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好きなインタビュー記事を賞賛しまくる

心を動かされたインタビュー記事をひたすら褒めまくる、という取り組みをやってみたいと思います。初回の記事はこちら。

日々いろんなインタビュー記事に目を通していますが、熟読レベルで読んでいる媒体の1つにYahoo!ニュース特集があります。

著名なライター陣が手がけることが多く、展開や表現、材料の選び方など非常に参考になります。

その中でも芸術レベルで素晴らしいインタビューだと思ったこちらの記事(ライターは岡野誠さん)について、僭越ながらグッときたポイントをシェアしたいと思います。

1.タイトル|読者の期待に応えつつ意表をつく

毒舌、あざとい、勘違い、女子アナらしくない――「聞きたくないです」弘中綾香が目指す革命

アンチの方とそうでない方、両方の目に止まる言葉選び。「革命」という、実際に弘中さんが発した言葉を使うところに職人技を感じます。

「『聞きたくないです』と耳をふさぎながらも、『革命』を目指してるってどういうこと?」と読者の関心を惹く内容。視覚的な美しさも完璧です。漢字とかな、記号のバランスが適切なので、一瞬で頭に内容が入ってきます。

2.リード|熟語を利用したキレのある要約

可愛すぎる、毒舌、あざとい、勘違いしている――。テレビ朝日の弘中綾香アナウンサーは、常にネット上で称賛と批判にさらされている

インタビューの前提を短くスパッと言い表した黒字部分は、できるようでできない表現です。

わかりやすく書こうと思うと、ついひらがなが多くなります。私なら「ネット上で称賛されることもありつつも、多くの批判にさらされている」と書いてしまうと思います。

それを熟語2つを並べてキレッキレに記事の冒頭を飾っているんですね……。

3.小見出し|短く、全てを語らない

自分にとっては普通のこと
アナウンサーになる気はなかった
ランキングは「ホントなんですかね?」

記事の中の小見出し(抜粋)です。媒体のルールなのかもしれませんが、すごく短いんです。

昔ある編集者さんが、「見出しで段落全体の内容がわかるようにしている」と言っていましたが、この短い見出しでは段落の内容は全くわかりません。

その代わり、「そうなの?」「どういうこと?」と、読者を次の段落に進めるマリオカートのダッシュボードのような役割を果たしているんです。

情報を伝えることが主な目的の記事であれば、段落の内容を包括した小見出しが好まれるのかもしれません。

でも、ルポ形式の場合は小見出しは短い方がかっこいいですし、小見出しで下手に語らない方が、次への興味を持ってもらえると思います。

4.地の文|ライターの客観的な視点

SNS全盛の時代、「周囲からの見られ方」を気にする風潮が強いなか、弘中綾香は堂々としている。

これは、インタビューで弘中さんが話したことではなく、ライターである岡野さんが感じたことです。

他にも、岡野さんが感じたであろうことは、地の文の中にさりげなく散りばめられていて、記事に立体感を持たせています

ルポ形式(地の文+「」)の場合は、聞き手の客観性を文章に付与できるがの、大きなメリットになります。

なぜライターの所感や思考を地の文で記載した方が良いかというと、読者が聞き手の心の動きや思考を追体験することで、単に話し手の一人称の文章を読むよりも、大きな学びを得られることがあるからです。

5.会話文|一見なくても良さそうな箇所を残す

「(一般的な)向こうの尺度で測られたくないんです。何で決めつけるんだろうと思って。最近、『いい年だから結婚したほうがいいんじゃない?』とよく言われます。結婚イコール幸せと決めつけている。でも、私は今も幸せです。(人生を)自分の力だけではどうにもできないかなと感じた時、二人になったら幸せになれると思うのかな。わからないですけど

この太字部分、私だったら絶対に削っていたと思います。なぜなら本論には全く関係ないですし、その前の会話文だけでも、うまくまとめられそうだからです。

でも岡野さんはあえてこの部分を残しています。その意図はわかりませんが、この部分があることによって、弘中さんの迷いや悩んでいる様子が目に浮かぶなと思いました。

弘中さんは何にでも明確な意見を持っていそうだけど、意外に揺らいでいる部分もあるのだな、と。そうした部分を見せる意図があったんじゃないかなと想像します。

理屈だけを意識して記事を書いていると、こうした人間性が豊かに現れる部分は記事から抜け落ちてしまいがちだなと反省させられました。

6.写真|文章と表情を連動させる

「リスナーの笑いを誘っていた。」  →笑顔の写真
「違和感を覚える世の風潮がある。」 →首を傾げる写真

弘中さんの表情の豊かさが、この記事にメリハリを与えています。そして配置が非常に適切です。上のようにテキストの内容やニュアンスと直後の画像が連動していると、文章と写真の相乗効果で内容が深く理解できます

昔ある広報の方に「社員が下を向いている写真は使わないでください」と言われたことがありました。

そのときはやむなく削除しましたが、逡巡している表情が記事に奥行きを持たせることもありますし、笑顔だけでなく悩んだりしている表情も見せた方が、取材対象者への好感度は増すのではないかと思います。

7.締めの文|リズム・美しさ・客観性

陰での努力など見せる意味がない。テレビを見て、ただ楽しんでくれればいい――。大勢が無責任に他人を批判し、努力をひけらかすなかで、弘中はそんな雰囲気に惑わされることなく、ただ黙々と、自分らしさを貫く。

締めの文章は読後感に影響する超重要なポイントです。内容もさることながら、この文章の美しさがわかりますか?

一歩ずつゆっくりと踏みしめるようなリズムにのせて、岡野さんの「感じたこと」が重厚に届く。何か、歴史の目撃者になったような気持ちになります。

こんな文学的センスの溢れる締めの一文が書きたいーー。そう思いながらいつも、原稿の前でウンウン唸っています(笑)

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以上です。岡野さん、勉強させていただきありがとうございました。

岡野さんは他にもアナウンサーの記事をYahoo!ニュース特集で書かれています。そちらもぜひ読んでみてください。





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