小説 俺は美術館に行くのが好きだ
俺は美術館に行くのが好きだが、悔しいが、知り合いとこんなやり取りをした。
「おい、このやろう。お前は美術館へよく行くのか?」
「行かないです。」
「なんだこのやろう、つまんねーな。俺はよう、よく美術館へ行くんだよ。かっこいいだろ。」
「最近、誰の作品を観に行ったんですか?」
「え?」
「だから、最近、誰の作品を観に行ったんですか?」
「いや・・・誰のかとか、そういうのはいいだろ。」
「あのー・・・美術館行ってないですよね?」
「え?いや、行ってるけど・・・。」
「行ってないですよね?だから。」
(小声で)「だから、前は通ったよ。」
「え?なんて言ったんですか?」
「だから、美術館の前は通ったって言ってんだよ。」
「それ美術館に行ったうちに入らないでしょ。」
「だからさ、最初に美術館に行くのが好きだって言っただろ。入ったとは言ってないだろ。」
「後付けしないでくださいよ。かっこつけたかったんですよね?」
「いや、違うよ。」
「僕が興味ないと思って誰の作品を観に行ったかなんて聞かれないと思ってたんでしょ。でも、僕が聞いちゃったから、焦ったんでしょ。」
「ちきしょう。」
こんなやり取りはしたことがない。
まず、美術館の前も通らず、観に行く機会がない。
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