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【小説】 ゆめみごこち。


 アキとマキコの声が混ざる。柔らかい和音になる。胸の底をくすぐられるみたいな、爽やかな音。春を予感させる、まあるい歌だった。
 ドラム越しには二人の表情は見えないけど、きっと笑ってるんだろう。背中はぴちぴちと光っていた。ベースのミウが時々、こちらを見てくれる。
“今日、イイね!”
 実際にどう思ってるかなんて分からないけど、ミウはそんな顔をした。得意気そうな、充たされた顔だった。ミウって本当に優しい子だよ。私も頬を緩めて、ドラムで答える。
“最っっっ高!”

 すうっと気持ちが楽になる。自由になれる。いつかの懐かしさが帰ってきたような、暖かい気持ちだった。現代から過去へと遡っていくみたいな、そんな感じ。一番印象に残ってるのは、やっぱりスタジオリハーサル。部活みたいに、毎日、毎晩、練習した。手の皮が何度も剥けて、女の子の手じゃなくなって、それでも、バンドに没頭した日々。その手触りが蘇った。

 たぶん。たぶんだけどね、私たちはこのライブの時、ステージの上にはいなかった。みんなで旅に出掛けていたんだと思う。時空を超えた、音楽の旅。
 アイスを片手に口笛をピューピュー吹きながら。手を繋いだり、腕をくんだりしてるけど、男の子みたいな足取りで歩いてた。春の午後の眠くなるような、ほわほわと揺れた光の道。空には花吹雪が舞っている。
 みんな、身体の内側がピカピカ光っていたし、ずうっと笑ってた。
 本当に、夢をみてるようだったんだ。

 

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