類を置いているだけだが、この店では、「和風ごま」と「青じそ」の2種類を置いている。

一方が好みでなければ、もう一方を使えば良い。半分ずつかけることもできる。ここにも、食べる楽しさの演出がある。

■変わったお茶を使っている。

「えびす茶」というお茶が出される。エビスグサという植物の仲間を使ったものらしいのだが、香ばしく、少し苦味があり、それでいて強い主張はなく、なかなかイケる。

クセがありすぎると、客はイヤがる。ここでは、見たことも聞いたこともない初めてのお茶を飲む、という体験がある。

■生パン粉を使っていることを見せる。

客から見えるところに、たくさんの大きな食パンが積まれている。和風の店で食パンがあると、一瞬「えっ!」となるが、コンセプトを読めば納得する。こだわりの証明なのである。普通なら、見えないところに置いてしまうのだが。

どうだろう? なかなか演出のウマい店である。

店内の雰囲気をはじめ、とんかつそのものも、たれの味も、しじみ汁も、キャベツとドレッシング、漬物、なます、お茶、どれもがよく考えられており、満足できる美味しさだった。

では、どうして「なかなか良かった」なのか。「80点の店」なのか。

●店頭から、店内がよく見えない。スモークガラスで、よほど近づかなければ、店内の様子をつかめないので、客としては不安になる。

●ショーウィンドウが、ファミレスのようで、安っぽく感じる。サンプルは悪くないのだが、プライスカードのデザインや見せ方の問題だろう。

●「おすすめランチ」という言葉が、店の雰囲気と合っていない。「お昼のおすすめかつ膳」などとする方が、和の雰囲気を高める。

●店員が少ない。その時だけだったのかもしれないが、店員が少ないと、おかわりする際に、大きな声で呼ばなければいけない。

●メニュー表が、ファミレスそのもの。ラミネート加工したものである。もう少し高級感、和風が欲しいところである。

●塩を置いていない。擦ったごまとたれで食べることが、店のこだわりかもしれないが、揚げ物には塩が不可欠。素材の味が一番よくわかるからである。

●これは私の好みかもしれないが、肉がやわらか過ぎる。美味しいのだが、少しもの足りなさを感じる。歯応えのある方が、とんかつを食べている実感がある。そういう人は、多いと思うが。

このような問題点があるので、私は80点とした。だが、問題を差し引いても、それ以上の満足感があるということを書きたかったのである。つまり、充分に繁盛店として、やっていける店だということ。

“なかなか良い”でも“80点”でもいい。客が満足する仕掛けがあれば、そこそこ繁盛する。あとは、80点で満足せず、100点、200点をめざすことである。

これは、飲食店に限ったことではない。どんな店でも、客を楽しませる仕掛けづくりが大切なのである。

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