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島風ニモマケズ

突然、仕事が休みになった。
強風により、観光客を乗せた船が接岸できないという。
来る予定だった団体の予約は、敢えなく当日キャンセルとなった。
今の季節はツアーの団体客の受け入れしかしていないため、今日のお客さんはゼロだ。
仕事する気マンマンだったのにも関わらず、急遽休みになり、拍子抜けしてしまった。仕方ない。
仕事モードだった私は、徐々に気持ちをゆるめていくことにした。
どうせなら、強風だけれど晴れている今日という日を、楽しもうじゃないか。

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休みの連絡が入ったのは、朝ごはんを食べ終わり、さあ仕事までのんびりするかと雑誌を手に取ったところだった。
呆然としたが、気持ちを切り替えて出かける準備に取り掛かる。
先日行って一目惚れしたあのカフェに行こう。
さらにそこからバスに乗って、隣町へ行ってみることにした。
この行動力が、私の取り柄の1つである。

朝のキラキラ輝く海を横目に、バス停までの道を歩く。
確かに風が強い。けれど清々しい程に晴れているから、島に来れなかった観光客たちはさぞ悔しいことだろう。
私としても是非島に来て欲しかった。
勤務先の美味しいご飯を食べてほしかったし、美しい島の景色を見て、綺麗すぎる島の空気を味わってほしかった。

今日もオーナーと若い女の子のスタッフのお2人が、素敵な笑顔で出迎えてくれた。
ホットのチャイラテは、キツすぎないスパイス感とミルクの相性がとても良く、心も身体もぽかぽかと温まった。
先日作ってもらったスタンプカードに2つ目のスタンプが押される。
強風で客船が接岸できなかったこと、それに伴い仕事が休みになったこと、今日初めて隣町まで遊びにいくことなどをオーナーに話した。
オーナーは、隣町のお勧めスポットをたくさん教えてくれた。
美味しいご飯屋さん、お勧めのお土産屋さん、知り合いがやっている雑貨屋さんなど、聞いているだけでワクワクしてくる。
せっかく島に来て貰ったんだから、楽しんでもらわなくちゃねえ!と可愛らしく微笑むオーナー。
バスの時間までおしゃべりして、店を出る時には「楽しんできてね〜!」とお2人が手を振って見送ってくれた。やっぱり素敵なカフェだ。

隣町のフェリーターミナルでバスを降りると、目の前に、カフェのオーナーが教えてくれた雑貨屋さんが見えた。早速入店する。

お邪魔な店内に、イケイケな風貌のオーナーと思わしき男性がいた。
話してみるととても気さくな方で、なんと青森のことが大好きだというではないか!
ご先祖様が青森の人だそうで、オーナー自身も青森に訪れたことがあるそうだ。
何を食べてもご飯が美味しかったとニコニコしながら話してくれて、私はとてもとても嬉しい気持ちになった。
そして、家族と友達に島から手紙を出そうと思い、ポストカードとステッカーを購入した。
さらに、島でしか買えないらしい気になるお酒があったので、島にいる間に買いに来ますと言い、退店した。
また1つ、素敵なお店を見つけてしまった。

街中へと向かう道も、自分が今住んでいる街とは似ているようで少し違うように思えた。
こちらの街の方が風が強く、海も荒々しく感じられる。
けれど、澄んだ空気とのんびりとした時間の流れはおんなじだ、と思った。
気づいたら時刻は11時過ぎ。
さあ、お昼ごはんにしよう。
カフェのオーナー、雑貨屋のオーナー2人のお勧めである、中華料理屋へと向かう。

赤色の暖簾が素敵な、島民に愛されるこちらのお店。
お勧めしてくれた2人が、口を揃えて「ラーユタンメン美味しいよ!!」というので、迷わずそちらを注文した。
家族経営なのか、お婆さん、お母さん、娘さんらしき人たちが客席と厨房を行ったり来たりしていた。
島民と観光客であっという間に満席となり、その人気ぶりが伺えた。
ラーユタンメン、辛すぎなくてとても美味しい。
辣油の香りが食欲を掻き立て、あっという間に胃の中にお引越しだ。人気なのも頷ける。
感じが良くて味も良い、ここもまた素晴らしいお店であった。

別腹発動、ということで付近の喫茶店へ向かう私。
雑誌で見つけたのだが、いわゆるレトロ喫茶がこの街にはあるらしい。
私が今住んでいる街には都会的なカフェがあるが、こちらはレトロ喫茶。
対比的で、どちらの良さも味わえて良いなあ、なんて思った。

入店すると、キッチンではお爺さんが1人、せかせかと動いていた。
着席するや否や、ちょっと待っててね!と言われたが、もちろんいつまででも待てる。
それくらい店の雰囲気が落ち着いていて良い。
マスターらしき渋いお爺さんに、クリームソーダと小倉白玉アイスなるものを注文した。
アイス被りだが、甘党の私にはそんなの関係ない。
ワクワクしながら、たまにお爺さんのテキパキした動きを見ながら、デザートが届くのを待った。

き、きた〜!!この時の私の興奮はMAX。
透き通ったグリーンと、溶けかかったアイス。
クリームソーダを考えた人は天才だと思う。
最初は液体だけを飲み、アイスだけを食べ、少しずつ混ぜながら楽しむ。至福の時である。
クリームソーダを味わい尽くした頃に、私の元へとパフェがやってきた。
思ったより大きくて嬉しくなった。
たっぷりの小倉あんと、バニラアイスに、中にゴロゴロと白玉が隠れていた。背徳的食べ物だ。
パフェは飲み物なので、一瞬にして消えてしまったが、大大大満足である。
どんどんお客さんが入ってくるのに、お爺さんは顔色1つ変えずに注文を捌いていく。これぞプロだ。
レトロ喫茶ならではのホットサンドもメニューに発見したので、ここも是非また来たいと思う。

何を思ったか、私はラーメン屋へ向かっていた。
頭がおかしくなったわけではない。
しょっぱい→甘いときたら、次はしょっぱいに戻らなければならない決まりなのだ。
ということで(?)島でかなり有名なラーメン屋さんへ駆け込み入店した。
夏季限定の、昆布出汁の効いた冷製鶏塩らーめんなるものを注文。

透明な器に盛られた、美しすぎるらーめん。
昆布、めかぶ、キムチ、ネギ、鶏肉、そして透明なスープと艶やかな麺。
これはもはや芸術作品ではないか。
思う存分目で楽しんでから、食べ始める。
味は言わずもがな、最高だ。
昆布と鶏の出汁が効いていて、あんなにたらふく食べた後なのにも関わらず、スルスルと胃に入っていく。美味しい…!!
別腹というには多すぎる量を平らげ、これ以上無いくらい幸せな気持ちで退店した。

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帰宅すると勤務地でお世話になっている奥様がいたので少し会話をしてから、部屋に戻った。
急遽休みになったが、かなり充実した1日になったと思う。
夕方は、今日雑貨屋さんで買ったポストカードにメッセージを添えて、出しに行こうと思っている。
島からの手紙に驚くだろうか。反応が楽しみだ。
それにして、明日はさすがに働きたい。
休みばかりも辛いものがある。
働くためだけではないが、アルバイトとして島にやってきたのだから、労働意欲をどうにかして消化したい。
そして今日は食べ過ぎてしまったので夜は抜いて、胃腸を休ませるつもりだ。
何はともあれ、明日もきっと良い日になるよう、海に向かって手を合わせようと思う。

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