アルコール依存症とわたし

 アルコール依存症になったことがある。きっかけは肺炎だった。いつまでもよくならない体調に嫌気がさして、昼間から酒を飲んだ。酒を飲んだら体調が麻痺して、仕事ができるようになった。そしてそれは1週間もしないうちに、「酒がなければ仕事ができない」という状況を招いた。

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 当時私はシングルマザーで、ワンオペで2人の子供を育てていた。フリーランスの編集・ライターで、1日でも休んだら生活が崩れるという環境。それなのに、1か月もの間咳や発熱がおさまらず、とうとう肺炎で入院してしまった。1週間入院して肺の影がなくなったということで退院したが、家に帰ってもいつまでも体調が元に戻らない。咳だけならまだしも、体全体を包む倦怠感はとにかく仕事に悪影響を及ぼした。
 もともと酒好きではあったが、自分がアルコール依存症だと思ったことはなかった。けれどあのとき、明確に「アルコール依存症になった!!」と思った。

 「飲みたい」というより「飲まないとどうにもならない」という状況。飲まなければ体がだるい。飲むまで気持ちが落ち込んでいるなどなど、まさにプレーンなアルコール依存症。もはや肺炎のせいでだるいのか酒のせいでだるいのか判断がつかない。
 すぐに心療内科に受診し、レグテクトという薬を処方してもらった。1週間のスケジュール帳のようなメモを渡されて、「まずは飲まない日を1週間に3日設けて、印をつけてください」と言われた。
 レグテクトは飲むとアルコールが欲しくなくなるような作用があるらしい。が、飲んでも全然普通に酒を飲みたくて「は?」と思った。少しだけ感じた作用としては、薬を飲んだ上でビールを飲むとなんとなくいつもより美味しくないような気がした。喉にほんの小さな違和感を覚える。けれどそんなもの、元来酒好きの自分が気にするはずもなく。医師に言われた週に3回というのは守ったが、残りの4日は薬も飲まずに酒を飲んでいた。なんでも、レグテクトを飲んだ上で酒を飲むと肝臓に強い負担がかかるらしい。酒飲みにとって大切な肝臓を薬で傷めるのはちょっと……というような感情からだ。

 翌週の受診にて「レグテクトを飲んでいても俄然酒を飲みたかったんですけど、もしかしてこれ自分の意志でどうにかするやつですか」と尋ねた。「そうそう、その通り。結局は自分の意志だよ」と言われた。ここでやっと「あ、もうちゃんとしよう」と思った。言われた通り毎日薬を飲み、酒を飲まない日を少しずつ増やして、自分で意志で飲酒の量をコントロールできるようにしていった。とにかくこまめに通院して、主治医の言うことを全面的に聞いた。
 3か月ほどの通院で「もう大丈夫そうじゃない?」と医師から告げられ、薬は飲まなくなり、通院もしなくなった。肺炎の症状もいつの間にか消えていた。

 私がアルコール依存症から回復できたのは、「子供たちを育てなければいけない」という思いからだと思う。そもそも昼間から酒を飲んだのも子供を育てるために仕事をしなければいけなかったからであって……。とまぁ、言い訳はともかく、子供たちのおかげである。そして何より、すぐに医療機関を受診したのがよかった。もう少し遅かったら、回復にも時間がかかっていただろうし、もう2度と酒を飲めなくなっていたと思う。
 私はよく仕事で病院のHPを制作する。そのときに医師にインタビューをするが、本当にみんな口を揃えていうのが「患者さんが言うことを聞かない。聞かないと病気は治らない」ということ。私自身初週は勝手に薬を減らしたりしていたし、非常に耳が痛い。そして何より、こういった現場の声を知っていながら医師の言うことを聞かなかった。非常に難しいところなのだと思う。
 けれどやはり、やばいと思ったらすぐ受診する。そして絶対に医師の言うとおりにする。これは依存症だけでなく、全ての病気に共通しているように感じる。

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 そして今現在私は普通に酒を楽しんでいる。けれど飲む飲まないに関わらず、一生アル中予備軍。明日は我が身。もう2度とアルコール依存症にならないために気を付けていることがあるので記載する。

・朝の精神状態が悪い日は飲まない。
・絶対に食事をとりながら酒を飲むこと。
・飲んでいいのは、19時から0時の間。
・缶チューハイなどは絶対に買わず、酒は自分で作る。
・ストロング系はダメ、絶対!!!!(←重要)
・ひとりで飲まない。

 おそらくこれだけ守っていれば最悪の事態は免れると思う。さらに私は30歳にして肺炎になるという体の弱さであるが、その点についても下記の通り気を付けている。

・毎日お風呂に入る。
・冷たい飲み物は絶対に飲まない。
・常温もしくは温かい飲み物(できれば水)を1日2Lを目安に飲む。
・夏場、自宅にいても冷え取り靴下を履く。
・冷えを感じたらすぐに足湯に浸かる。

 驚くことにこれだけのことを守っていたらあんなに体が弱かったはずの私がほとんど熱を出さなくなった。どうやら体が冷え切っていたのがよくなかったらしい。

 何が言いたいかというと、酒好きこそ早期治療を。そして、世の酒飲みたちができるだけ健康に酒を飲み続けられるよう心より祈る。

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