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【JICA Volunteer’s Next Stage】ガーナで出会ったシアバターで起業 ― 0から作り上げた経験が生きる

☆本コーナーでは日本で活躍するJICA海外協力隊経験者のその後の進路や現在の仕事について紹介します

相川 香菜さん
●出身地 : 大阪府
●隊 次 : 2010年度1次隊
●任 国 : ガーナ
●職 種 : 村落開発普及員
●現在の職業 :(株)N yura konko(ン ユラ コンコ) 代表取締役


ポジティブなアフリカを発信
 相川香菜さんは2018年11月に起業し、日本人に向けてガーナのシアバターの販売を始めた。現在はシアバターのほかにオーガニックハーブティーも取り扱う。会社名はガーナ北部で使われるダバニ語で「自分を愛する」という意味の「ンユラコンコ」と付けた。相川さんは「シアバターはマッサージなどセルフケアをする時に使うため、自身を大事にできるようにという願いを込めた」と話す。
 シアバターは、相川さんがJICA海外協力隊(JOCV)として2年過ごしたガーナ北部のモデュア村の特産品だ。北部の中でも特定の地域でしか作られないとても貴重なものである。JOCVでは村落開発普及員(現・コミュニティ開発隊員)として、村落部の女性の収入と子どもの学力向上を目指す現地のNGOに所属した。そのときからシアバターを作る女性たちと関わるようになり、収入向上を目指し一緒に活動に励んだ。「帰国時に現地の女性たちからお土産でもらったシアバターを日本の友人らに配ると評判で、日本への販路拡大を考えるようになった」と起業のきっかけを語る。
 JOCVの任期を満了した後は、日本で翻訳や通訳関係の会社に勤めた。就職の決め手は、日本の企業で社会人経験を積みたかったことと、大学生時の留学経験やJOCVで培ってきた英語力を生かせることだった。2年ほど経ち業務にも慣れて余裕ができたころ、相川さんはビジネスについて改めて考えるようになる。読書のほか、若者の起業を支援する団体に登録したり、勤務後に起業セミナーに参加したりして知識を蓄えていった。相川さんは「勉強する中で、帰国当初にぼんやりと考えていたガーナと携わる仕事が自分のやりたいことだと気づいた」と話す。さらに「日本人にアフリカに住んでいたことを話すと、『すごいね』や『大変だったね』などと声を掛けられる。日本より大変なこともあったが、それだけではない。明るい人柄や人々とのつながり、おいしい食事など魅力があふれていて、毎日が宝さがしのようだった。自分がガーナのものを発信することで、ポジティブなアフリカを伝えたかった」と当時の思いを口にした。
 起業に向けて本腰を入れた相川さんにとって、準備期間はJOCVの経験とも通じるところがあり楽しいものだったという。ガーナでは日々、制限が多い中で頭を使って今ある環境でできることを考えて実行していった。たとえば、学校現場では教材不足という課題があったが、土から粘土を作るなど工夫し、子どもたちが楽しめる授業を作り上げた。この0から1を生み出す経験が、起業準備で社名やブランド、商品、全てを自分たちで作り上げていくことに生かされた。

兵庫県尼崎市で開かれた「あまがさき産業フェア2019」に出店した様子=写真はすべて相川さん 提供

流行り廃りのない息の長い商品へ
 起業後は理想通りにいかず歯がゆい経験もした。相川さんが当初考えていた事業形態は、ガーナでシアの実からシアバターを作り、包装した商品の完成形を日本で販売することだ。現地の女性たちのためにもガーナでの雇用を増やすことを目指していた。しかし、日本に輸入できる化粧品の基準はとても高く、容器に詰める作業や包装までを現地で行うことは厳しかった。日本で高価な機械を仕入れてガーナに送り、ガーナで最終形態を完成させることも考えたが、会社の規模を考慮するとそれも難しかった。そのため現在はシアバターを日本に仕入れてから検査や包装を行っている。販売はオンラインを中心に行っており、年に数回はイベントでの対面販売も行う。
 仕事のやりがいについて相川さんは「特にイベントでお客様の声を直接聞けること。商品の魅力が伝わっていることが実感できてうれしい」と話す。ンユラコンコは徐々にファンを増やし、現在は5期目に突入した。今後の目標にはまずは続けることを掲げる。「全ての商品の裏側には、一生懸命作ってくださる生産者がたくさんいる。もしも『流行でなくなったから』や『会社の経営状況が厳しいから』と取引を中止することになれば、一番悲しむのは生産者だ。流行り廃りではなく商品の本来の魅力を伝えて、息の長い取引を続けていく」と意気込む。日本ではチョコレートのイメージが強いガーナだが、いつかガーナと言えばシアバターと言われる日が来るのも近いかもしれない。

(編集部・吉田 実祝)

ガーナのビジネスパートナーの女性と商品のフレグランスサシェの加工をしている
JOCVの活動で、村の小学生たちに100マス計算を指導。最後には手作りの表彰状を授与した

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本記事は国際開発ジャーナル1月号に掲載されています。
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