両親が別離した後の子どものウエルビーイング
2017年5月、ターンブルが首相を務めるオーストラリア政府は、家族法制度が現代の家族のニーズを満たし、家庭内暴力や児童虐待に効果的に対処するために必要な改革を行うことを目的として、1976年に家族法が制定されて以来初めて、家族法制度に関する包括的な見直しを行うようオーストラリア法改正委員会(ALRC)に指示する意向を発表しました。
ALRCは2017年9月に政府から付託事項書を受け取ると、2018年5月に討議報告書IP48を公表し、一般からの意見を募りました。オーストラリア心理学会(APS)はそれに応じて、2018年5月に25の勧告を含む意見書を提出しています。
続いてALRCは各方面からの意見書をもとに提案をまとめ、2018年10月に討議論文DP86を公表し、一般からの意見を募りました。APSは2018年11月にDP86に対する回答を提出しました。
2019年3月、ALRCは60の勧告を最終報告書「将来に向けた家族法~家族法制度の調査~」(報告書135)に整理して検事総長に提出、同年4月に議会に提出されました。
2021年5月、オーストラリア政府は報告書135に対する回答を発表しました。
このような経緯の中、2018年7月にAPSが自らの見解を公表したのが、これから紹介する報告書です。
両親が別離した後の子どものウエルビーイング
~オーストラリア心理学会の見解~
オーストラリア心理学会公益事業チーム
2018年7月
オーストラリア心理学会(APS)の見解
今日の社会において、夫婦の別離は人間関係の有り触れた出来事の1つになっている。しかし、社会意識や家族模様が変化しているにも関わらず、依然として別離は個人を巻き込む主要な生活ストレスの代表的要因のままである。そこで、本学会は当該問題の重要性に鑑み、両親が別離した子どものウエルビーイングを促す因子に関し、本書で学会の見解を述べることにした。
本学会の見解
当学会が承認している事象は以下の通りである。
①大半の子どもは豊かなレジリエンスと順応性を有しており、親の別離を経験しても大多数の子どもが十分に適応可能である。
②両親の別離は広範囲で複雑な影響を親と子どもに与える。別離の影響は家庭生活のあらゆる面に及び、その後の適応過程は、本人、家族、そして私たちの社会における最重要事項である。
③両親の別離後も、子どもは暖かく、責任感に溢れ、協力的な養育を伴う「感情の安全基地」を求め続けている。特にストレスや家族構成の変化が発生する時期に、子どものウエルビーイングに資する家族の機能を促す必要がある。
④親と子どもの心理的、感情的、身体的脆弱性のリスクは、両親の別離前後に高くなる。
⑤家庭内暴力は子どもに有害な影響を与える。何よりも子どもの安全を優先しなくてはならない。プラスのアウトカムを得る可能性を求めるだけでなく、虐待を受けた親と子どもを、虐待を加えたパートナーから避難させ、一旦安全を回復すべきである。
⑥親と親による養育は、両親が別離した後の子どもの適応に大変重要な役割を担っている。親が別離後の移行を自ら管理できるよう早期から継続的な支援が必要である。
⑦安全の促進、協業による紛争解決のプロセス、そして協力的な共同養育co-parentig関係の早期確立において、社会科学と法律の専門家は重要な役割を演じている。
両親が別離中・別離した子どものウエルビーイングを促す条件を整える最善策に関し、多くの科学的根拠が示されている。
それらを踏まえ本学会は、
①親が自分たちのメンタルヘルスケアについて支援を受けることを推奨する。
②両親の別離後、子の発達に応じた適切なケアと養育の取決めを行うことを支持する。その取決めは親の能力に応じて調整し、暖かく、責任感に溢れ、協力的な関係を提供し、子どもの発達段階、望み、ニーズ、関心事、変化に対処する能力を考慮できるようにせねばならない。
③リスク因子、特に、高葛藤や情緒的暴力、言葉による暴力、身体的暴力、子どもに悪い影響を与えることが明らかな行為に子どもを曝さないよう注意を喚起する。
④両親の別離が子どもにとって利益になるケースもあることを注意喚起する。例えば、情緒的暴力、言葉による暴力、身体的暴力を受けている状況から逃れた場合、子どものウエルビーイングは改善する。
⑤多くの子どもが両親の別離経験を比較的穏やかに一時的な適応反応で処理できることを認める。
⑥養育の取決めは、各親が離婚後も継続して子どもに対する共同責任shared responsibilityを果たすことを尊重した内容、一方が別居していようとも安全に養育を実践できるなら、子どもが両方の親と意義ある人間関係を維持できる内容にすることを支持する。
⑦育児の取決めは、できる限り子どもが普段通り生活できる内容にすることを支持する。
⑧一般的に両親が共同養育shared parentingの取決めをした子どもは、別の取決めで育つ子どもよりプラスのアウトカムを得る傾向があることを認める。その理由は、多くの共同養育家庭に共通している、より協力的な親同士の関係、柔軟な対応、継続する父親の関わり合いといった特性にあると推測される。
⑨裁判所は慎重に検討を行った上で、両方の親に子どもとの均等な養育時間を命令するのか、「実体が伴った意味のある」養育時間を命令するのか判断することを推奨する。両親が均等な時間の養育を実践できる家庭の数は限られることが科学的に裏付けられている。子どものウエルビーイングは、それぞれの親と過ごした時間の量よりも、それぞれの親との親子関係の質が強く関連していることを注意喚起する。
⑩共有時間shared-timeの取り決めが子どもに与える有益度には個人差があることを認める。従って、各ケースで、子どもの安全性、ニーズ、希望を考慮しながら、有意義な関係の構築を支援するための最適な方法を検討する必要がある。
⑪子どものニーズ変化に沿って養育時間の取決めを修正できるよう、両方の親が準備を整えておくことを推奨する。例えば、乳幼児は主な世話人から長時間離れることに適応し難く、思春期の子どもは友だちとの関係を維持する必要がある。
⑫転校、新たなパートナーの出現、混合家族の形成のような更なる移行の時期と性質に関し、子どものニーズに注意を払うことを推奨する。新しい移行は激しいストレスと動揺を子どもに与えることが知られているが、特に別離当初から間を置かずに移行が起こる場合に顕著である。
⑬別離している両方の親は、一方の親が子どもに対し継続して共同責任shared responsibilityを果たすことを尊重して養育を実践することを推奨する。安全が確保できないケースを除き、それぞれの親は一方の親が子どもとの強固な関係を維持(或いは構築)すること、一方の親と協力関係を維持(或いは構築)するよう努めること、一方の親の非難、中傷を避けること。
⑭養育紛争を解決し、子どもの最善の利益となる解決法を創造するには、訴訟よりメディエーション(子どもに焦点を当てた或いは子どもの件を含めたメディエーションを包含する)のような協調的紛争解決プロセを推奨する(但し、暴力歴がある場合、この手続きが適さない、或いは特別な支援を必要となることもある)。
⑮必要に応じて、子どもと親が別離に適応できるよう支援するサービスの利用を、親に対し推奨する。
⑯葛藤を改善し協力的な養育を促進する早期介入・予防プログラムを支援する。
⑰一次医療提供者(及びその他の人々)や法定代理人に対し、別離後の親と子における主要なリスク要因に関する教育、および適切な紹介経路に関する教育を促進する。
今後の研究に関する勧告
心理学者は、現在の知見の不足を埋めることで多大な貢献をすることができる。そのような研究は、多くの先行研究の限界を回避するために、別離を経験する前、中、後の子どもと家族の状況を考慮に入れることが重要である。更なる研究が必要な分野は以下の通り。
①子どもと青年の発達を最適化する方法を更に知るための別離後の子どものウエルビーイングに関する研究(健康問題に焦点を当てた過去の研究の殆どと整合性をとるため)
②異なる民族、人種、或いは文化的背景から見た、子どもに与える両親の別離の影響に関する文化的に適切な研究
③同性婚の家族のような非伝統的な家族形態の観点から見た離婚後の子どものウエルビーイングに関する研究
④家庭内の葛藤と暴力の観点から見た離婚後の子どものウエルビーイングに関する研究
⑤別離に対処する子どもと親を支援する介入プログラムの分野における更なる研究と発展
これには、多様な民族的背景を有する依頼者など、種々の依頼者グループを対象としたプログラムのテストが含まれる。
⑥訴訟を用いた家庭の子どもとメディエーションを用いた家庭の子どものウエルビーイングに関する差異の研究
問題の背景
今日の社会において別離は有り触れた人間関係の一事象になっている。ここ数年で結婚・別離・離婚に対するオーストラリア人のコミュニティ態度が著しく変化している。結婚はもはや成人カップルが生活を共にする上で唯一正当な形態と見做されておらず、同棲が1つの代替手段として受け入れられて来ている(Evans, 2015)。婚姻率は低下し(Austrarian Bureau of Statistics[ABS], 2014)、同棲を選ぶカップル数の増加により横這いになっている。結婚を(死別を除き)決して終わらすべきでない生涯の約束と考えるオーストラリア人の割合は、1995年の78%(de Vaus, 1997)から2011年の35%(Baxter, 2016)へ劇的に減少し、離婚が一層容認されるのに伴い横這いになっている(DeRose, 2011)。離婚の訴訟手続きが殆ど負担要らずになった1975年の法改正以降、離婚率は著しく増加し、その結果、今ではオーストラリアにおける結婚の3分の1が離婚で終わると見込まれている。
多様な家族形態に対する考えも変化した。オーストラリア人には、出産の前提条件は安定して安全な人間関係の確立であるという、根強い社会規範が存在し(Arunachalam & Heard, 2015)、出産前に結婚するのが依然として最も一般的である(Qu & Weston, 2013)。しかし、オーストラリアにおいて2018年1月まで法律上許されていなかった同性のカップルを含め、多くのカップルが結婚せずに子どもを産むことを選んでいる。殆どのオーストラリア人が子どもを持つ同棲カップル(79%)と一人親家庭(74%)を家族として受け止めている。
これらの大きな変化の結果として、オーストラリア人の子どもの約40%が、伝統的な「生物学上の母親、父親、そして子ども」モデルと違う家族形態で暮らしていると見られる(Baxter, 2016a)。多くの子どもが、両親が新しい人間関係を形成するのに伴い、一回は家族の移行を経験する。
コミュニティ態度と家族模様の変化に関わらず、別離は依然として個人が巻き込まれる主要な生活ストレッサーの代表となっている。この人生の転機を関係者全員、特に子どもにとってストレスのないものにするためには、どのようにして家族に最善の支援を与えれば良いのか。
子どものウエルビーイングに及ぼす親の別離の影響は、取り分け難しい研究テーマである。多くの過去の研究における欠点がこの分野における論争の一因になっている。例えば、初期の研究の大半は、選抜効果に悩まされていた。つまり、両親が別離した家庭と両親が一緒に居る家庭とでは、子どものアウトカムに作用する様々な成育環境の特性が異なる傾向にある。
より有益な研究は、子どものウエルビーイングを予測する因子を観察する研究である。一般に、子どものウエルビーイングを予測する因子は、別離した家庭の子どもかどうかに関らず同一である。子どものアウトカムに関する最も強力で唯一つの予測因子は、家庭内暴力と両親の葛藤である。家庭内暴力と両親の葛藤は、子育てと親のメンタルヘルスに衝撃を与え、子どものウエルビーイングに間接的にネガティブな影響を与えるだけでなく、直接的にネガティブな影響を与える。一方、両親が共同で作業し、会話し、そして効率的に問題解決すれば、子どものウエルビーイングに有益な効果をもたらす。
養育の質は子のウエルビーイングに関する別の主要な予測因子である。子どもは、敏速に反応し、暖かで、首尾一貫した、厳然たる養育から利益を得ている。全ての親にとっての課題は、自分自身の問題を取り扱っている間、適切な養育の応答性を維持することである。現在のオーストラリアの家族法は(子どもに関する主要な意思決定をするに際して)共同親責任shared parental responsibilityを奨励しており、可能で適切な場合には共同養育shared parenting(子どもが各々の親と実のある時間を過ごすことを意味する)を奨励している。現在、オーストラリアの子どもの約20%が共同養育shared parentingを経験し、その数は子どもの年齢によって異なる。そして、これらの家庭は多くの点(例えば、両親の地理的な近接性、共働き、高学歴の両親、協力的な関係、別離前に子どもの世話に関わってきた父親など)で共同養育shared parentingをしていない家庭とは異なる。子どものウエルビーイングの観点からは、これらの根本的な要因の影響と共同養育shared parentingの効果とを分離するのは困難である。しかし、幾つかの文献は共同養育shared parentingにより子どもが利益を得ることを示唆している。暴力のリスクがある場合には、共同養育shared parentingは禁忌とされている。
子どもは両親が別れる前と後では異なる発達経路を辿る。殆どの子どもが一時的に複数の変化に直面し、別れの直前と直後の数ヶ月間に、大きな悲しみや心配、時には恐怖などの心理的苦痛を経験する(Laumann-Billings & Emery, 2000)。多くの子どもが押しなべてこれらの反応から回復するが、一部の子どもは数カ月にわたり症状が継続し、僅かな子どもが、相互作用する脆弱性の影響を青年期と成人早期まで持ち越すことになる(Amato, 2001)。別離の規範的なアウトカムはレジリエンスであり脆弱性ではないと言えるかもしれない(Amato 2010; Amato & Anthony, 2014)。
ここまで、本学会が委託した広範囲に及ぶ文献のレビュー(Sanson & McInstosh, 2018)に基づき、親の離婚を経験している子どもの適応の良し悪しを一変させる因子について本学会の見解を述べた。この冊子は別離と離婚という状況下の養育に関する最新の研究を要約したものである。このような人生の大きな変化の最中や後に、プラスとなる養育と子どものウエルビーイングを支援する可能性のあるサービス、政策、そして地域密着型の介入について、その幾つかを考察している。
鍵となる研究結果
両親の別離と子どものウエルビーイングとの関連性
両親の別離は、概して、親の昂った感情とストレスを観察したり、離婚に伴う親としての感受性が減退したり、経済的資源の減少を含む一定範囲の社会経済的・環境的が変化したり、父母の家を行き来することを学んだり、転校や引っ越し、別居親との交流の減少、義理の親と義理の兄弟姉妹ができることを含む家族の再形成といった多くの課題に子どもを曝す。
従って、「両親が揃っている」家庭の子どもより、両親が別離した家庭の子どもの方が、感情的・社会的適応問題の発生率の高さと関連する傾向にあるのは驚くに値しない。しかしながら、多くの研究者がこの分野で因果関係の結論を導くことはかなりの困難であることを指摘している(例えば、Amato, 2010; McLanahan, Tach, & Schneider, 2013)。離婚前の子どもの生活環境を考慮せずに離婚の結果に焦点を当てた研究は、子どものアウトカムに対する離婚の影響を誇張するだけでなく、離婚が子どものウエルビーイングの唯一の、或いは重要な決定要因であるという誤解を招く恐れがある(Strohschein, 2012)。
より有益なアプローチは、子どものウエルビーイングを支援する方法について親やその他の人々に助言を与えるために、このような違いを生み出す要因を調べることである。そして、家庭の変遷を経験している子どもを支援するための介入の対象となりうる修正可能な要因を特定することである。
別離家庭における子どものウエルビーイングを予測する主要因
一般的に、子どものウエルビーイングを予測している要因は、別離家庭の子どもでも両親が揃っている家庭の子どもでも同じである。
養育の質
養育の質は子どものウエルビーイングにおける主要な予測因子である。母親と父親による別離後の養育は、概して別離前の養育の質を反映する(Amato & Booth, 1996; Burns & Dunlop, 1988)。親にとっての課題は、別離に関する自分自身の問題に対処しながら適切な子育の応答性を維持することである。
保護因子には以下の内容が含まれる。
①別離前と別離後の両方で、母性感受性と養育一貫性が高いこと(Karre & Mounts, 2012; Lucas,Nicholson,Bircan & Erbas, 2013; Weaver & Schofield, 2015)
②温かみがあり、協力的で、コミュニケーションを大切にし、子どものニーズに応え、適切な制限を設け、毅然とした公平で一貫性のある躾を用い、自主性を尊重しつつ、行動を見守ってくれる親であること(Cyr etal., 2013; Woichik,Tein,and Sandler, 2000)
親のメンタルヘルス
養育の質は、親がメンタルヘルスの問題を抱えているなら、もちろん影響を受ける可能性がある。特に社会面、対人関係面、経済面のストレッサーと関連するなら尚更である。このような問題は、以前から存在していたものであれ、別離過程のストレスの結果によるものであれ、別離した親に関してはさほど珍しいことではなく、しかし、メンタルヘルスの問題や疾患を抱えているからといって、必ずしも、その親が養育できない、或いは、うまく養育できないというわけではない。
①メンタルヘルス問題は、別離や離婚した人の方が、健全な関係にある人よりも、2倍多く報告されている(有病率は別離の場合は20%、離婚では17~19%、健全な関係にある場合は8~10%)(McIntosh & Ralfs, 2012)。
②扶養している子どもを持つ離婚または別離した親は、既婚や事実婚の親と比べ、薬物乱用の既往歴を報告した割合が同程度であるにも関わらず、過去12か月に違法薬物を使った可能性が2倍高い (National Drug Strategy Survey Data, 2010)。
③近年の別離(3か月以内)も、特に男性において、希死念慮の危険因子であることがわかっている(Kolves et al, 2010)。
④親のメンタルヘルスの問題と子育ての質の低下が、行動問題を含む家族分離と子どものアウトカムとの関係の有意な差異を説明している(Cyr, Di Stefano, & Desjardins, 2013; Weaver & Schofield, 2015) 。
両親と子どもとの関係
強固な親子関係は、子どもがどのような家族構成で育ったとしても、子どもや青年の健全な適応にとって最も重要な予測因子の1つであることが知られている (例えば、Ackard, Neumark-Sztainer, Story, & Perry, 2006; Levin & Currie, 2010)。
①両方の親と強固で緊密な関係は、高い自尊心、少ない非行行為、青年期の僅かな抑うつ症状など、別離後のアウトカムと密接に関連している(Booth, Schott & King, 2010)。
②別居親との良好な関係は協力的な共同養育co-parenting、両親間の十分なコミュニケーションと少ない確執によって促進される(例えば、Amato et al., 2011)。
③別離の経験は、両親の揃った家庭に比して、親と青年の関係におけるより高い葛藤に関連している可能性がある(Ruschena et al., 2005)。
④この葛藤は、青年期の薬物使用のように、青年期の適応により悪い形で反映され得る(Kristjansson, Sigfusdottir, & Helgason, 2009)、そして、同性の親に強く愛着を抱いていた青年が別離を機にこの親から引き離された場合、非行行為を増加させ得る(Videon, 2002)。
⑤男女を問わず、有能な別居親から疎外された子どもは、長期的な適応が低下するリスクが高い(Filder, Bala, & Saini, 2012; Kelly & Johnston, 2001)。片親疎外1は、一方の親の影響を受けたり、子ども自身が別離に対する責任を負うことにより、子どもが一方の親を理不尽に否定することを指す。 (Kelly & Johnston, 2001)。
⑥子どもと別居する父親と間で良い関係を築く重要な予測因子は、両親間の高いコミュニケーションと少ない不和で特徴付けられる協力的な共同養育co-parentingである(例えば、Amato et al., 2011)。
[脚注1]片親疎外は親子疎遠と区別されている。親子疎遠においては、子どもが親との接触を拒否することは、合理的かつ理性的であると考えられる。しかしながら、この2つの用語の適用は文脈に依存しており、解釈に左右される。
別離前と別離後における両親間葛藤と家庭内暴力
子どもにマイナスのアウトカムとなる最も強力で唯一の予測因子は、両親間葛藤と家庭内暴力である。これらは子育てや親のメンタルヘルスへの影響を介して間接的に影響を与えるだけでなく、直接的に子どものウエルビーイングに影響を与える(Amato, 2005; Baxter, Weston, & Qu, 2011; Kristjansson et al., 2009; Lucas et al., 2013; Sullivan, 2008)。
両親間葛藤と家庭内暴力は両親の別離の研究でしばしば混同される。しかし、この2つを区別して考えることは重要である。葛藤はどんな人間関係にもある正常な要素の1つであり、特に危機的な状況下では葛藤は付き物である。双方の親が一因になって、互いに影響しあうものである。一方、家庭内暴力は典型的な一方通行のものであり、当事者間の力の不均衡を反映している。そこでは一方の当事者が、配偶者の人格的自律と安全、そして直接的か間接的に子どもの安全を脅かすことで、恐怖を与え、自分に従うことを求めるのである。
両親間葛藤
この章では両親間葛藤の影響に焦点を当てる(研究文献をレビューする際、研究の実施方法によっては、高葛藤の事例を家庭内暴力から切り離すことができない場合があることに留意願いたい)。
両親間葛藤は以下に述べる親同士の行動の一部若しくは全てによって特徴づけられる。激しい怒りと不信感、暴言、そして子どもの世話に関する意思疎通や共同作業が困難な状況が頻繁化と深刻化(McIntosh, 2003)。
元の配偶者との間で継続する葛藤は親子関係に悪影響を与え、どちらか一方の親が子どの優先事項に集中することが困難になるため、効果的な養育が損なわれる(Kelly & Emery, 2003; Pedro-Carroll, 2011)。その結果、子どもの情緒的問題と問題行動を次々と引き起こすことになる(Pedro-Carroll, 2011)。
研究から次のことが明らかになっている。
①別離家庭の子どもは、別離前も別離後も、離婚していない家庭の子どもよりも、両親の間の敵意あるコミュニケーションのレベルが高いと報告している(Shimkowski et ar, 2012)。
②多くの研究が夫婦間や元配偶者間の破壊的なコミュニケーションが子どものウエルビーイングに及ぼす直接的・間接的な影響を報告している(Cummings & Davies, 2002; Papp et al., 2002, 2009; Schrodt & Afifi, 2007)。特に、子どもを「三角関係」にする形態が多い。
③お互いを誹謗中傷し続けている両親を持つ子どもは、怒りの応酬に子どもを巻き込まない高葛藤の両親を持つ子どもに比べて、うつ病や不安を経験する可能性が高くなる(Buchanan net al, 1991)。
④また、両親間の高葛藤を経験した子どもは、若年成人期に、特に誹謗中傷する親との間で、より距離を置いた親子関係に至る可能性が高くなる(Rowen & Emery, 2014)。
⑤両親間で続く否定的で敵対的な行動と、幼少期の不安、抑うつ、破壊的行動のパターンとの間には明確な関連性があり(Amato, 2005; Baker & Brassard; 2013; Baxter, Weston, & Qu, 2011; Grych, 2005; Kristjansson et al., 2009; Lucas et al. 2013; Sullivan, 2008);、青年期後期における抑うつ、自殺念慮、マリファナ使用との間にも関連性がある(Rogers et al., 2011)。
⑥別離家庭の子どもが両親の揃った家庭の子どもに比べてメンタルヘルスの問題を抱えるリスクが2倍になる原因は、親同士の葛藤、母親と父親のメンタルヘルス、社会経済的要因にあることがわかった。(Lucas et al., 2013)。
⑦また、元の配偶者との対立が続く困難な状況にあっても、多くの親は子どものニーズを最優先にし、効果的な子育てを学ぶ方法を見つけていることも重要である(Pedro-Carroll, 2011)。
家庭内暴力
家庭内暴力は単に葛藤の頻度が増加したものではない。それは家族の一員を威圧したり、支配したり、家族に恐怖を与える、人による暴力、脅迫、その他行為として定義付けられている。身体的暴力だけでなく、情緒的虐待、言葉の暴力、性的虐待、精神的暴力、及び経済的虐待といった行為も含んでいる。また、家庭内暴力には子どもともう一方の親との関係を意図的に妨害するような行為も含まれる。
親がパートナーや一方の親に暴力を振るうことは、対立の激しい両親間葛藤よりも極めて強い影響を子どもの適応に与える(Bancroft & Silverman, 2004; Fantuzzo & Mohr, 1999; Graham-Bermann & Edieson, 2001; Holtzworth-Munroe, Smutzler, & Sandin, 1997; Jaffe, Baker, & Cunningham, 2004; McNeal & Amato, 1998; Wolak & Finkelhor, 1998))。暴力を振るうことは、加害者と被害者の両方の養育能力に影響を与える。
暴力に曝されると増加を示す問題行動、認知問題、そして情緒的問題には、攻撃性、素行障害、非行、不登校、落第、憤怒、抑うつ、不安、そして低い自尊心などがある。対人関係の問題としては、貧弱な社交スキル、仲間からの拒絶、権威者や親との問題、そして他人に関する低い共感力などが挙げられる(McIntosh & Ralfs, 2012)。
これまでの研究では、親の別離が子どもに与える悪影響に焦点が当てられてきたが、親の別離が有益な効果をもたらす場合もある。慢性的な不和や暴力のある家庭環境から子どもを退避させる親の別離は、ウエルビーイングの低下ではなく改善につながることが、繰り返し研究で示されている(Amato, 2000; Booth & Amato, 2001; Kitzmann & Emery, 1994; Strohschein, 2005)。
しかし、家庭内暴力の影響は、両親間の関係が終わった後でさえ継続し続けることがある。また家庭内暴力は別離の時点で更に悪化することもある。身体的暴力のような違った形の暴力にエスカレートする可能性がある。支配的なパートナーは、支配を取り戻そう、或いは維持しようとして、或いはパートナーを支配できなくなっているためにパートナーを罰するために、あらゆる手段を講じることがある。
別離後の父母間の協力とコミュニケーション
共同養育co-parentingは離れて暮らす両親間における養育の役割と仕事を分担shareすることを指す。一方、平行養育parallel parentingは子どもが両方の親と相当量の交流を持つものの、親自身は殆どコミュニケーションをとらない状況を指す。
葛藤を避けるためにビジネスライクな関係の中で同居親と別居親が一緒になって養育する、世帯を横断して首尾一貫した生活習慣を確立し、リソース、権利と義務を共有し、子どもの利益のためにお互いが一方の養育の実践を支援する、協力的な共同養育co-parentingが理想とされている。
①別離した親のうち、協力的な事実上の共同養育的なco-parental関係を築いているのは、たった25~30%に過ぎない(Kelly & Emery, 2003; McIntosh, Wells, et.al., 2008)。
②別離以前に家庭内暴力があった家庭はなかった家庭に比べて共同養育co-parentingの取決めをする可能性は低い(Cashmore et al., 2013)。しかし、家庭内暴力が以前あったからといって、必ずしも別離後の両親の協力的な関係を妨げるものではない(Kaspiew et al., 2009)。
③Amatoら(2011)の研究によると、協力的な共同養育co-parentingで育った子どもは、平行養育parallel parentingや単独養育single parentingで育った子どもと比較して、青年期における行動問題の数が最も少なく、若年成人期には父親と最も緊密な関係を築いていたことが示されている(Amato et al., 2011)。
④しかし、この研究では、協力的な共同養育で育った青年が、自尊心、学校成績、学校好き、薬物使用、そして人生満足度に関し、単独養育で育った青年に比べて優れていなかったことも示していた(Amato et al., 2011)。
⑤若年成人と同様に、協力的な共同養育co-parentingで育てられた子どもは、薬物使用、早期の性体験、性的パートナーの数、10代での同棲や結婚、母親との緊密度など、様々な要因において、単独養育single parentingで育てられた子どもと差異はなかった(Amato et al., 2011)。
別離した両親の半分以上が、低葛藤と少ないコミュニケーション、感情開放で特徴付けられる平行養育parallel parentingの形態をとっている(Kelly and Emery, 2003)。このような平行養育parallel parentingで育った子どもは、両親が愛情を注いだ適切なケアをしていれば上手くやっていける(Kelly & Emery, 2003)。しかし、子どもの主観的な証言には、両親間のより活発なコミュニケーションや友情を望む声がしばしば見られる(Sadowski & McIntosh, 2015; Smart et al., 2004)。
親が脅威を減らすために冷静で合理的な紛争解決を積極的に試みることで、子どもの情緒的安全性が高まり、自分を責める傾向が減少することがわかっている(Hetherington & Stanley-Hagan, 1999; Schrodt & Ann, 2007)。Rina and McHale(2014)は見出した。意思決定を共有することで、少年の危険な行動の増加を防ぐことができたとしている。
別離後の経済状態の変化
別離と離婚は概して、新居探し、転校と転職、そして、経済的負担を増す交通費など、経済的ストレスを伴い、親と子どものウエルビーイングにも影響を及ぼす(Smith, 2004)。別離による経済的な影響は男女で異なり、女性やひとり親家庭は通常激しい経済的不利益を離婚後に被っている(Austen, 2004; Cairney, Boyle, Offord & Racine, 2003; Grall, 2007; Smith, 2004; Smyth & Weston, 200)。一般的に、親が物質的な幸福を保障できるなら、子どもは離婚により上手く対処することができる (Mandemakers & Kaimijn, 2014)。
①離婚前後の経済状態が子どものアウトカムを左右し、不幸な生い立ちや世帯収入の激減が離婚の悪影響を増幅する(Monden & Kalmijnk 2010; Stroschein, 2014; Sun & Li, 2002, 2009)。
②離婚と子どもの問題との関連は離婚前の家庭収入によって和らげられ、別離前に高収入の家庭で育った子どもは、収入が少ない家庭で育った子どもと比べ、内在化問題と外在化問題2が殆どなく(Weaver & Schofield, 2015)、学校への関わりも良好である(Havermans, Botterman & Matthijs, 2014)。
③収入が減少しても、社会的支援が得られ、前向きな新しい人間関係が築けていれば、発達曲線に与える影響は僅かになる(Amato & Anthony, 2014)。
④世帯収入の低さと、離婚後の家庭環境がより混沌として支援や刺激が少ないことが、離婚後の子どもの内向的行動や外向的行動を高めるリスク因子となる一方で、より高い母性感受性と子どもの高い知性は保護因子となる(Weaver & Schofield, 2015)。
これらの知見を総合すると、収入は重要であるが、世帯収入の減少以上に離婚後の子どもの適応に影響を与える要因が存在することが示唆される(Lansford, 2009)。経済的苦難は別離に関連する多くの相互接続しているストレッサーの1つに過ぎない。
[脚注2]内在化問題(恐怖心、社会的引き籠り、身体的愁訴のような内側に向けられた否定的な行動)と外在化問題(身体的攻撃、規則破り、不正行為、窃盗、散財を含む直接外側に向く問題行動)がある。
子どもの時間と両親との交流
オーストラリア家族法は共同養育shared parenting(単に子どもに対する共同責任shared responsibilityを包含するだけでなく、大雑把には子どもの世話に費やす時間を平等にすることを含む)を奨励している。しかし、実際の養育の取決めは多種多様であり、時代とともに変化している。母親による養育が引き続き主流である。共同子育てshared careを経験している子どもは、約5人に1人の僅かな数である。このような時間共有型shared-timeの家庭は、多数いる別離した親集団の典型ではない(Cancian et al., 2014; Pruett & Barker, 2009)。更に、このような家庭は十分な資源と機能を備えている可能性が高く、共働き、親が高学歴で、高収入、子どもは学齢期、就業時間の柔軟性が高い、お互いの住居が近い、協力的な関係、離別前から子どもの養育に関わっていた父親などの特徴を有している(Kaspiew et al. 2009; Smyth, 2004)。
時間共有型養育shared-time parentingの子どもについては、多様な知見が存在する。この研究は定義、研究デザイン、情報源、サンプリング戦略の違いに悩まされていて(Smyth, McIntosh, Emery and Howarth, 2016)、重要な知見を特定することが困難になっている。例えば、Baudeら(2016)は、3歳から18歳の子どもを対象に、身体的共同監護joint physical custodyと単独監護sole custodyにおける子どもの適応について、主に中流階級のサンプルを基にした横断的な19の研究のメタ分析を実施した。その結果、行動面や社会的適応の面では単独監護sole custodyよりも共同監護joint custodyの方が支持されることが分かったが、情緒的適応や一般的適応の面では支持されなかった。レビューした研究の大半が横断研究だったため、因果関係を示す結論を導くことはできなかった。著者らはそれらの結果は慎重に解釈する必要があり、親子関係の質は別離後の子どもの適応に関する予測因子として、時間の分配より信頼性が高い可能性があると注意を促している。同様に、Bergstromら(2017)のスウェーデンの保育園児を対象とした研究では、保育園の先生が記入した評価尺度を用いた評価から、身体的共同監護joint physical custodyの取決めに従う園児は単独監護sole custodyの園児より、心理的症状との関連がかなり少ないと報告されている。しかし、別離前の潜在的な差異を考慮するために縦断研究が必要であると述べている。
また、Bauserman(2002)による別のメタ分析でも、単独監護sole custodyと比較するための、共同監護joint custodyを取り決めた家庭間の既存の差異に関するデータがないため限界があった。著者らは子どもの様々な尺度において、単独監護sole custodyと比較して共同監護joint custody(各親と一緒に過ごす時間が25%以上と定義した)は、ほんの僅かとはいえ、効果量0.23を示したと報告した。別離時点の葛藤は、共同監護joint custodyの方が単独監護sole custodyより低かった(効果量0.33)。葛藤が少なく、そのため比較的に適応が良いカップルが共同監護joint custodyを自己選択していると筆者は指摘している。Bausermanは、共同監護joint custody下にある子どもは全体的に利益を享受することを見出したにも関わらず、今回の調査結果は共同監護joint custodyと子どもの適応向上とのる因果関係を示しておらず、調査結果自体が全ての状況において単独監護sole custodyより共同監護joint custodyの方が望ましいことを裏付けるものではないと注意を喚起している。
養育の研究におけるこのような方法論的問題は、子どものウエルビーイングに共有時間shared-timeの取決めが与える影響に関する有意義な結論を引き出す能力を制限し続けている。子どものアウトカムを調査する際に、このような広範囲の家庭と生い立ちの要因による影響と共有時間shared timeの取決めの影響とを区別することは依然として困難である。例えば、共有時間shared-timeの取決めをしている親は自分の子どもが上手くやっており、自分と子どもが取決めを気に入っていることを報告する傾向がある(例えば、Bjarnason et al., 2012; Cashmore et al., 2010)が、これはこうした家族の以前から存在する特性のためかもしれない(Bauserman, 2012)。にも拘わらず、Nielsen(2018)による多様な60件の研究の最近のレビューでは、横断的分析に限定されていて、それ故に子どもたちの中に以前から存在する差異は考慮されてはいなかったが、親の収入、葛藤、親子関係を統制した上で、「身体的共同監護joint physical custody」は「単独身体的監護single physical custody」よりもプラスとなる子どものアウトカムと関連する傾向があることが分かった(例えば、Fransson et al., 2016; Turunen et al., 2017)。
更に、2000年以降の別離後の共有時間shared-timeの取決めに関する多くの査読されたアウトカム研究の詳細なレビューに基づけば、レビューした研究の概念、計測そしてサンプリングの問題に細心の注意を払いながら、Smythら(2016)は持続的な親の関与と継続的な経済的支援の効果が大きいことから、共有時間shared-timeの取り決めには多くの利益があると結論づけている。具体的には、次のように報告している。
学齢期と青年期の子どもにとって時間共有型養育shared-time parentingは次のような利益があると報告されている。
①父親と子どもの報告によれば、より協力的なファザーリング(Bastaits, Ponnet, & Mortelmans, 2012)
②子どもの身体的健康の向上(Melli & Brown, 2008)
③青年期における内在化問題の減少(Breivik & Olweus, 2006)
④ある研究では多動性の割合が低下(Neoh & Mellor, 2010)
しかし、別の研究(McIntosh et al., 2010)では、厳格な共有時間shared timeの取決めをしている子ども、特に少年は多動性が悪化
⑤外在化問題が低減(Bergstrom et al 2017)
青年期後期の子どもについては、以下の利益が報告された。
①強固な親子関係(両親が揃った家庭と同程度、時にはそれ以上)(BergstrÖm et al., 2013; Bjarnson & Aronarsson, 2011; Lodge & Alexander, 2010)。
②15歳の青年は、主に一人の親と共に生活している青年と比較して、個人の健康とウエルビーイングに関する11個の観点で生活の質が高く、そしてまた、共同養育shared parentingをしている12歳と比較しても高く、年齢による効果があることを示している(BergstrÖm et al., 2013)。
マイナス効果や効果がないといった調査報告もあった。
①Neoh and Mellor(2010)は、自己報告と親の報告によれば、オーストラリアの子どもの様々な適応指標は、共同養育shared parentingのケースと一方の親と居住し別居親と時々交流を持つケースとで、殆ど差異がないことを見出した。
②Vanassche, Sodermans, Matthijs, and Swicegood(2013)は、ベルギーでは身体的共同監護joint physical custodyで育った青年のウエルビーイングは、全体的に、身体的共同監護とは別の取決めで育った子どもと同程度であるが、親同士が高葛藤の状況では、この傾向は見られないことを見出した。
③共同養育shared-parentingの家庭では、親(特に父親)が子どもよりその状況に満足していた(McIntosh et al., 2010; Sadowski & Mcintosh, 2015; Smart, 2004)。
④共有時間shared-timeの取決めをしている子どもと青年は、片親が主に世話をしている子どもや片親とだけ居住している子どもよりストレスを感じていた(McIntosh, Smyth, Wells & Long, 2010; Neoh & Mellor, 2010)。
⑤別居親と一緒に過ごす時間が短い子どもと比べ、共有時間の取決めをしている子どもや青少年は、自分の生活形態を変えたいと思う傾向が強かった(Lodge & Alexander, 2010; McIntosh et al., 2010)。
しかしながら、様々な年齢の(幼少期から青年期後半の広い範囲にわたる)子どもを対象とした質の高い研究の大多数は、養育の取決めパターンが異なる子どもの間で、子どものウエルビーイングにおける顕著な差異を殆ど見出していない。
乳幼児に関しては共同養育shared parentingに関する研究は殆ど存在せず、Pruett, McIntosh and Kelly(2014)は、このような僅かな文献はそれ自体がまだ揺籃期にあり、利用が限定されると述べている。入手可能な研究では、以下のように示唆している。
①乳幼児は長時間同居親から離れると精神的に脆くなる可能性があるが、未就学児なら害はない(McIntosh, Smyth & Klelaher, 2013)。
②高頻度の宿泊の取決め(2歳未満の子どもで週1回以上、2~3歳の子どもで週2回以上と定義)は、低頻度の宿泊の取決めよりもアタッチメントの不安と関連する可能性がある(Tornello et al., 2013)。
全体的に見て、共同養育shared parentingが子どもにとって有益であるかどうかは、支援や資源、両親がいかに上手くやっていけるか、子どもの発達上のニーズや気質に対応した養育の取決めであるかどうかなどの要素が重要であると考えられる。(Emery 2006; Neoh & Mellor, 2010; Smyth et al., 2016)。
①学齢期の子どもの場合、養育の取決めのアウトカムは、時間の配分そのものよりも、取決めを遂行する親の態度に強く大きく依存している(Neoh & Mellor, 2010; Sadowski & McIntosh,2015; Sodermans & Matthijis, 2014)。
②両親の葛藤、子どもと両親との関係の質、養育家庭における新しいパートナーの存在、そして年齢や性別などの子どもの個人的な特性の相互作用が、子どものアウトカムの有意な差異を説明している(Sandler, Wheeler, & Braver, 2013; Sodermans & Matthijs, 2014; Vanasscdhe, Sodermans, Matthhijs, & Swicegood, 2013)。
子ども要因
人と環境の相互作用は、それがどんな家庭における子どもにとって重要であるように、両親の別離に伴うメンタルヘルス問題やウエルビーイングの発達を理解する上で重要である。
子どもの気質と性格的要因
①両親の別離に対する適応に関し、自己制御と肯定的な情動性が高ければ保護になり、否定的な反応性が高ければリスクになると考えられる(Hetherington et al., 1989; Lengua et al., 2000)。ある研究では、外在化問題の進展はエフォートフル・コントロール(即ち、自己制御能力)が低い青年にのみ見られ、内在化問題の進展は恐怖心の高い子どもにのみ見られた(Sentse, Ormel, Veenstra, Verhulst & Oldehinke,2011)。別の研究では、誠実性(組織的、秩序的、計画的であることを反映している)の高い青年は、身体的共同監護joint physical custodyの取決めにおいて、(恐らく世帯を超えた適応が困難と判断したため)より高い抑うつ感情と低い自尊心を有することが見い出された(Sodermans, Botterman, Havermans & Matthijs, 2014)。この分野の研究は極めて少ない。
②両親の離婚が子どもに与える負の影響を緩和する別の個人特性としては、知性(Katz & Gottman, 1997; Weaver & Schofield, 2015)、特定の才能、身体的魅力、そして、ストレスを受ける出来事に直面した時にうまく対処できる能力などが挙げられる(McIntosh, 2003)。
帰属意識
①両親の別離で自分を責める子ども(例えば、「両親が子育てについて口論していた-私がいなければ、両親は一緒に住んでいた」)は、適応が非常に悪い傾向にあり(Bussell, 1995; McIntosh, Smyth, et al., 2010a)、抑うつ、外在的問題の割合が高く、自己有能感が低い傾向が見られる。
性別
①殆どの研究が、両親の別離が子どもに与える影響において、少年と少女の間には殆ど、或いは全く差異がないと報告している(Painter & Levine, 1998; Sun & Li, 2002; Woodward, Fergusson, & Beisky, 2000)。
年齢
両親の別離が子どもに与える影響において、子どもの年齢による差異を示す確固たる証拠は殆ど存在しない(Amato, 2001)。既存の文献の多くの限界は、別離時点の子どもの年齢データがないことで、多くの研究が調査時点の子どもの年齢だけを報告している。しかしながら、子どもの年齢が子どもの気質と組み合わさり、種々の監護者から引き離された期間における反応のしかたに影響を与えるという点で一般的な合意が得られている(Robb, 2012)。そしてまた、年齢は短期的な反応にも影響を与える可能性がある。
幼児と未就学児(0~4歳)
両親の別離に対する幼児の反応は、認知的・社会的な能力の低さ、親への依存、家庭への制限などが影響している。
①3歳未満の乳幼児は、養育者の苦痛や悲しみを反映している可能性があり、観察される行動には、イラつき、腹側な睡眠覚醒リズム、分離不安、摂食障害などがある (Clark, 2013; Mcintosh, 2011; Zeanah et al., 2011, 1999)。
②激しい高葛藤、家庭内暴力、親の養育放棄は、不安定で無秩序な愛着スタイルの傾向を強めると考えられる(Lieberman, Zeanah, & McIntosh, 2011)。
初期と中期の学齢期の子ども(5~12歳)
小学生の子どもは、未就学児と比較し、明確な言葉で考えを述べ、自分の感情も上手に表現できる。しかし、家庭生活が大きく変化した後の行動の悪化はこの年齢層でもよく見られる。
①彼らは、年長の子どもよりも両親間の葛藤が目的の違いによるものであることを理解できる可能性が低く、自己非難する可能性が高くなる(McIntosh, 2003)。
②彼らは、行動上の問題や集中力の低下、仲間とのトラブルなどなどで、怒り、ストレス、困惑を表現することがある。
③彼らは両親の復縁を強く望んでいることが多く、交流時・アクセス時に復縁を促すこともある。
④この年齢層の子どもは、選択肢を与えられると、親に対して「公平にする」ことを強く意識することが多い(Sadwski & McIntosh, 2015b)。このことが、実質的に共同養育shared parentingで暮らしている初期学齢期の子どもの割合が高い一因になっている可能性がある(McIntosh, Long, & Wells, 2009)。
青年期
一般に青年は両親が離婚した時に、最初はかなりの痛みと怒りを経験する。しかし、彼らは離婚の責任を正確に割り当て、忠誠葛藤を解決し、経済的な変化や新しい家族の役割定義等の追加的ストレスを見極め、対処することができる。また、青年は家族以外の支援システムを利用できる。
①両親の別離は、青年が自己制御された自律的な行動をとり、学業や職業上の目標を達成し、明確な性的アイデンティティを確立し、親密な人間関係を築く能力に影響を与える可能性がある(Hetherington & Stanley-Hagen, 1999)。
②青年の中には家族からの離脱が早まり、仲間とつるむようになりがちで、大人の監視が行き届かず、早期の性行為や薬物使用、飲酒などのリスクを冒す行動を増える(Amato, 2010)。
③制約を設ける際の一貫性のなさ等の家庭内と家庭間の共同養育問題Co-parenting problemは挑戦的な行動を悪化させる可能性がある。青年は特にダブルスタンダードやごまかしに敏感である。それ故、不誠実だったり、若者を自分の側に着けようとする親は青年の尊敬を失う可能性がある(Rowen & Emery, 2014)。青年は実質的に共同養育shared parentingの取決めを望んだり、維持したりする可能性が最も低い(McIntosh et al., 2009)。
付加的要因
別離後の家庭変化の回数と複雑さ
両親の別離は数多くある家庭変化の中の、よくある1つの出来事である。離婚後の家族構成における多様な変化を経験すると、例えば一方の親、或いは両方の親が再婚したり、連れ子の兄弟姉妹や異父母の兄弟姉妹ができると、その後に次のような多くの問題が増加すると言われている。
①問題行動(Cavanagh & Huston, 2006; Osborne & McLanahan, 2007)
②薬物使用(Cavanagh, 2008)
③外在化問題と不良行為(Formby & Cherlin, 2007)
④学業成績の低下(Hill et al., 2004; Martinez & Forgatch, 2002)
⑤心理的ウエルビーイングの低下(Amato, 2010)
⑥成人期における不安定な対人関係(Wolfinger, 2000)
更に、一方の親、若しくは両方の親が再婚することで、別離の見掛け上の影響を説明できる場合もある(例えば、Fagan, 2012)。移行のタイミングは重要である。
①両親の別離後に未就学児が読み書き能力の低下を示したのは、同居する母親が以前の関係を解消した直後に新たな同棲関係に移行した場合だけだった(Fagan, 2012)。
②親が余りにも早く新しい関係を築くと、子どもは喪失感を高め、親が自分たちに払う愛情の焦点を新しいパートナーに移すことで「取って代わられる」という恐怖感が増加する(Kelly & Emery, 2003; Wolchik, Schenck, & Sandler, 2009)。
地理的距離と電子通信
世帯間の移動に要する時間は、子どもにとって更なるストレスとなり得る(Smith, 2004a)。Viry(2014)は。父親が子どもの近くに住むと、子どもの適応にプラスの効果があるとしている。実務家はこの知見を支持している一方、この問題に関する他の研究証拠は殆ど存在していない。
バーチャルな親子交流は、遠く離れている子どもと親との交流を維持するための有望な暫定的手法になり得る(Ashley, 2008; Bach-Van Horn, 2008; Gottfried, 2012; LeVasseur, 2004; Rivera, 2010)。電子媒体は継続する頻繁で重要な子どもとの交流を維持するに役立ち、その結果、別居親は子どもの日常的な行動を更に詳しく知り(Hofer, Souder, Kennedy, Fullman, & Hurd, 2009)、形式ばらない親子交流の機会を通じて、交流スケジュールに硬直性が殆ど生じないようにすることもできる。Viry(2014)は、団結した共同養育co-parentingは、父親が子どもの近くに居住するよりも、電話や電子メールによる頻繁な父子交流とより密接な関係があることを見出した。
社会的文化的要因
事実上、両親の離婚が子どもに与える影響に関する既存の全文献は、欧米諸国のものであり、研究参加者の社会的文化的背景の違い(社会経済学的地位を除く)に注意を払った研究は殆ど存在しない。
同性パートナー
両親の別離が同性家族の子どもに及ぼす影響を調査した研究は殆ど存在しない。アメリカのある研究(Gartrell & Bos, 2010)では、母親が依然と一緒にいる17歳の子ども(サンプルの44%)と別離した母親を持つ17歳の子ども(56%)との間で、(母親が作成した)子ども挙動チェックリストに差異はないことが見出された。両方のケースで、これらの青年はアメリカ青年の標準サンプルにおける同年齢の青年よりも、社会性、学業学術、そして総合的コンピテンスにおいて優位に高いスコアで、社会的問題、規則破り、攻撃性、そして外在化問題行動が有意に低かった。両親が別離したケースの71%で、子どもは両親の共同監護shared custodyで育っているが、これは母親の65%が子どもを単独監護sole custodyしているアメリカの異性カップルと対照をなしている。GatrellとBos(2010)は、共同監護shared custodyの比率が高いことが、両親が別離した家庭と両親が揃った家庭の間に心理社会的適応の差異がないことの一因ではないかと指摘している。
影響を改善するための介入~サービス、支援、方針
これまでの章は親と子どもの別離の影響を軽減するために家族が支援を必要としていることに光を当てた。この分野では、別離や離婚における介入の研究は未だ少なく、プログラムの質(例えば、治療忠実性、データ評価など)も大きく異なっている。
子ども支援プログラム
家族離散後の行動、感情、学校関連の適応問題を軽減するための短期グループプログラムの有効性については、いくつかのメタ分析的な証拠がある(Abel, Chung-Canine, & Broussard, 2013; Durlak & Wells, 1977,; Rose, 2009)。
親教育プログラム
別離が子どもに与える影響を改善するための予防と早期に介入する子育て教育プログラムは広く普及している(McIntosh & Deacon-Wood, 2003; Thoennes & Pearson, 1999)。これらのプログラムには、「Children in the Middle(Arbuthnot & Gordon, 1996)」「Key Steps to Parenting after Separation(Dour, 2003)」「Family Transitions Triple P(Stallman & Sanders, 2014)」が挙げられる。
グループや個人を対象とした長期的な離婚教育プログラムでは、親が時間をかけて子育てのスキルを学び、実践し、習得することができる。海外の調査結果は、数週間にわたる対面式の能力に応じたプログラムの有効性を裏付けている。これらのプログラムは、躾に関する親の判断と行動の改善、積極的な強化と非強制的な制限設定の使用、およびコミュニケーションスキルの強化の結果として、親子関係を改善し、両親間葛藤を減じることができる(Bonds et al., 2010; Woichik, Ssndier, et al., 2009)。
別離したカップルに特化したオンラインプログラムは、出来たばかりである。現在、オーストラリアで唯一のオンライン教育プログラムは、「Young Children in Divorce and Separation Program (YCIDS)」で、乳幼児との効果的な共同養育co-parentingを支援することを目的としており、現在パイロット試験を実施中である(McIntosh & Tan, 2017)。
メディエーションと訴訟
今日、裁判所を通して両親が別離の解決を図るよりも非敵対的メディエーションを通して解決することが奨励されている。また、家庭内暴力が存在する場合に当事者の安全を確保するため、修正されたメディエーション方法が開発されている(Holtzworth-Munroe, Beck, & Applegate, 2010)。
メディエーションが子どものウエルビーイングに与えるメリットを直接評価した研究は殆ど存在していない。しかし、メディエーションが親にもたらす利益についてはかなりの証拠があり、それが子どもにもたらされる間接的な利益につながっていると考えられる。
①訴訟で激しく争った家庭では、諍いの程度が低い家庭と比較して、家族間の葛藤や不適応が多く、有利な離婚状態は少なく、子どもの対処能力が乏しく、離婚解決に対する前向きさが乏しいことが分かった(Bing et al., 2009)。(注:訴訟が多い人と少ない人の間にある以前からの違いが、これらの発見を部分的に説明している可能性がある)
②監護権を法廷で争った家庭に比較して、メディエーションを用いた別居親は子どもの生活の多様な分野に関与しており、監護権紛争の解決後12年間も子どもとより多くの交流をしていた。また、協同性と柔軟性の向上を一般的に反映し、長年にわたり子どもの暮らしに関する取決めを必要に応じて変更した。父親の満足度は、監護権を訴訟で争うよりメディエーションを用いた方が高く、母親の満足度は両者で殆ど差異がなかった(Emery, Laumann-Billings, Waldon, Sbarra, & Dillon, 2001)。
③学齢期の子どもの養育に関わる問題のメディエーションにおいて、子どもの声を聞くために、子どもに焦点を当てたメディエーションプロセスと子どもを含むメディエーションプロセスが開発された(McIntosh, 200; McIntosh, Long, & Moloney, 2004; Moloney & McIntosh, 2004)。どちらも通常のメディエーションよりも、子育てや子どもの適応のアウトカムが良く、再訴訟率が低いことと関連していた。
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