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にじんたところが面白い 『職業欄はエスパー』を読んで②

前回のつづき。

森達也さんの作品が好きです。わたしのお気に入りは『A2』と『FAKE』。

むかしは中立で俯瞰的な立場をとるのがドキュメンタリーだと思っていましたが、森さんの考えに触れると、必ずしもそうじゃないんだな、と思えてきます。

わたしとあなたの関係でいること。同じ地平に立って、一対一の関係を結ぶこと。この関係性でいるからこそ、対象のリアルな姿がいきいきと立ち上がってこられるのだと思います。


信じる/信じない
善/悪
肯定/否定

こういった境界線を簡単に引いてしまうことに対して、森さんはすごく慎重な印象です。時にはうんと悩みぬいて、「わからない」を楽しんで。こういう正直さ、自分の中にもあったらいいな〜。

そもそも、自然の中にはっきりとした輪郭線なんて存在しないとよく言われます。人間の心だって、どこかで矛盾をした感情を抱えていたりするものですよね。

けれども、本当にすべてのものがあいまいだったとしたら・・・。コントロールが取れなくなるような、カオスに飲み込まれていくような、自分が自分でなくなってしまうような、そんな怖さを覚えてしまうところもあるかもしれません。(エゴの境地。)そういう意味では、枠をもうけることは安心だし、便利でもあります。時には必要なものです。

けれども、わたしは、映画でも、ドキュメンタリーでも、小説でも、色のにじんだ部分をすくいとってくださる作家さんがとても好きです。森達也さんがそうだし、是枝監督も。『万引き家族』なんて、まさにそうでしたね。

あいまいなものを、あいまいなままにキャッチできる繊細さ。偏見なくありのままを観ていられる注意深さ。わかりやすく白黒つけたい衝動に流されない忍耐強さ。面白い作品を生み出す人って、どこかセラピストっぽい部分があるのかもしれません。

色のにじんだ部分を面白がるということについて、シュタイナー教育を受けてきた斎藤工さんが似たようなことを語っていました。
http://waldorf.jp/100th/message/saitohtakumi/

わたし自身も、シュタイナー教育を学んだおかげで、にじみに対してさらに意識的になれたような。

『職業欄はエスパー』を読んで、そんなことを考えました。

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