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ある詩人の旅 5


ある詩人の旅 5

ひょっとしたら
私はかの国への扉が開かれるのを
待ち望んでいるのかもしれない

思わず口にした言葉に慄然とする

過ぎ去りし時を
記憶の皿の中から
一粒ひとつぶつまみ出し
シワの目立つ手のひらに乗せて
じっと見つめる

サラサラと手のひらからこぼれ落ちていく
乾いた砂粒の様な時の残骸

無為なる生の軌跡の前に
漠とした洞の中に打ち捨てられた己を知り
蕭然とその場に立ち尽くす

突然鳴り響く大伽藍の鐘楼の音は
空虚なる思いに耽る詩人を更に打ちのめし
混乱の淵へと追いやる

喧騒の人々の囀りから逃れ
硬直した足を引きずりながら
薄汚れた石畳の街路を歩む老醜の姿に
心を留めるものなど誰もいなかった

紡ぎ出す言葉も奪われ
己自身を明かすすべを失った老人は
何に縋って残された時を過ごすというのか

深き闇の中で小さな燭台に火をともし
かの国へ旅立つ救いの盃を飲み干すべきか
老い人は逡巡していた

2020/5/16 Tokyo 一陽 ichiyoh

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