平将門公聖地巡礼ツーリング・東京都編
登場人物紹介
井苅和斗志(いがりかずとし)…自称右翼にして元自衛官。鬱病とアルコール依存症で休職中の会社員
青江真央(あおえまお)…自称革命家。かつては「革命少女」と呼ばれていた。井苅の事を「師匠」と慕っている。派遣社員
催行日時…2024(令和6)年6月19日(水) 0413時~1157時
鎧神社(新宿区北新宿)0430時~
「師匠!いったい何時だとおもってるんですかあ!」
声を荒げているのはかつて革命少女と称された青江真央である。
「いやあ、悪い悪い。30分程寝坊しちゃってさあ…」
ヘルメットを脱ぎつつ言い訳をしているのは井苅和斗志。
今回は井苅のオートバイRebel1100DCTでタンデムしながら平将門公の聖地巡礼ツーリングを行う趣旨で早朝に鎧神社で待ち合わせしていたのだった。
「そうじゃなくてえ…」
青江はぐるぐると腕をまわして神社の周囲を指差す。
「ド住宅じゃないですかあ!それをこんな早朝からぶろろろろうって大きな音させてえ…!」
青江の言う通り鎧神社は中央・総武線の大久保と東中野のちょうど中間あたりに位置する住宅密集地にある。
だが、線路をくぐればそこには淀橋青果市場があり朝早くから人々が働いているのである。
「だからって…」と不満を口にする青江を制しつつ井苅は言う。
「いや、おまえの声が一番近所迷惑だ」
「な…」
「そんなことよりも今回は非常に重要な聖地巡礼なんだぞ」
「いったい何が…」
訝しげな青江に向かって井苅は続ける。
「鎧と兜、首と胴を繋ぎ都内と坂東の将門公御祭神の神社を繋ぐ巡礼なんだ」
「そ、そんな重大な任務があ…」
なんとかその場を言いくるめた井苅は続ける。
「で、ここは将門公の鎧が埋められ祀られたとの伝承のある場所なのだ」
「なるほどう、それで鎧神社なんですね。こんな身近に将門公関連の神社があったなんて考えもしなかったですう」
築土神社(千代田区九段北) 0500時~
「わわわっ、師匠!なんてところに止めるんですかあ!」
青江が驚くのも当然だ。築土神社は九段坂の北側の中坂と称される急坂の途中に位置する。
「ほら、そこに鳥居があるだろ?」
井苅が指さしたのは外壁の修繕作業だろうか、足場の組まれたビルの前である。
「あ。でもこれって普通にオフィスビルですよ」
「そう思うだろ?それがだなあ」
井苅はすたすたとビルの通路に足を踏み入れる。
「あ、勝手に入っちゃ…あれ?」
「そう、驚きだろう」
建物の通路の先には築土神社の拝殿があった。
「なんですかっこの不可思議空間わあ?」
「そうなんだよ、坂道だったし拝殿はビルの奥の谷間だし、俺もここに将門公ゆかりの神社があるなんて、何回もこの坂道通ってたのに気が付かなかった」
さらに奥には朱色の鳥居が並んでいて異空間振りMAXである。
「で、ここはどこと対になるんですかあ?」
「……」
「あ、考えてなかったでしょう師匠」
少したじろく井苅だったが何か思いついた様な表情…。
「いや、そんな事ないぞ。坂東市にここと対になる神社がある」
「そんな事言ってえ、いまてきとーにおもいついたんでしょ?」
「この異世界、異空間振りに勝るとも劣らない神社があるんだ。そこを対としよう」
「あ!やっぱりいま思いついたんじゃないですかあ!」
神田明神(千代田区外神田) 0515時~
「やっぱり将門公と言えば神田明神ですよねえ」
青江は何やら得意げな様子である。
「こう、なんか、江戸っ子の血が騒ぐと言うかあ…」
「え?おまえ福島出身じゃなかったっけ?」
「う、いや、住民票は都民なんでもう江戸っ子です!」
そんなことどうでもいいやと無視して井苅は境内を写真撮影。
「まだ早朝5時過ぎだぜ?なのに…」
「そうなんですよう、これだけ信仰されてる神社ってすごいですう」
決して多くはないが、一人が去るとまた一人と参詣者が絶えない。
青江も熱心に何かを祈っている。
「おい、そんなに長く何を…」
「はい、『隣の土地が手にはいりますように』って」
「ん?なんか昔もそんなこと言ってなかったか?」
将門塚/首塚 (千代田区大手町) 0540時~
「ほんと首塚ってもだん?な感じにかわっちゃいましたよねえ、あたし前みたいなおどろおどろしいふいんきが好きだったて言うか…」
そんな不謹慎な発言をする青江を井苅はたしなめる。
「ほんとその件で関係者は困ってたんだぞ。
真夜中なんか2時頃来ると必ず黒尽くめの服着た中年女性が碑の前でぶつぶつ何やら喋ってたり、YouTuberみたいな奴がカメラ持って突撃してたり、若者たちが肝試ししてたり…」
「…って何で師匠はそんな事知ってるんですかあ?」
「……」
青江の問を無視し井苅は碑に手を合わせる
『将門公、いつもありがとうございます』
とその時青江が素っ頓狂な声をあげる。
「そう言えばカエルちゃんは?師匠、カエルちゃんたちどこ行ったの?ここの対のカエルちゃんだけになっちゃったあ」
「いやいや、そんな事はないぞ」
と、井苅は日の裏側へ歩み青江を手招きする。
「ああっ」
そこにはカエルちゃんたちが何体も並んでいるのだった。
「いやさ、ここに供えられるカエルちゃんたちは、定期的に幼稚園とかの保育施設に無償で提供してるらしいんだ。それまではここでじっと待機しているらしくって…」
「なるほどお、ところでなんで師匠はそんな事知ってるんですかあ?」
と、そこへホウキとチリトリを持った定年退職後くらいの年齢の男性がふたりに声を掛けてきた。
「どうもおはようございます」
「あ、おはようございます。いつもお疲れ様です」
この男性、夜明けと共に毎朝将門塚を訪れ清掃活動をしている。
噂によれば夕方にも訪れているらしい。
井苅が語ったカエルちゃんの話もこの男性とのやりとりから知り得た情報である。
「おや、今朝は珍しいですね。奥様ですか?」
「いえ、違います!」
青江はきっぱりと断言する。
「この方はわたしの師匠なんです!」
「……」
「……」
「あのさあ、『師匠』っての第三者の前ではやめてくんないかなあ」
呆れたように井苅は言う。しかしそれを無視して青江は、
「ところで師匠、あのおじさまはいったいどこの誰なんですかあ?」
「知らん」
「え?」
「俺みたいなコミュ力弱者がそんな立ち入った話とか無理に決まってんだろ」
「でもカエルちゃんの話とかあ…」
そのあたりも含めて何年もかかって毎度少しの会話の中から知り得た情報である。
清掃する立場からすれば以前の将門塚は樹木にカラスが巣を作って撤去するのが大変だったとか、京都神田明神から寄贈されたカエルをそれと知らずに碑の裏に移動して怒られたりとか、40代くらいまで250CCのバイクに乗ってた事とか…
「それで、どうやら兜神社近辺に住んでいて徒歩でここまで来てるらしい」
「兜神社!それってこれから行く場所じゃないですかあ!」
兜神社(中央区日本橋兜町) 0605時~
「鎧があるなら兜がある…と言うことで、ここに将門公の兜が埋められ祀られたとの伝承があってだね」
そんな話を聞きながら青江は空を仰ぎ見る。
「すごいですよ師匠。真上が高速道路とか」
「いや、正確には直上ってわけじゃないけど…」
「ああ、兜神社があるからこのあたりは兜町って言うんですねえ」
「そうらしいな」
「じゃあ何で鎧神社のあたりは『鎧町』じゃないんですかあ?」
「……」
「というわけで、聖地巡礼東京編はここで終了だ」
「いよいよ将門公のアジトですね」
「アジトっておまえ…」
井苅は呆れ顔である。
「まあ、とりあえず常磐道のサービスエリアでちょっと休憩してから坂東市へ向かおうか」
「高速道路たのしみだなあ。師匠、ぜひ最高速アタックして下さい。
たまにはスリルとサスペンスをあじわいたいのですう」
(令和6.06.20記)
⏩️平将門公聖地巡礼ツーリング・坂東市編へ続く
備忘録2024.06.19(水)【平将門公】聖地巡礼ツーリング
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