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「美しい形を求める数値は、もっと美しい数値になっていいはずだ」 ― 円周率にまつわる興味深い話

先日、「円周率の日」にちなんで記事を書こうと思って少し調べていたところ興味深い記述を見つけたもので、少しまとめてみたいと思います。3/14ではなく、3/16に記事を公開するのは原稿の遅れ? ……いえ、そうではないんです。その答えは、ぜひ本文をお読みください。

円周率の歴史

皆さんご存知、円周率。小学校では(世代によって多少の違いがあるかもしれませんが)「3.14」と教わり、中学生になると「π」という記号を教わりました。一緒に円の面積や円周を求める公式を覚えたのは懐かしい話です。

数学の専門家でなくとも馴染みのある円周率ですが、古くは紀元前2000年頃、古代バビロニアでは既に現在も使われている円周率の近似値が使われていたそうです。

その後、アルキメデスやフィボナッチといったデザイン界隈でも名前を目にするような数学者たちによって研究が進められ、西暦1600年頃にはドイツ(オランダ)の数学者ルドルフ・ファン・コーレンによって小数点以下35桁までが正確に求められました。そしてコンピュータ技術が進んだ現代では、なんと100兆桁まで計算されているとのこと(2022年)。

江戸時代の日本では

1663年、村松茂清が著した『算俎』に書かれたものが「日本で最初に数学的な方法で計算された円周率」とされ、小数点以下7桁までが正しい値でした。それまでの和算家によって求められていた「3.16」という近似値と比較すると非常に正確な値であることが分かります。ところが当時の日本では、江戸時代の後半になっても(特に一般大衆向けの情報としては)古い情報である「3.16」の方が広く普及していたという背景もあったようです。

この「3.16」という数値、江戸時代初期の数学書である『割算書』や『塵劫記』に記されているものですが、なぜこの値が導き出されたのかは明らかになっていないようで、Wikipediaにはこう書かれています。

おそらく、毛利重忠とその弟子の吉田光由などの先駆者らは、円周率を実際に測定して3.14ないし3.16ほどの値を得たが、最後の桁の数字に確信が持てなかったため、「円のような美しい形を求める数値は、もっと美しい数値になっていいはずだ」と考え、「美しい理論」を求めた。その結果 √10 = 3.16 が美しい数値として採用されたと推測されている。その考えは日本で2番目に3.14の値を計算で求めた野沢定長の『算九回』(延宝五年:1677年)の中にも見られ、その著書の中で「忽然として円算の妙を悟った」として「円周率の値は形=経験によって求めれば3.14であるが、理=思弁によって求めれば3.16である」として「両方とも捨てるべきでない」とした。

和算における円周率の取り扱い(Wikipedia)

今回「興味深い」と言った記述はこれです。数学というのは論理性とか検証に基づいた正確性というものが重要視されるものだと思っていたのですが、(和算と数学を同じものとするかどうかはいったん別として)かつての和算家たちが思いもよらずロマンに満ちた、また「円」という形状に対するリスペクトさえ感じられるような考え方をしていた(であろう)ことに少し感銘を受けたのです。

デザイナーの心理にも通じる

「美しい形を求める数値は、もっと美しい数値になっていいはずだ」

なんとも素直で正直な、見方によっては切なる願望ともとれるこの考えは、実はデザイナーの心理にも通じるところがあるんじゃないかと思っています。だからこそ私の胸に興味深く響いたのではないかな、と。

実際、ロゴや紙面をデザインしているとこういう心境になることは多々あるのです。特にロゴデザイン、シンボルマークやロゴタイプの仕上げの段階で錯視調整などの非常に細やかな作業をしているときには、こういうことを考えていたりしがちです。

ロジック(論理性)や機能性と審美性を両立させなくてはならないデザインのプロセスにおいては、ごく自然な考えであるとも言えます。あえて吐露するならば、デザイナーが自分自身を納得させながら(説き伏せながら)デザインを完成させるための心理的材料のひとつと言い換えてもいいのかもしれません。

――というわけで、和算家たちの尽力と感性に敬意を表して、「円周率の日」ではなく3/16の今日、この記事を公開することにしました。

今回少しだけ触れたデザインのプロセスや考え方については、今後また記事にする予定ですのでどうぞお楽しみに。


出典/参考資料
本記事は、Wikipedia内のいくつかのページに書かれた情報を出典・参考資料として構成しています。


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