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我が庭に根をはる樹木たち


我が庭には、季節が来ると美しい花を咲かせる樹木と草花がありますが、最初に樹木の方から述べることにします。

夕暮の待婚歌

樹木の紹介に先だって、歌人前田夕暮の待婚歌を紹介します。

     木に花咲き君わが妻とならむ日の 

           四月なかなか遠くもあるかな

                        前田夕暮

 夕暮の作品中最も人口に膾炙している作品です。それはめでたい祝婚の歌として詠まれているからです。木々に花が咲いて、愛する君が自分の妻となるという4月の、なんと遠いことであろうかと、婚約をした青年の純な気持ちが吐露されており、これが多くの人の共感を呼んでいるのだと思います。

 この歌に詠まれた木の花は何なのか、という議論もありますが、何の花でもいいのです。夕暮にとってもこの作品は12月作とありますので、いわば観念の中に咲いている花なのかもしれません。

 読者が、それぞれ自分にふさわしいと思う花をそっとあてはめて、楽しんでみてはいかがでしょうか。

早春に芳しい香を放つ蝋梅(ろうばい)

 それでは、夕暮の歌に続いて、我が家の庭の樹を登場させていきます。

 まず、年初に庭に咲いてくれるのは、黄金色の甘い香りを漂わせて咲く蝋梅です。我が庭には、二株の蝋梅の成木があり、これが年末の12月から咲き始め、新年の1月から3月まで通してずっと花が咲いてくれます。

 庭の一角を新年早々黄金色に染めるので、蝋梅は大変縁起の良い花です。蝋梅の枝を切って床の間の花瓶に生けると、家の中がパッと黄金色に輝き、新しい年の雰囲気を漂わせてくれるので、正月には欠かせない花です。

香り良い花をつけるしだれ梅

 次に、2月から3月にかけて、香り良い花をつけるしだれ梅が咲いてくれます。庭には2株のしだれ梅があり、季節になるとそれぞれの株に紅白の花を咲かせてくれます。とりわけ紅梅は、先に植えておりますので、花の勢いも色もそれは見事で、実に見応えがあります。

 しだれ梅の見事さに比べるとしだれない普通の梅は、みすぼらしく気の毒なくらいです。美しく咲くしだれ梅は、花の咲いた後、ほとんど実はできません。神様が美しく咲く花には実までは与えてくれないのでしょうか。

花びらが鳥の餌になる辛夷(こぶし)

 梅に替わって庭に花を咲かせる樹は辛夷です。13年前頃に庭の片隅に辛夷の苗を植えたのですが、これがぐんぐん伸びて、今では巨木になっています。

 3月頃になると、巨木になった辛夷の樹に白い花が咲き始めますが、この花時になると、鵯(ひよ)が現れ、つぼみを突っつくのです。

 大半の辛夷の花は、鵯に突っつかれて咲ききれないのです。せっかくの辛夷の花を鑑賞できないのは残念です。辛夷の花やつぼみが鵯の餌になってしまうことは、これまで全く知らなかったので驚くばかりです。

 それにしてもたくさんの鵯が現れて辛夷の花やつぼみを食べる姿は賑やかで壮観です。

春に花をつける花水木

 辛夷に続いて、春に紅白の花をつけて咲き始めるのは花水木です。花水木は、庭を作る時、業者に成木を7株(紅3株、白4株)植えてもらい、これが春の時期それぞれの樹に紅白の見事な花を咲かせてくれます。

 花水木は開花した後、実をつけますが、この実が晩秋の頃になると赤く色づきます。紅葉した花水木の葉と赤い実がマッチして、この頃も花水木は美しいのです。

 花水木の赤い実が美味しそうなので、噛んでみましたが、何の味もなく不味いのですぐに吐き出しました。鳥達も花水木の木の実は不味いと知っていると見え、決して啄まないのです。

殺虫剤にもなるアセビの木

 庭を作った際に、下木としてアセビがたくさん植えられています。アセビは3月から4月にかけて、多数のつぼ状の小花が連ねて咲きます。

 アセビには、「馬酔木」の漢字が当てられていますが、昔この木に繋いであった馬が葉を食べて苦しがったことからこの字が使われるようになったと言われています。

 枕詞の「あしびき」はこのアセビからきたとも言われています。アセビは有毒植物でもありますので、私は生ごみ桶にウジが大量発生した時、アセビの葉を煎じてこれをかけ、殺虫剤にも利用しています。

 このように植えられている樹の性質をしっかり把握して、これを生活の場に生かしていくことは、大事なことです。

酒に漬けても美味しい枇杷

 庭の片隅に枇杷の木が植えてあります。枇杷は冬に花が咲き、夏に実がなります。冬に咲く枇杷の花は目立たない地味な花を咲かせ、翌年6月頃、黄橙色に実が熟します。実が熟し始めると、鳥達がやってきて実をつつきます。人間は、鳥が落下させた実を見て、食べ頃を判断します。

 私は、枇杷が熟すると毎年これを収穫して焼酎に漬け、枇杷酒を楽しんでおります。

小鳥を呼ぶクロガネモチ

 庭の木の最後に登場するのは、クロガネモチの木です。クロガネモチは造園業者が植えた樹で、これまで全く接したことのない樹でした。この樹は夏頃、小さな黄色味がかった花を咲かせ、晩秋の頃になると小粒の実が赤くなって熟します。

 鵯は、この実が大好きで、大群で押し寄せてきて実を啄みます。実がなっている間は鵯が引きもきらないのですが、実を食べ尽くすと鵯はどこかに行ってしまいます。

 さいごに

 蝋梅、しだれ梅、辛夷、花水木、アセビ、クロガネモチと6種類の樹木を紹介してきましたが、我が庭には、これ以外にたくさんの樹木があります。

 全部紹介すると大変ですので、主だったものだけをあげると、椿、山茶花、栗、無花果等とりどりです。

 こうして庭の樹木と接していると、樹木には花を鑑賞するもの、食べられる実をつけるもの、小鳥を呼ぶもの、殺虫効用のあるもの、とその用途はいろいろです。

 かつて我が庭には桜と杏、楓の樹も植えられていましたが、残念なことにクビアカツヤカミキリという外来種の害虫に食われ、あえなく切り倒されてしまいました。

 これからも庭には、隙間を見つけ、珍しい樹木を植え、増やしていきたいと思います。

 写真は、紅葉した花水木です。 




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