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日本の選挙制度のややこしさは世界有数 そのややこしさに意義があれば良いのだが…

 「比例復活当選」衆院選ではしばしば聞く言葉だと思います。小選挙区では当選できなかったものの、政党の得票により、比例代表枠で当選したことを指し、一部では「ゾンビ、ゾンビ議員」などとも呼ばれます。

「比例復活当選」の例

 しかし、衆院選の選挙制度そのものに〇〇票とったら比例復活して良いよというような制度はありません。(ただし得票が極端に少ない場合当選資格を失うことはあります)比例復活1つをとっても衆院選の複雑な仕組みをが絡むのです。

衆院選のややこしさ

 日本の下院(衆議院)では「小選挙区比例代表区併用制」が採用されています。その名の通り小選挙区制と比例代表制を両方取り入れた選挙制度ですが、これ自体は日本に限った制度ではありません。(ドイツ、イタリアなど、両国とも比例代表がメイン)その複雑さは世界トップレベルですが…

小選挙区制自体は単純明快

 衆院選の選挙制度の話に戻ります。小選挙区、比例代表どちらが先でも良いのですが今回は分かりやすく小選挙区から当選者を決めることにします。
 日本全国には289の衆院小選挙区があります。この289個の区それぞれで最も多く票を得た候補、全員合わせて289名だけが当選するのです。ここまでなら非常にシンプル…(苦笑)

なぜかブツギリにされた比例代表区


 問題は比例代表です。日本では「ドント式」という方法が用いられていますが、概ね「比例」代表なのだから各党の得票率に「比例」して議席が割り振られるという理解で大丈夫です。(厳密的にはきれいに割り振れない最後の数議席については大政党に有利だという指摘があります)
 この比例代表区ですが、全国で11個のブロックに分かれておりそれぞれ定員数が違います。最大の近畿ブロックだと28、最小の四国ブロックだと6といった具合です。

比例11ブロック

 このブロック分けによりまず、当選に必要な最低得票率が3.0%程度に跳ね上がります。(ブロック化されなかった場合は0.5%程度)また、定員数の少ない地域では当選者を出すのに必要な得票率が10%程度、定数の多い地域では3%程度となるため、定数の少ない地域に地盤を持つ小規模政党に圧倒的に不利になります。

惨敗率と比例復活


 さて、このような制度で各党に割り振られた議席は、原則、「拘束名簿式」という制度に基づいて各々の候補者に割り振られます。それぞれの政党が予め候補者の当選優先順位を決めておき、それに基づいて当選者を決める制度です。そのため有力政党で高い優先順位になればほぼ確実に当選できます。
 もっともこの優先順位で当落が決まることはむしろ珍しいことだと言えます。それぞれの政党が選挙区で出馬している候補者に限り同一○位とすることが認められているからです。優先順位が同じだったら当選者が決まらないじゃないかと思われるかもしれませんが、ここで「惨敗率」という考え方を採用します。

惨敗率

 惨敗率は

落選した候補者Aの得票数÷当選した候補者の得票数×100

で計算できます。あまりピンとこないかもしれませんが、とにかく惜しい負け方であればあるほど惨敗率は高くなります。もし政党が決めた優先順位が同じだった場合、この惨敗率が高い候補が当選するのです。

参院選の場合

 参院の選挙制度もその複雑さでは衆院に負けていません。参議院では選挙区比例代表並立制を採用しています。衆院では小選挙区でしたが参院では単に選挙区です。

無理矢理都道府県にひもづけられた選挙区


 まず、選挙区ですが、参院では都道府県に強いこだわりのある制度設計になっています。選挙区割は原則都道府県単位となっており、一票の格差は各選挙区の定数によって解消が計られています。(鳥取・島根、徳島・愛媛は例外的に合区とされています。)そのため、各々の選挙区の定員は最小が1、最大が6でそれでも一票の格差は3倍程度あります。

参議院の選挙区

非拘束名簿式のややこしさ


 一方、比例代表は衆院のようなブロック分けはされておりません。そのかわり、非拘束名簿式というまたやっかいな制度が採用されています。
 参院比例において有権者は政党名、比例に立候補している候補者名のどちらかを投票用紙に記入することになります。そして候補者名票については、その候補者の所属政党への票としてカウントします。こうしてカウントされた票数で各党への配分議席を決めたあと、今度はその党の誰が当選するのかを決めます。これは候補者名票だけを使います。それぞれの政党で個人得票数が多かった順に配分された議席まで当選者を決めるのです。

意義のある制度、無い制度

 惨敗率による比例復活、区によって定員が異なる選挙区などそれ自体で非常に珍しい制度を何個も抱えている例は、筆者の知る限りで日本の他にありません(苦笑)。最後にこのような制度に何らかの意味があるのかを考えてみようと思います。あくまでも意味があるかないかですので、意味はあるけど、メリットとデメリットが釣り合わない…といったものも「意味がある」カテゴリに含めます。

とりあえず何らかの意味はあると言える制度

・衆院の小選挙区制
 負けた候補者への票が死票になる、小政党に不利など問題は指摘されますが、とりあえず政権の安定と二大政党制構築には一定の効果があると考えられています。(もっとも二大政党制はなかなか根付かないが)
・惨敗率による比例復活
 惨敗率の高い議員は低い議員よりも次の選挙での勝利確率が高いため、そうした議員に一定の特権を与え現職議員と遜色なく戦えるようにすることで議席の流動性を確保するという意味はありそうです。
・参院の非拘束名簿式
 候補者を選ぶのに極端な時間がかかるという大きなデメリットはありますが、比例制に多少一人一人の政治家への評価が加えられるというのは一応メリットではあるでしょう。

意味が見出し難い制度

・衆院比例のブロック制
 道州制的な地方分権のさきがけだったそうですが、結局道州制は導入されず、意味を失っています
・参院の都道府県を単位とした選挙区
 一票の格差への批判は「地方の重視」という反論があるとしても、現行制度ではその地方にいる少数派の意見は全く採用されないようになっています。(1人区だから)1人区制により政権の安定をという意見もありますが、それならなぜ都心部は複数人区なのか説明に窮します。どうしても地方に議席を多く配分したい場合は定員数を揃えたうえで地方の選挙区を増やすという方法があります。

 あくまでも筆者が意味を見いだせなかったということですので、もし何かこれらの制度の意味などがあればコメントで教えて下さい。


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