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人口減少化での「第三の道」 -それでもよりよい暮らしを模索して (中編)

これから急激に人口が減少するこの国で、それぞれの地域はどうなっていくのか。座して(地域としての)死を待つしかないのか。日本全体としては縮小するパイの中でのゼロサムな奪い合いかもしれないけれど、税収という減りゆく財源を投じながらも地方創生的な取り組みを進めていくのか。はたまた、第三の道があるのかどうか。

福島県いわき市川前町の事例から、この問題について考えていこうという今回の前・中・後編。まだの方は、前編も合わせてお読みください。


うまくいかなかった、川前流の「住まい方」

前編にも書きましたが、6、7年前に地域包括ケア推進課という文字通り、「地域包括ケア」を推進する部署にいた市職員の私。


地域包括ケア(システム)とは、、、

高齢者の方が介護が必要な状態になっても、本人が望めば、住み慣れた地域で暮らし続けられらるよう、医療・介護だけでなく、行政やご近所の力なども合わせて、本人の希望を支えるネットワークや取り組みのこと。

この地域包括ケアを進めるのは、市役所の福祉系部署だけではありません。
むしろ、中核でこのシステムを進める機関として「地域包括支援センター」があります。

地域包括支援センターは、市町村が設置主体となり、保健師・社会福祉士・主任介護支援専門員等を配置して、3職種のチー ムアプローチにより、住民の健康の保持及び生活の安定のために必要な援助を行うことにより、その保健医療の向上及び福祉 の増進を包括的に支援することを目的とする。

厚生労働省 「地域包括支援センターの業務」より


いわきは、東京23区のちょうど倍の大きさ(約1,200㎢)がある大変広い市なので、この包括支援センターも市内7箇所に設置されています。

今回の話の舞台である川前町は、隣接する小川町とセットで一つの圏域として、「小川・川前地域包括支援センター」が担当しています。

川前らしい地域包括ケアのあり方を求めて、川前行脚をしている頃(2017-2019年頃)、強力な水先案内人として、私を川前のあちこちに連れて行ってくれ、かついろんな人に会わせてくれたのが、「小川・川前地域包括支援センター」のスタッフであるフジタテさん。


前編で書いた「駅前居酒屋」でも川前のおばちゃんと一緒に働くフジタテさん(中央)


何度か川前に一緒に行くなかで、こんな話をしてくれました。

フジタテさん(以下、「フ」)「川前って、いわきの平均より高齢化や一人暮らしの割合が高いんですよ。」


ーー わかります。いわきや日本全体のこれからをちょっと先にリードしてる感じがします。


フ 「それに川前って、いわきでは珍しく、冬の間、雪が降り積もるでしょ。川前の中の集落によっては、冬の間、雪に閉ざされると言ってもいいぐらいのイメージのところもあるんです。」


ーー 同じいわきに住む者でも、そんなに閉ざされる感じがあるのはイメージがつきませんでした。


フ 「高齢者で一人暮らし。隣の家とも(物理的に)距離がある。そして、冬の間は雪で家に閉じこもりがちになる。集会所に行って、みんなと会ったりお茶したり、体を動かしたりという活動もできなくなる。春になって、訪問してみると、ものすごく心身が弱っていたり、なかには亡くなっていたりするケースもあるの。」


ーー 「運動(活動)」「栄養(食事)」「家から出る(交流)」が低下することで起こる「フレイルの悪循環」というものが言われますよね。


フ 「まさに、そのフレイル(虚弱になっていく)の悪循環が、川前の高齢者の皆さんに、冬の間、顕著に起きいるの。雪に閉ざされて、家の中にいるので、活動や交流の量は減るし、ご飯・お漬物・お味噌汁だけのような質素な食事になりがちでタンパク質などの栄養も下がる。心身ともに弱くなっていってしまいがちです」


ーー 理屈どおりのことが起きてるんですね。


フ 「問題はフレイルだけではなくて、そこに”一人暮らし”と、雪による隣近所との交流の減少による、コミュニティの見守り機能の低下が加わってしまうの。それによって、一人暮らしの高齢者のフレイルが、周囲に気づかれずに、家の中でどんどん進んでいってしまい、春になって行ってみたら、大変な状況になってたということが起きがちなんです。」


ーー うわぁ、なるほど。ものすごく深刻な問題ですね。


フ 「いま、この川前-冬の間-問題の解決に取り組んでいるんです」


川前 冬問題

高齢者のフレイルの悪循環、一人暮らし、雪によるコミュニティの見守り機能の低下。川前での川前らしい地域包括ケアを模索するなかで、川前冬問題という大きな課題に出会いました。フジタテさんとの会話は続きます。

フ 「冬の間だけでも、川前を離れて、別の地域に住んでるお子さんのところへ身を寄せてはどうかと提案したりしてるんだけど、、、」


ーー おぉぉぉ、それ、めっちゃいいじゃないですか!


フ 「ご自分たちの健康や命のためにもどうですかって提案するんだけど、子どもたちに悪いからって、提案を受け入れる方はほとんどいないんですよ。」


ーー 自分の健康や命に関することより、子どもたちへの配慮優先、、、おそるべし親の愛、、、


フ 「それに、やっぱり、なんだかんだ川前で暮らし続けたいみたい」


ーー 「住み慣れた地域」っていうのは、単なる謳い文句じゃなくて、それまでの人生や隣近所との付き合いみたいなものが、全部積み上がってるものですもんね。確かに、不便だからとか、冬の間ちょっとリスクが高まるからといって、そう簡単に住む場所を変えるのに抵抗がある方がいらっしゃるのは、話を聞いて分かった感じがします。


フ 「そこで、地域の方々が何名かで冬問題のヒントを探しに、雪国の先進地を巡ったんです」


ーー 痺れるなぁ、その地域愛。


フ 「それで、新潟がどこかで、雪に閉ざされる冬の間、道の駅に隣接する施設に集まって暮らすという取り組みがあったそうなんです。それにヒントを得て、川前でも冬の間、集まって暮らすができないかというアイデアが生まれました。」


ーー 川前からは離れない。川前で暮らし続ける。だけど、不安やリスクの高まる冬の間だけは、集まって暮らす。やばいぐらい、超ステキなアイデアですね。



鬼じゃない、人が暮らすぞ鬼ヶ城

「川前冬問題」を解決するための「川前冬の間集まって暮らすぞ」作戦ですが、暮らす場所はすぐに決まりました。なぜなら、悩むほどの選択肢がないからです。

複数の人が集まって暮らせる場所、お風呂もある場所、それは川前には1箇所しかありません。

その名も「いわきの里 鬼ヶ城」


春から秋にかけては、バンガローやコテージ、キャンプ場もありアウトドアや各種合宿などで多くの方が訪れます。アウトドアだけでなく、立派な屋内の宿泊ルームや大浴場もあります。が、冬の間は標高が高く、雪に閉ざされてしまいます。

冬、雪に閉ざされ誰も訪れない宿泊施設と、冬の間だけでも集まって暮らしたい作戦。完璧なマッチングじゃないですか!早速、鬼ヶ城へ行きました。


相部屋タイプなら、費用も抑えられるんじゃないかとか当時検討してました。
大浴場
星の里とも呼ばれるほど、夜は星がキレイなんですって。


立派で、ステキじゃないですか?
ちなみにこの投稿のトップ画像は、鬼ヶ城の大浴場のお湯がでるところ。鬼ヶ城だけあって、鬼のモチーフ。なんかかわいいですよね。

鬼ヶ城側もやったことないチャレンジだけに不安はあるが、とりあえずやってみようということで、1ヶ月暮らす料金の試算なんかを進めてくれました。

また、自炊できるようなスペースと機能も検討を進めてくれました。

湯治場とうじば湯治宿とうじやどなどようなイメージですね。
冬の間は、短くても3ヶ月。この期間暮らしても費用的に高くならないように鬼ヶ城サイドも配慮を重ねてくださいました。

我々も、チラシを作って、川前のいろんな集会所や公民館を訪れ説明したり、機会を見つけては、提案を繰り返しました。


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と、ここでこの夢のようなチャレンジ企画はタイムオーバーとなりました。

一つは私の異動です。一般的には3年と言われる異動のタイミングより一年長く4年間、地域包括ケアの部署にいることができましたが、異動で課を離れることになりました。

もうひとつは、コロナがやってきたことです。

私の異動は2020年の3月末。ちょうど、新型コロナが世界を襲いかかりはじめたタイミングです。今でこそですが、当時は、未知なるウィルス。「集まって」などもってのほかでした。

こうして、この川前流の新しい「住まい方」プロジェクトは、消化不良な形で幕を閉じ、私は川前とお別れとなったのです。



今回を後編としてこの話を完結する予定でしたが、まさかまさかの冬問題だけで、目安の3,000字になってしまったため、前・中・後編にわけてお送りすることにします。

詳しくは、「後編」に書きますが、こんな素敵な川前が現在クラウドファンディングに挑戦中です。一度、プロジェクトページだけでもご覧ください。お願いしまーす。


後編につづく。
後編の構成は↓

川前で新たなプロジェクトが爆誕!
 ・小さな拠点とは?
 ・古民家をリノベーション!
 ・名前は『おおか』
 ・挑戦とその想い
人口減少化でもよりよく暮らすを諦めないために


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