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やわらかな澤田流 治ろうとする力を伸ばすお灸(5)

第5回 : 丹田を重視していた澤田先生

木村辰典(きむら・たつのり)
木村鍼灸院院長、大阪行岡医療専門学校非常勤講師

 太極療法の指標でもある、丹田の充実について見ていきましょう。

 澤田先生が丹田を重視されるようになったのには、2つの理由があります。
 一つは、東洋医学では古来から、腎間の動気を触知するところで重要視されていたこと。
 もう一つは、ご自身が柔術の稽古を通して丹田の重要性を身体で分かっていたこと。

 患者さんの生命力をうかがう大切なところ、ということは頭では分かりますが、身体で分かるというのはなかなか大変なことです。

 そのようなものを診察することなどできるのでしょうか?

 澤田先生が尊崇していた『難経鉄鑑』の著者、広岡蘇仙は次のように述べています。

 「臍下を按ずると微かな動気が手に感じます。……臍下を按じて堅かったり痛んだりせず、充実して和やかに緩んでいる生気の満ち溢れた状態で、手に応えるように微かに動気をうち、あるようなないような感じのものは平人(健康人)です」
(伴 尚志先生訳『難経鉄鑑』第八難〔たにぐち書店〕より)
 きっと著者も、丹田の充実した感じを体得するまでに苦労したのでしょう。
 だから、自分がつかんだ表現しにくい感覚を何とか僕たちに伝えようとして言葉を丁寧に選んでくれています。

 そして、澤田流が目指す「丹田の充実」とは、まさにこのようなお腹であり、澤田先生は、患者の丹田を按じて、「どうも下腹に力がない」と言われることが多かったそうです。

 五臓兪の反応を診て、灸を据え、丹田の充実をうかがう。
 臨床に出て、症状に応じて、特効穴ばかり据えるよりは、毎回、少なくとも五臓兪だけは触れ、反応がある兪穴にだけ据え続けていくと、きっと得られるものがあると思います。

 そしてそれができるようになる頃には、その他の経穴の反応も診ることができるようになり、自然と取穴も広がり、澤田流でいわれる、基本穴や特効穴の意味がより深く理解できると考えています。

▶ 現代の臨床で、澤田流灸法で据えるための工夫

 さて、長々とお付き合いいただいた、心の広い先生や学生さんが、澤田流について興味を持ってもらえたとして、一つ大きな問題があります。

 誰が熱いお灸を受けてくれるのか、ということです。
 ちなみに当院で、透熱灸を受けてくれる患者さんは1、2割です。

 「お灸が熱いのは当たり前です」などと、澤田先生にかぶれたことなど言おうものなら、間違いなくお灸を据える患者さんがいなくなってしまうでしょう。

 効果があるといっても、熱さや灸痕はいやだという人が圧倒的に多いのが、日本の現状です。
では、残りの8割の患者さんや新しい患者さんにどのようにお灸を受けてもらえているのか、その工夫を紹介させていただきますが、これもまた『鍼灸真髄』(医道の日本社)から学んだ大切なことです。

 「灸は米粒大の三分の一位な艾を穴の上におき、点火して熱さの皮膚に通る頃を見はからいて指尖で圧して消す。子供には殆んど苦痛を感ぜぬ程度の刺激である。……」(p.18)

 澤田先生も、子どもにはお灸を受けやすいように、熱緩和をしていたのですね。
 文面から、八分~九分に近いところで、指先で圧し消していたと思われます。

 大切なのは熱緩和するだけではなく、熱が目的の経穴へ入り変化が出るのか、ということです。

 母指と次指のつまみ消しより、刺激量は強めとなりますが、熱の入り方がよかったので、澤田流の圧し消しを、大人の患者さんにも使っています。

 ぜひ、ご自身で試してほしいのですが、ただ八分目のところで消すのと、自分の指に熱をしっかりと感じながら、その熱を経穴に押し込むように消すのとでは、経穴の変化に断然差が出ます。

(つづく)

※本記事は、月刊『医道の日本』2020年7月号に掲載されたものです。

▶『やわらかな澤田流 治ろうとする力を伸ばすお灸』過去の記事
第1回 大好きなお灸、大好きな『鍼灸真髄』
第2回 自宅でお灸
第3回 繰り返し、丁寧に見続ける
第4回 太極療法は、本当にシンプル


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鍼灸の名人といわれた澤田健に師事した代田文誌がその日常治療の間に見聞したものを筆録。この書に記されている説は大方、鍼灸古典の説に基づくものであるが、同時に著者の独創的見解も多い。その思考や表現はきわめて素朴で簡単で、治療の実際に役立つ、臨床的真理の宝庫。


著者プロフィール:木村辰典(きむら・たつのり)
1976年生まれ。曾祖母が産婆と灸治療、母親と姉が鍼灸治療をしていた影響で鍼灸の世界に入る。2002年に大阪行岡医療専門学校鍼灸科に入学。2002年より母親の同級生である上田静生先生に師事。初対面のときに「鍼灸真髄を暗記するまで読みなさい」と言われ澤田流と出会う。2005年、大阪行岡医療専門学校鍼灸科卒業。あん摩マッサージ指圧師免許取得。その後、澤田流の基礎古典である『十四経発揮』の教えを受けつつ臨床にあたる。2010年より一元流鍼灸術ゼミにて伴尚志先生に師事。2012年より澤田流や灸術を学ぶための「お灸塾」を開講。
2007年4月より大阪行岡医療専門学校に勤務。現在は非常勤講師。2011年10月より同校の「お灸同好会」で指導。2009年より大阪ハイテクノロジー専門学校非常勤講師。2005年より母親が営む木村鍼灸院に勤務。2016年、自身の木村鍼灸院を開業。


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