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ニック・ワプリントン 『Comprehensive』/目は旅をする082(地図のない旅/行先のない旅)

ニック・ワプリントン 『Comprehensive』(Phaidon Press刊)

ニック・ワプリントンの「包括的」を意味するComprehensiveという名の写真集が出た。30年以上にわたる膨大な写真を新たにリエディットした分厚い写真集である。パリのヨーロッパ写真美術館館長でキュレーターであるサイモン・ベーカーの手になるものだ。初めて知るプロジェクトも沢山あり、その軌跡を、見ながら考えさせられることが多かった。

僕がワプリントンに会ってインタビューしたのは1998年のことだった。彼はまだ30過ぎで、いかにも90年代のポストモダニティの写真家として登場した。
前の年の1997年に、ニューヨーク、ロサンゼルス、東京、ヨハネスブルグ、ロンドンの4都市を1年かけて旅した記録を『Safety in Numbers』のタイトルでまとめた写真集を出し、東京でも展示を行ったからだ。

その写真集は雑誌『Dazed & Confused』のエディターであるマーク・サンダースが関わっていて、写真だけでなく、ワプリントンが日記のように書きなぐってるドローイングも掲載されていた。

僕はそれが面白くて、辻仁成さんと僕の2人が共同編集長をやっていた「コトバとオンガク」の雑誌『Wasteland』でワプリントンのドローイングノートを連載することにした。だから、彼とは全く90年代末から新世紀を並走した「間柄」であり、その変遷がこの30年でどうなったかを見るのは実に興味深いことに思われたのだ。

僕が彼の写真を最初に見た時の印象は、「被写体によってフレキシブルな対応をおこない、距離を変える」ということだった。
彼は「自分のスタイルを決めることに興味がない。被写体に一番適したやり方で撮影する。そのためにはどんなスタイルをとっていい。ノンスタイルの発見だ」と言った。
また、インタビューの途中で「インディサイシブ・モーメント」つまりは「非決定的瞬間」という新しい写真集に取り組んでいるとも話していた。

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