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誰其の金メダル〜132日目の笑顔


東京から上高地への深夜バスの車内でようやく一息。

明日の5時には標高1500メートルの北アルプス山の中にいるのである。

今日は忙しかった。


朝から全ての布団を干して
洗濯して掃除して

ご飯も食べずに配達をこなし、半年ぶりの歯医者に寄る。

虫歯はなかったが
尋常じゃない歯の着色と黒ずみ…

マスクを常用してるのを良い事に

歯の着色ケアを完全に怠っていた。

私はたまにこんな汚い歯をカウンター越しに見せびらかしていたのか…

これまた歯並びが良いので汚さがキレイに際立っている。


cafeを始めてコーヒーを飲むことが多くなり、より一層着色が進んだらしい。

勧められるがままお高い歯磨き粉とブラシ3本を購入した。 

その足で近所の豆屋へ走り、店長と小一時間駄弁る。



モカ山珈琲焙煎所のご主人は、

『いやぁ暑くて豆焼く気にならないよ』

が最近の口癖。

彼はラーメン屋でモーニングを始めた私と私を取り巻く常連さんの繋がりに

『おもしろい事するなぁ』

と喜んでくれて

私が面白いことをしているという理由だけで、こちらから頼んでないのに店舗用に深煎りのブレンドを値引きして焼いてくれた。


それ以降毎週顔を出すたびに

深煎りのブレンドがあるか聞くと

いやぁ暑くてさぁ…(テヘペロ)

という感じでかわされ続けているので
早く夏が過ぎて欲しいと思う今日。


我がカフェオリジナルのブレンド豆は影郎の様に実態を無くしつつあるが

ご主人の気さくさとこだわりを押し付けない柔軟な知識の教授が楽しくて

週に一度の仕入れはいつも長話になって楽しい。

モカ山の名前が入ってるという理由で、焙煎所の豆を買い始めたけれど



この街にしかない美味しい豆を
この街で淹れられるというのは

特別何も自信を持てなかった私の
力強い支えになってくれた。

焙煎所のご主人にバイクを買い替える話をしたら、古い方を貰ってくれるらしい。

『豆と交換とかどう?』

と言われたので


バイクの取引にコーヒー豆が使われる様になるとはcafeの店主らしくなってきた感じがして可笑しい。

100グラム2000円相当のゲイシャを
どれだけ引き出せるか…

これから山小屋で間借りcafeをするからと言って、2週間分どっさり仕入れて
山での生活を羨ましがれつつ笑顔で豆屋を後にした。

山の仲間たちに我が街のコーヒーを振る舞うのが楽しみである。



cafe低空飛行は、一先ずの区切りを終えた。

これからおよそ2週間の休暇という名の山小屋での出稼ぎ。

134日目のこと。およそ5ヶ月間の営業を締め括る土曜日は朝から忙しかった。

看板を見てラーメン屋も未経験の
お客さんが朝一番に入店してくれて

嬉しさと朝イチから緊張のあまり
仕込みが間に合わずバタバタ。

次々と入店するサロンメンバー。

これはまるで最期の営業を惜しむために来た感じではないか…

私が山から帰ってこないのではないか?
という懸念が渦巻いている。

確かにこれまで何度も突然音信不通になったことがあるので仕方がないのだが…

いつも以上に賑やかな一時を終えて
cafeの発起人で低空飛行の名付け親のウォーリーがメンバーを代表して、私に賞状と金メダルをくれた。


どうやらこの夏のオリンピックにかこつけたサプライズの為に、裏でコソコソ賞状に署名を集めて回っていたらしい。

粋なことをする無精髭。

私は人生で初めて金メダルを貰った。
たった5ヶ月、週6日モーニングを続けただけなのに。



何をそんなに表彰されることがあるのか?

私は知らずに優勝している…

(これまた賞状なんて捨て辛いものを…)

と思いながら、繁々と見るとワープロ文字だと思しき文面が全て奥さんのベィニちゃんの手書きであった。

私はほぼ欠かず130日通い続けてたウォーリーこそメダルを受けとるべきだと思うのだが。 

しかし飽き性な私が5ヶ月も休まず毎朝起きてcafeを続けるなんて優勝並みに奇跡なことなのかもしれない。

しかしなぜだろうか…

色々と考えたのだが

私は毎朝逃げていたのではないか。

という推論をしてみた。

私が意思を持って続けられるのは
せいぜい2ヶ月そこら。

これまで就いた好きな仕事だって業界、職種問わずに理由をつけて2ヶ月に一度はサボったりしていた。

楽しかったラジオもブログの更新も
どこかでネジが外れて

ある日突然パタンと熱が引いていく。

すると情熱や使命感なんてものは
私にとって身体を酷使して
最後は無か灰になってしまうモンで

そんなものを原動力にカッコつけてはいけないのではないかと思っているぐらいだ。

逃げているのだとしたら納得がいく。


私は逃げることだけは
それなりにこなしてきた自信がある。

これをしなければいけない。
こうでなければいけない。
責任をもたなければ
人を愛さなければ…

仕事から逃げ
家族から逃げ
恋人から逃げ、逃げられ


コーヒーを飲んでおしゃべりをする。

そんな人たちに寄り添っていたい。

モーニングという朝の3時間を作ること。其の1日をこなす為の逃避という名の深呼吸であろうか。

私はモーニングだけで稼いで
生活していない。

最近では稼げもしないモーニングを続ける為に稼いでいるフシすらある。


なので祝われるほど
一生懸命こなした自覚がないけれど


人知れずこの国のメダル総数に貢献している名もなき早起きの逃亡者達に

親しみを込めて。

皆さん一先ずありがとう。

金メダル以上に輝かしい皆さんの毎朝の笑顔に私はいつも救われているのです。

いつか間借りではない正式な自分のお店を持ちたい。 これまでに無い滋養と楽しさに満ちたモーニングで 他人様の朝を彩れる様になるまで、その全過程をnoteに残します。 面白かったらサポートして下さい。 貴方も世界でも稀なモーニングの当事者となって見届けて下さい。