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自己啓発

どんな自己啓発をしていますか?

ウィーン大学のメディア・テクノロジー哲学教授であるマーク・クーケルバーク氏著書『自己啓発の罠 AIに心を支配されないために』を読んだ。本著では、自己啓発の歴史と変遷を辿りながら、現代社会では資本主義とAIが結びつき、競争社会や個人主義に拍車をかけ、自己啓発の形態が大きく変わってきていることを述べている。

現代社会では、個人、自己のみに視点を向ける自己啓発が蔓延しており、そこから脱落したりバーンアウトして、本来の自己成長とは異なる結末に至るケースが増えてきていることが述べられている。一方で、自己を形成するには、自分ではコントロールが出来ない他者や環境との関係性が肝要であり、「自己との関係性」を見直すように外部への働きかけをすることで、結果的に良好な自己啓発に至るというプロセスが推奨されている。その中で、環境要因として、テクノロジーやAIについて焦点を当てた考察が述べられていた。

専門家ではないので詳細は分からないが、関係性というものは、現代哲学や人類学でも近年重要視されているように思う。レヴィ=ストロース、中島岳志、奥野克己、カルロロヴェッリなど、ここ1年ほどで読んだ本でも、関係性に焦点を当てた内容が多かった。また、関係性は常に変わり続けるため、再構築する必要があることも提言されている。仏教の基本概念である、諸行無常や諸法無我とも親和性が高い内容にはなっているように感じる。

ただ、他者や社会との関係性が重要であることは、改めて難しい本を読まなくても理解はできる部分でもある。ただ、その関係構築に時間を割くよりも、個人レベルでの自己啓発や娯楽が優先されることが問題である。競争社会の中で、幼少期から受験勉強で競い合い、格差の中で生き残ることが大事だと身に着けていく。そして、社会に出ても、資本主義の中でいかに早く金儲けできるかを叩き込まれる。成果を上げたら個人レベルで報酬が増え出世するため、競争が煽られやすい構図でもある。

そういう世の中で、一時的なアウトプットや成長が止まるとしても、関係性の改善に時間をどうやって割くのか。そこが根本課題であるように感じている。コロナの絶頂期には関係性の議論が増えていたが、それも随分と希薄されたように思う。人間は忘れやすいし流されやすい。目の前の仕事、勉強、生活に追われていると視野も狭くなる。その中でも、時間を取って関係性改善のための対話をするにはどうすればいいのか。結局は、覚悟を持ってやるという精神論以上のことを今は思いつけないが、一方で日々のちょっとした挨拶や声掛けからでも出来ることはあると思う。少しずつでも、他者に関心をもつ人が増えたら、それがそのまま自己啓発にも繋がり、善い関係性にも繋がると感じる。


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