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『死ねない老人』杉浦敏之、幻冬社、2022

 世界でもトップクラスの長寿国となった日本で、人によっては90歳という、未体験ゾーンに突入する人のいる社会で、どうすれば理想の死に方ができるかを考察した本。

 現在の日本で、人生の理想のエンディングを迎えることができない人、どのように最期を迎えたらよいのかわからなくなっている人、要するに「死ぬに死ねない老人」を、大きく2つのカテゴリーに分けているのはわかりやすい。
 1つは「生きがい」を失ってしまっている人。もう1つは「死なせること」ができず、どこまでも「治療」を続けようとすることによって、平穏な最期を迎えることができなくなっている人。

 本書は上記の2つのカテゴリーの高齢者について、それぞれの対策を提案している。1つ目の「生きがい」を失っている高齢者に対しては「人の役に立つこと」。具体的には仕事を続けることやボランティアなどをすること。脳科学的には、人に喜んでもらうことが根源的な喜びにつながるということを述べている。

 もう1つの、終わりのない過剰で濃密な医療によって苦しめられる終末期の患者については、尊厳死、具体的には在宅医療によって自宅で最期を迎えることを強く勧めている。在宅医療によって、家族に看取られながら、人間らしい穏やかな最期を迎えることができるというのである。
 そして、もちろん当初在宅を望んでいながらも、間際になって病院で最期の医療を受けたいと気が変わる人のことも視野に入れている。しかし、基本的には在宅での介護や看取りを強調する結論で終わっている。

 在宅での介護、看取りがいかに安らかであるか。人間らしいか。それを、訪問医療の専門家である医師として終始説いているが、やや単純すぎる内容のようにも感じられた。
 何より、本書では看取ってくれる家族がいることが前提になっているが、孤独死しか予想できない独居老人はどうするのかについての記述は皆無である。孤独な高齢者の増加が社会問題となっている現代において、やや本書の内容は物足りないと言わざるを得ない。

 一人暮らしの筆者としては、家族の介護を期待することもできない独居老人が、どうやって安心に満ちた最期を迎えることができるのか。そのヒントを与えてくれる本と出会えることを期待する。

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